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7日目 蝉の記憶
一本杉の下、夏生は目の前の少女をじっと見つめていた。
「ありがとう。ここで出会ったこと、遊んだこと、忘れない」
夏生は言葉が出ず、ただ黙って少女の顔を見返す。
「これ、あげる」
少女は小さく微笑みながら、手のひらを差し出した。
そこにあったのは、透き通るような蝉の抜け殻だった。
「え……これって……」
頭を上げると、一匹の蝉が光を浴びて空へと飛び立っていく。
その羽ばたきは儚く、でもどこか楽しげで、夏生の胸に静かに響いた。
少女は日の当たる短い時間を、精一杯生きたのだろう。
夏生と出会い、一緒に遊んでくれたことに、きっと感謝していたのだろう。
夏生は、あれが本当に少女だったのか、蝉だったのか、答えを出せなかった。
けれど、胸に残る不思議な感覚は確かで、甘く、切なく、そして温かかった。
それは、自分でも気づかぬうちに芽生えた、初めての恋のような感情だった。短く、儚く、でも一生忘れられない──
あの夏、あの丘、あの少女との時間が、夏生の心にそっと刻まれたのだった。
夏のひとときのように儚い物語でしたが、何か心に残るものがあれば嬉しいです。




