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ラティオ・レコード ~砕かれた薔薇と復讐の玉座~  作者: Muu-S


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【第32話】紫の血


 憎悪に満ちた俺の斬撃は、神速で非物質化するウプロンドの姿を捉えることはなかった。


 だが、訓練によって研ぎ澄まされた俺の全身の感覚は、奴が玉座の左奥で再び物質化する、わずか0.01秒の『再構成の隙』を正確に捉えていた。


 俺は剣を振り抜きつつ、もう一本の短剣を構え、その隙目掛けて猛進した。


「貰った!」


 俺の短剣は、ウプロンドの四枚の翼の根元を深々と切り裂いた。


「ぐあッ……!?」


 ウプロンドから、甲高い悲鳴のような苦痛の叫びが迸った。


 紫色の血が噴出し、玉座の白い床を汚す。


 その傷は、彼の動きを一瞬、凍り付かせた。


 玉座の間は、静寂ではなく、ウプロンドの荒い息遣いと、俺たちの高揚した呼吸で満たされた。



   ◇ ◇ ◇



「チッ……この我に、傷を負わせるだと?」


 ウプロンドの表情に、初めて焦燥と、侮辱された者特有の苛立ちが浮かんだ。


 彼は、憎悪に満ちた目で俺たちを睨みつける。


「ウォーッ! やったぞ、テリアル! 奴を追い詰めている!」


 バスティオは特大剣を構え、ウプロンドをさらに追い詰めるべく、力と柔軟性を兼ね備えた連撃を繰り出す。


「逃がさないわよ! 貴方の動きは、もう読めている!」


 ノノイは、疾風のような動きでウプロンドの周囲を駆け回り、瞬間移動を阻止するかのように、僅かな空間の歪みを短剣で叩く。



   ◇ ◇ ◇



「フム、フム! ハァ、ハァ……面白い! 面白いぞ、勇者たち! だが、小賢しい小細工が、永遠に通用すると思うなよ!」


 ウプロンドは、傷口から紫色の血を流しながら、大きく荒い息を吐いた。


 彼の瞬間移動の頻度に、わずかながら間隔が生まれ始めている。


 彼は再び非物質化しようとするが、ノノイの正確な短剣の牽制と、バスティオの特大剣の圧倒的な威圧感がそれを許さない。


 追い詰められたウプロンドは、物質化したまま、その異様な鳥の足で猛烈な蹴りを放ち、手の鋭い爪でバスティオの巨体を切り裂いた。


「ぐっ……! なんのっ!」


 バスティオは、防御に徹し、特大剣を盾に受け止める。


 その衝撃で体勢を崩し、膝を床に着くが、決して倒れない。



   ◇ ◇ ◇



 その瞬間、ウプロンドはバスティオの上空へと瞬間移動し、エネルギー構造体として宙に留まろうとした。


「させるかよ!!」


 俺は、視覚を完全に閉ざし、ウプロンドの存在の振動を捉えた。


 空中で再物質化する寸前の、一瞬の硬直。


 俺は、剣に全身の憎悪を乗せ、真上へ向かって斬撃を放った。


「ギャアアアアアア!!」


 その斬撃は、ウプロンドの胴体側面を深く切り裂いた。


 奴の断末魔のような叫びが、玉座の間に響き渡る。


 ウプロンドは、バランスを崩し、紫色の血を撒き散らしながら床に転がった。


 彼はすぐに立ち上がるものの、その動きは明らかに鈍重になっていた。


「な、なぜだ……貴様らごときに……この我が、こんな……!」


 ウプロンドは、初めて明確な息切れを見せた。


「ゼェ、ゼェ……」


 呼吸を整えるかのように、肩で息をした。


 彼の体からは得体のしれない圧が渦巻いているが、その制御に乱れが生じているように見えた。



   ◇ ◇ ◇



 俺たちは、この千載一遇の好機を逃すまいと、三者連携の追撃を開始する。


「今よ!」


 ノノイが、素早く側面に回り込み、ウプロンドのバランスを崩す。


 その隙に、バスティオが特大剣を頭上から振り下ろし、俺はウプロンドの顔面目掛けて憎悪を込めた剣を突き出した。


 勝利は目の前だった……


 しかし、奴の底力は、俺たちの想像を遥かに超えていた。


「黙れ!!」


 ウプロンドは、突然、全身から得体のしれない圧を解き放った。


 その衝撃は、俺たちの研ぎ澄まされた感覚を一瞬にして麻痺させ、聴覚と視覚の全てを奪い去った。


 全身を襲う、形容しがたい衝撃。


 まるで電撃を食らったかのようだった。


 俺の体は吹き飛び、壁に叩きつけられる。


 激しい痛みが、背中を貫通した。


 バスティオの特大剣が甲高い音を立てて弾き飛ばされ、ノノイの華奢な体は、羽のように宙を舞った。



   ◇ ◇ ◇



 意識が朦朧とする中、俺の視界に戻ってきたのは、紫色の血に濡れた玉座の上で、荒い息をしながらも優雅に佇むウプロンドの姿だった。


 俺たち三人は、満身創痍で床に倒れ伏した。


「フム……。ハァ……ハァ……この激痛を伴う対立! 実に堪らない!」


「久方ぶりに、愉悦の汗をかいたぞ、勇者たち……最高だっ!!」


 床に倒れ伏した俺の喉の奥から、憎悪だけが絞り出された。


 肉体の痛みよりも、この屈辱的な敗北と、奴の歓喜に満ちた嘲笑が、俺の神経を苛む。


「このっ! クソ野郎が……!」


 俺は、苦痛に顔を歪めた。


「ぐっ……この化け物め……!」


「て、テメェは本当に……狂っていやがる……!」


 バスティオが、苦痛に喘いだ。


「人の苦しみが、そんなに楽しいのか!」


「くっ……」


 ノノイが、悔しそうに言った。


「あと少しだったのに……! ここで終わらせるわけには、いかないわ!」




━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


【第32話 終わり】


次回:【第33話】土俵


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ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

次回もお楽しみください。

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