【第27話】掌の上
「儂は、『自分の世界を作りたいと願い、奴は儂の村に手出ししない』代わりに、儂をリンティカ天帝国に戻れぬように指名手配犯にした」
「もう一つの条件に、優秀な勇者を連れてくるようにも言ってきたのじゃ。こうして、儂の活動が始まったのじゃ」
「おいおいおいおい! 絶対神ウプロンドだって!?」
バスティオが、驚きに声を上げた。
「どういうことだよ!? 説明してくれ!」
俺は、このジジイの爆弾発言に自分の耳を疑った。
「サルドゥールを見たじゃろう?」
ヴェンは、静かに語り始めた。
「遥か大昔の話じゃ……奴はのう、極度の戦闘狂なのじゃよ」
「彼は戦ってくれる敵、つまり、我々人間を遺伝子操作で作り、サルドゥールを作ったのじゃ」
「秩序というルールを作り、願いを叶えるという甘い人参をぶら下げ、強いものが世界を牛耳る階級を作ったのじゃ」
「弱いものは貧民街へ、強いものは超高層マンションへじゃ。その後、より強い人間と戦うため、リンティカ天帝国を作り、強い者のみを移住させたのじゃ」
「彼は魔物を作り、サルドゥールを襲わせ、性能テストを行ったのじゃ」
ヴェンは、重要な真実を告げた。
「魔物と言うのは、人間のみを襲う『生物型機械兵器AI』、つまり機械なんじゃよ」
「あの、どろっとした黒い血は動力源であり、あのザラザラしたものはナノマシーンじゃ」
どうりで、魔物の肉が食えないわけだ。
「そうか……機械にしては随分、生物的な行動をとるよな、痛がったりするし、なんでわざわざそんな行動をとる必要がある?」
「ウプロンドの趣味じゃ、無駄のある動きだとしてもその方が戦闘狂の彼にとっては楽しい娯楽となるんじゃ」
「チッ! 狂っていやがる……」
「リンティカ天帝国という閉鎖的な国で厳重な防壁を作り、魔物の『脅威を大きく見せ』、人間が強制的に強くなるように……」
「歯向かってくるように、『宗教や秩序などで人々をコントロール』し、外の世界に疑問を持たないように、マッチポンプを作ったのじゃ」
「そう、彼はのう、人々の苦しみ、その『負のエネルギーを美味なる餌』にしておるのじゃ。人が藻掻けば藻掻くほど、彼は満たされる」
「だからこそ、この世界の人間を、これほどまでに苦しめておるのじゃよ。『全ては彼の掌の上で転がされておる』」
「人々の目が死んでおるのは、そういう真実があるからなのじゃ」
ヴェンは、さらに重要な真実を告げた。
「そして奴はのう、神でも魔神でもない、ただの命ある生命体、『鳥族系人型宇宙人』じゃ」
「奴がこの世に物質化しておる限り、倒せぬことはない」
「ちょ、ちょっと待ってくれよ、ヴェンじい! 『物質化していれば』って、どういうことなんだ!?」
「文字通りじゃよ。彼は物質化したり、非物質化したりすることが出来るのじゃ」
「つまりのう、彼は生命体になったり、エネルギー構造体になったりする」
「普段からエネルギー構造体として存在しているからこそ、奴はとてつもなく長生きしているのじゃ」
「奴はそれで一瞬で移動し、攻撃を仕掛けてくるから、その対策を練るのが肝心じゃろう」
「チッ……ジジイの話は強烈すぎて、俺の頭じゃ整理するのに時間が欲しいくらいだぜ」
「ああ……」
バスティオが、力なく言った。
「しかも、俺たちが倒そうとしているのは、あの『絶対神ウプロンド』ってことだろ?」
「ハハッ……やべぇぜ、マジで」
「そうじゃが戦うのなら、彼は神ではないということを忘れてはいかんぞ」
「チッ! ……とことんクソみたいな世界だな」
「おい、ジジイ。魔物や魔神に殺されたら魂ごと消されるって聞いたことがある……それは本当か?」
「そんなわけなかろう。奴が自分の都合のいいように、この世界の基盤を作ったのじゃ、皆だまされておる」
俺も皆も騙されていた。こんな世界で平然と生きていただけでも反吐が出る。
「はっ! やっぱりか、気持ちのわりぃ世界だな……許せねぇ」
「話が終わったなら、俺はとっとと森に入って、そいつと戦う時の対策を練ってくる」
◇ ◇ ◇
あのジジイの話には、毎回度肝を抜かれる。これ以上驚くことはないと思っていたのにも関わらずだ!
俺は、どう戦うか考えていた。つまり、魔神は『瞬間移動』をするということだな……
だったら、目を閉じ、全ての感覚を研ぎ澄ませばいい。
敵のわずかな気配、風の流れ、地面の振動……全てを捉えるんだ。
俺は、視覚に頼らない、研ぎ澄まされた感覚で敵を捉える訓練を始めた。
数日後、修行に没頭する俺に、ノノイが近づいてきた。
「テリアル、最近、目を瞑って訓練してるでしょ?」
「もしかして、感覚を研ぎ澄ませる修行?」
「ああ、だから何だってんだ?」
「じゃあ、私が訓練相手になってあげるよ!」
「……いらねぇ」
「ううん、私も訓練したいんだ」
「テリアルが目を瞑っている間に、私が攻撃するから、テリアルは私を止めたり、反撃したりすればいいの」
「ね? 相手がいた方が、ずっと効果的な訓練になるでしょ?」
「勝手にしろ。だが、運悪く俺に斬り殺されても、文句は言うなよ」
「大丈夫!」
ノノイは、自信満々に言った。
「私だって、見た目よりはずっと強いから!」
そうして、俺は時々ノノイを相手に訓練をするようになった。
バスティオも、どうやら俺と同じ訓練を始めたらしいと、ノノイから聞いた。
この村の、妙に『のんびりとした雰囲気』のせいか、凍り付いていた俺の心にも、微かに、ほんの少しだけ、角が取れてきたような気がしていた……。
俺は、この腐りきった世界への復讐という目的のために強くなる。
だが、ヴェンという老人の情報がなければ、おそらくその試みは無謀なものだっただろうと、今なら理解できる。
目にも留まらぬ瞬間移動なんて、誰が捕らえられるものか。
理屈だけでは無理な話だ。感覚に頼らなければ。
俺は、自分の冷え切った心が少しだけ動かされるのを感じながら、口の中で呟いた。
この村で、俺は『自分の感覚を研ぎ澄ませる修行』を、この俺自身が納得するまで続ける。
それは、目的を達成するための、あくまで手段に過ぎない。
◇ ◇ ◇
ノノイはいつものように近づいて来る。うるさくてイライラする。
「テリアル、デザートですよ~!」
「いらねぇ」
俺は、顔も向けずに答えた。
「でも、テリアルの好きな――」
「いらねぇって言ってんだろ!」
1週間後。
「テリアル、デザートですよ~!」
「………」
俺は、無言で受け取った。礼は言わない。だが、食べた。
……美味い。
だが、それを口には出さなかった。
1ヶ月後。
「テリアル、今日はどうだった?」
「……別に」
俺は、素っ気なく答えた。
「訓練、進んでる?」
「……ああ」
以前なら、「黙れ」で終わっていた。だが、今は……わずかに、答えている自分がいた。
3ヶ月後。
「はい、テリアル! 大好きなデザートですよ~!」
ノノイが、明るく言った。
「……チッ、……ああ……」
受け取る。
「……悪くねぇ」
小さく、呟いた。
ノノイの顔が、ぱっと明るくなる。
「ちゃんと食べないと、体力が落ちちゃいますからねっ!」
……うるさい女だ。だが、嫌いではない。
俺を相手にして、何が楽しいんだか。
「……チッ、……あ、ああ……礼は言わねぇからな」
相変わらずの素っ気ない態度で受け取る。口元には隠しきれない不満が滲んでいるものの、以前のような拒絶はなかった。
「ははは! テリアル、お前も随分と丸くなったなぁ! やっと元気を取り戻してくれて、本当に良かったぜ!」
バスティオは、俺の変化を心底嬉しそうに、豪快な笑い声を上げた。
「チッ! うっせぇよ……」
俺は、顔をしかめた。
「もう、お前らが良い奴らだってことは、嫌というほど分かったから、それ以上言うんじゃねぇっ!」
俺は、吐き捨てた。
だが、その言葉には、今まで決して認めなかった本音が、怒りにも似た感情と共に漏れ出ていた。
こいつらの底知れぬ善良さが、俺の心に小さな亀裂を入れている。
「のう、テリアルや」
ヴェンが、穏やかに言った。
「お主がこうして丸くなった理由が、お主自身には分かるかのう?」
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
【第27話 終わり】
次回:【第28話】共振
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。
次回もお楽しみください。




