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ラティオ・レコード ~砕かれた薔薇と復讐の玉座~  作者: Muu-S


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34/48

【第34話】孤独

【注意】

この話には、精神的に非常に重い展開が含まれます。

苦手な方はご注意ください。


「貴様が天帝王の玉座に就くなど、造作もない。この絶対神ウプロンドが、真実という名の欺瞞を語り、人類を跪かせてみせよう」


「見ていた通り、彼らは自ら考えることさえ放棄した愚民だ。我が与えた常識という名の鎖で、いかようにも誘導できる」


「貴様を踏みにじり、嘲笑ったいじめの加害者どもに報復するも良し。この世界全ての人類を、好きに蹂躙するも良し!」


「貴様の復讐の炎を、心行くまで燃やし尽くせ!」


「しかし、一つ条件がある。我が見て来たあらゆる支配構造の結晶を、貴様がアレンジして実行することだ」


「どうだ、テリアル? 面白そうであろう?」


「貴様の憎悪を最大限に満たし、この世界を意のままにできる、この最高の提案は!」


「どうだ? 悪くはないだろ? これが無理なら、お手上げだ」


「ハッ! 諸悪の根源たる貴様が、よくも偉そうに!」


「願いなど三つもいらねぇ……俺の復讐は、その玉座一つで、全てが完結する!」



   ◇ ◇ ◇



「俺は、俺を嘲笑ったあの愚かな奴らを絶対に許さない」


「そして何よりも、俺の人生を玩具のように弄んだ貴様を、絶対に許すものか!」


「だが、お前には、今、この場で勝てないと認める……だから、その悪趣味極まりないその提案……飲んでやる」


「……ああ、やっぱり。テリアルは、その憎しみに打ち勝つ道ではなく、それを選んでしまったのね」


 ノノイは、悲しそうに言った。


「私たちが目指した世界の救済は、泡と消えた。結局、テリアルは支配者を選んでしまった」


「ウプロンドが望んだゲームは、形を変えて続いてしまうのね……」


「テリアルの心が、どれほど深く引き裂かれたか、痛いほど理解している」


「でも、テリアル。その冷え切った玉座は、貴方の深い孤独を、憎しみで塗り固めるだけよ」


 ノノイは、問いかけた。


「その場所で、テリアルは本当に満たされると思っているの?」


「ノノイ……満たされるとは思っていない。俺に残っているのは、奴らをこの手で引きずり下ろすという、灼けるような憎悪だ」


「そして、この憎悪が消えることは永遠にない」


「ノノイ……お前は俺の、一瞬の光だった」


 俺の声が、わずかに震えた。


「俺の考えを変えるには、短すぎたんだ。もし、あと数年、君とあの村で平穏に過ごせていたら、運命は変わったかもしれない」


「俺は、あの『地獄の記憶』を手放せない。お前を選ぶことは、復讐を捨てることだ。今の俺には、それはできない」


「その結果が、これだ」


「……テリアルは、満たされないと、分かっていたのね。それが、今のテリアルの真実なのね……」


「バスティオから話を聞いてテリアルの痛みが、世界への憎悪に変わっていくのが、私には手に取るように分かっていたからこそ……」


「その憎悪の炎から、貴方を守りたかった。だからこそ、私はテリアルのそばにいたかったのに……」


「ノノイ……」



   ◇ ◇ ◇



「おい、テリアル! ふざけんな!」


 バスティオが、怒りを込めて叫んだ。


「俺たちが命懸けで戦ったのは、このクソッタレな理不尽を終わらせるためだろうが!」


「それなのに、てめぇが新しい天帝王になるだと!?」


「冗談じゃねえ!」


「テリアル! お前は、俺の親友だろ! 答えろ!」


 一拍の、重い沈黙。


 俺は、ゆっくりと親友から視線を外した。


「悪いな、バスティオ……お前が信じた『勇者』は……もういない」


「俺は、引き返すことなどできない場所まで、とうの昔に振り切っていたんだ」


「じゃあ、リフィエはどうなる! 俺たちを信じてくれた父さんまで、テメェの復讐の炎に巻き込む気か!?」


「お前の妹と親父は、ヴェンが作ったあの村に連れて行けばいい。あそここそ、平和な世界だ」


「この俺が天帝王として保証する。あの村だけは、誰が何と言おうと手出しさせねぇよ…」


「………」


 バスティオは、何も言えなかった。



   ◇ ◇ ◇



「さて、哀れな勝者たちよ。貴様たちの番だ」


「何を望む?……ああ、だが残念ながら、もはや我にはその願いを叶える権限はない」


 ウプロンドは、嘲笑を浮かべたまま、俺を指し示した。


「何故なら、このラティオ星の天帝王は、今この瞬間、我の提案を受け入れたことで、形式上、テリアルに引き継がれたからだ!」


「どうだ、天帝王テリアル。貴様の新たな権力を使えば、彼らの願いは真の意味ではないが、形式上は全て叶えられるぞ?」


「願いは大体分かっている。俺に出来るのは、あの村の安全を永続的に保証することだけだ」


「ノノイ、バスティオ、リフィエや親父さんは村に居れば安全で平和だ」


「そして、天帝国には戻らない方がいいだろう……」


「テリアル……俺たちと本当に縁を切るってのか?」


 バスティオは、信じられないという顔をした。


「俺たちが一緒に壊すと誓った理不尽な世界を、お前が引き継ぐというのか!」


「テリアル! 覚えてるか!? 勇者学校で初めて会った時のことを!」


「森に行った時にお前が一人で訓練してるのを見て、俺は心から嬉しかったんだ! やっと本物の友達ができたって!」


「親父に誓ったんだ。この親友と一緒に、腐った世界を変えるって! リフィエにも約束したんだ。『お兄ちゃんが世界を平和にしてくる』って!」


 バスティオは、涙を流した。


「なのに……なのに、テメェは……テメェはっ! 俺の親友じゃねえのかよ!!」


「……バスティオ」


「お前が信じた勇者は、あの地獄のような日々で、とうの昔に死んだ」


「俺は、もう別の個性になったんだよ! 駒として利用しようともした!」


 俺は、バスティオから目を逸らした。


「すまない……お前の親友は、もういない」


「嘘だ……」


 バスティオは、膝から崩れ落ちた。


「嘘だろ、テリアル……」


 その時、ノノイが痛みに耐えるように静かに立ち上がった。


「テリアル。貴方が選んだ道は、貴方を満たさない。貴方自身、それを分かっているのね」


 ノノイは、俺の目をまっすぐ見つめた。


「あの村で過ごした二年間。貴方の心が、ほんの少しだけ温まったのを、私は知っている」


「貴方が私の膝で眠った時、幼い子供のように甘えた時、貴方は本当は……愛されたかったのよね」


 俺は、何も言えなかった。


「でも、貴方はその温もりよりも、憎悪を選んだ」


 ノノイの目に、涙が浮かんだ。


「私は……私は貴方を愛していた。今も愛している」


「だからこそ、貴方がその冷たい玉座で、永遠に孤独に凍えることが……何よりも辛いの」


「ノノイ……」


「貴方の隣にいられないのなら……せめて、遠くから祈らせて。貴方が、いつかその冷たい場所から、光のある場所へ戻れるように」


 ノノイは、涙を拭った。


「バスティオ、行きましょう。ヴェンじいの村へ」


「あそこは、私たちが人として生きられる唯一の場所よ」



   ◇ ◇ ◇



「クソッ……くそったれ!」


 バスティオが、悔しそうに立ち上がった。


「分かったよ! だが、俺はテメェの親友だったことを、最後まで忘れてやらないからな!」


「さようなら、テリアル……」


 バスティオは、涙を拭った。


「いつか……目が覚めたら、また会おうぜ。テリアル……俺、待ってるからさ」


 俺は、全身の憎悪という名の緊張の糸が切れて、床に崩れ落ちそうになるのを必死に堪えた。


 体を引きずりながら、去っていく二人の背中を、ただ見守ることしかできなかった。


 バスティオとノノイの姿が、真っ白な廊下の奥へ消えた瞬間、玉座の間の豪華絢爛な装飾が、急に冷え切った石棺のように感じられた。


 心の奥底で、幼い頃に両親を失った時以来の、途方もない孤独が砕ける音がした。


 だが、俺は玉座を捨てなかった。憎悪こそが、俺の命綱だったからだ。




━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


【第34話 終わり】


次回:【第35話】欺瞞


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ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

次回もお楽しみください。

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