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第1話 自由歴100年


 西暦xx年、世界中で無政府資本主義革命の波が巻き起こり、ほとんどの国で政府が消滅した。そして世界初の無政府資本主義国家の誕生した年を自由歴0年とする新たな世界が始まった。

自由歴一〇〇年。

 かつて「政府」と呼ばれていた巨大な箱舟はとっくに沈没し、市場の海の上で人々はそれぞれ自らの価値を証明しながら生きている。


 東京——いや、いまや「トーキョー自由特区」と呼ばれる巨大都市の朝は、鉛より重たい灰色の光で始まった。


 高層ビル群の隙間で赤い警告ホロが瞬き、空を見上げれば警備ドローンが蜂のように飛び交う。

 都市の治安を保つのは、もはや警察ではない。


 株式会社・民警保険。

 保険料を払うことで、犯罪の防犯と捜査、報復をしてくれる——そんな、自由歴らしい会社だ。


 そして俺、

相模レン、17歳。民警保険・特殊排除課の正社員。特殊排除課は人数が少ないが困難な任務をこなす部署で俺含め十人ほど在籍している。


 昔の人たちが苦労していた朝の通勤ラッシュはない。代わりに自動運転タクシーの中で、俺は人工知能を搭載する戦闘用義手の動作確認をしていた。


 黒い義手の内側で、人工知能アダムが小さく震える。擬似感情が昂っているのだろう、今日は機嫌がいいらしい。

 超合金で作られており、マシンガンですら傷つかない強度に加えて、砂一粒をつまみ上げることができるほどの精密性、人工知能の戦闘アシストや物体や情報の解析もこなせる俺の相棒だ。


「今日もよろしくな……」


 タクシーがビルの足元に滑り込むと、薄い青色のホログラムが俺の顔をスキャンした。


《社員ID確認——特殊排除課・相模レン。ご出勤お疲れさまです》


 自動ドアを抜けた瞬間——


「レンっ!」


 背中に、軽い衝撃が走る。


 振り向く前にわかった。

 この無遠慮な距離感で近づいてくるやつは一人しかいない。


「おはよ、レン。今日、初動遅いよ? 寝坊?」


 黒髪を揺らしながら笑っているのは、

久我アキナ。俺の幼馴染にして、同じ特殊排除課のエージェント。


 彼女の頭には、薄い円状の金属が被さっていた。

 装着型人工知能レーダー装置——常に周囲の電磁波や温度を解析して敵の不意打ちや罠を事前に察知して教えてくれる優れものだ。


「寝坊してねえよ。義手がちょっと冷えてただけだ」


「また夜中にメンテしてたでしょ? ほんと好きなんだから。機械いじり」


「……そういうお前は何でそんな元気なんだよ。朝から高速で喋るな」


「生まれつきなの!」


 二人してエレベーターに乗り込むと、社内チャットの通知が光った。

 アキナも同時に読み取ったらしく、眉をひそめる。


《【至急】東京自由特区・第五ブロックで強盗事件。犯人グループは武装済み。

民警保険プラチナプラン会員から救難信号あり——特殊排除課、最優先対応。》


「……朝から面倒な仕事だな」


「ね、レン。先走らないでね?」


「わかってる」


「じゃあ、行こっか?」


「ああ」


 エレベーターの扉が開いた瞬間、

 外の空気が切り替わる。


 戦闘用スーツに着替え、俺たちは二人一組の“ペア”として、案件へ向かう。


 自由歴後の世界では、

 人間は自分の命の価値を自分で決める。


 誰かに守ってもらう時代じゃない。

 守られたいなら契約しろ。

 守る側になりたいなら、殺す覚悟を持て。


「行くぞ、アキナ」


「うん。レンとなら大丈夫だよ」


俺たちは戦闘用車に乗り込みビルを飛び出した。

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