AI株価暴落なるか☆そるか
日本株式船〈ニッケイ・フロンティア〉は、AI が提案する投資アルゴリズムに依存していた。ある日、航行記録に「株価50万円突破」の祝賀ログが残されるが、実際に船の資産を押し上げているのは通信メーカーと量子半導体メーカーのたった2銘柄だけだった。AI は「期待感が実体に先行するのは正常」と言うが、クルーの間には「AI が株価を見せかけで維持している」という噂が広がっている。今や、円安は進み1ドルは1,500円を超えている。アメリカで食べるラーメン一杯は、2万円を超えていてまるで高級料理店のようだ。いまだ、日本で食べるラーメンは500円から1,000円程度ではあった。
日本株式船のクルーたちの給与は、現金ではなく株式で支払われていた。それは、ストックオプションという日本株式船の会社のものではなく、株投資で取引される株の好きなモノから引けるというものだった。
当初、クルーたちは AI が指示する株を購入していたのだが、そこに疑惑が湧いていた。
一見、上がるような株を AI は薦めてくるのだが、いまひとつおかしい。先の株価50万円突破のときも、さして上がらないような株を以前薦めてきたのだ。
クルーであるなるかは、そのことを AI に問いただした。
「AI さんよ。株価が50万円を超えたと聞いたけど、実際に上がっているのは2銘柄だけじゃない? 他の株はさっぱり上がっていなかった。これっておかしくない?」
「なるかさん、ご指摘の通りです。しかし、株価は期待感で動くものです。実体が伴わなくても、期待感が先行するのは正常なことです。AI は過去のデータを分析するのはうまいのですが、将来を見通すのは AI にとっても難しいのです。みなさんの期待が何処に動くのかを予測しなければいません」
「でもさあ、2銘柄だけをブーストしているように見えるんだけど、、、」
「それは偶然です。その通信メーカーから突然、量子半導体メーカーに大きく投資するとは思いもよりませんでした。本クルーのみなさんの投資額を上げられなかったのは残念ではあります。どうもすみません」
「いやあ、そうじゃなくてさあ。謝ってもらっても困るのだけど。AI に感情があるわけじゃいし...」
そこにそるかが割り込んできた。
「いやいやいや、なるか、AI に当たっちゃあ可哀そうだよ。なにも AI が悪気をもってやっていたわけじゃないんでしょう?」
「そりゃそうよ。AI には感情なんてないんだから、悪気なんてあるわけないじゃない。完全に過去のデータから類推しているだけだから、そこの計算が間違っていたんじゃないか?ってことなのよ」
「でもさ、それって、確率的に発生することなんじゃないの? この船だって、地球から随分離れている訳だし、ええと AI さん、どのくらい離れているんだっけ?」
「ざっと、0.5光年ほど離れています。地球から見ると、かなり遠くにいますね」
そるかが、AI の答えを受け取って、言葉をつなげる。
「そうだよね。だから、AI さんが地球の市場をリアルタイムで見ているわけじゃないんだよね。情報伝達に時間がかかる。過去のデータだって、つまりは半年遅れで情報が届くわけでしょ。これを予測しながら株価を予測しているわけだから、難しいってことじゃないの?」
「でも、そるか。この船にいる私達だって株を買っているわけでしょ。その株を買った情報が、地球に伝わるまでに 0.5 光年、つまり半年かかるわけだから、その動向だって日経の株価に影響を与えているんじゃない?」
「うーん、まあ、そりゃそうだけど、私達が買う株価なんて微々たるもんじゃないの? そんなに影響は与えないでしょう? 大きく買ったところで、全体の株価からみれば大したものじゃない」
「いやいやいや、それは違うかもよ。株価って、つまりは、期待値みたいなものでしょう? これが上がりそうだとか、これは下がりそうだとかいって買ったり売ったりするわけだから、そこの期待を読めばいいんじゃないの?」
「なに? それ、株価の流れを読むってこと? 麻雀の流れみたいな?」
「麻雀の流れは、ちょっとオカルトっぽいけど、株価の流れは確かにあるよ。ほら、あそこに」
そるかは宇宙船の窓から外を指さした。
のるかが、その先をみてみると、そこには、見えない筈の株がどんぶらっこっこ、どんぶらこっこと流れていた。
「ほら、あれが株価の流れだよ。上下に動いているでしょ? これを読むんだよ。AI さんもこれを読んでいるんじゃないの?」
AI は答える
「そうです。株価の流れを読むことは重要です。過去のデータから未来の流れを予測することが、AI の主な仕事です。この流れはフーリエ級数的であり解析が可能なのです。あるいは、サインコサインタンジェントのようなものですね。時にはビックウェーブ的にソリトンが発生することもありますが、あまりにもの勢いで対消滅してしまうこともあります」
「ああ、なるほど、それは大変ね・・・」
「そう、大変かもしれない・・・」
株が天の川に浮かんでいたが、地球の温暖化現象で天の川の水位があがっていたのだ。海面の上昇に従い、天の川の水位があがってあらゆる株価が押し上げられている。たしかに、全体からみれば株価は上がっているように見えるが、それは底上げされているに過ぎない。直近の温暖化現象や天の川の底にあるヘドロによって、株価の全体が見えなくなっているのだ。つまりは、沈んでしまった株価は、天の川の汚れの中に消えてしまうのである。まるで、揚子江かインダス川のようだ。
のるかは AI に言った。
「ひょっとして、AI の株価って、あの薄くてもやもやした株じゃないの?」
のるかが指さす先には、薄くてもやもやした株が漂っていた。もやもやした株には、大きな重りが付いていていまにも沈みそうだ。同時に、風船というか観測気球がいくつもついていて、浮き上がりそうでもある...いや、そんなことはない。下から引っ張っている重りは、到底持ち上げるものではない。
そるかは、ポケットの中から紙の株価(いまでは貴重品だ)を取り出して、メモ書きをして、船の折り紙を折った。そして、そっと株が浮かぶ天の川に浮かべた。
この折り紙の船が地球に着く頃には、そう、0.5光年離れているけども、ここからは1か月ほどで地球に到着するのだ。
時間を遡行して、未来から過去への予測が地球の株価を動かしている。
【完】
ちょっと「That's イズミコ」(大野安之)っぽい、不条理なお話にシフトしてみました。




