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呪われた侯爵令嬢は、湖のほとりで無口な画家に恋をする。  作者: 久慈 美麗


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5. 支度

パーティーにも王子にも、誕生日を祝賀する以外は特に感想も関心も持ち合わせていなかったエルディネにとっても、その日は割とあっという間にやって来た。


当日は、朝から侍女長のアマリーが大張り切りであちこちに指示を飛ばし、エルディネは朝食後から自分付きの侍女やメイドにされるがままだった。


「お嬢様、湯浴みとマッサージのお時間です!」

「お嬢様、今日の髪型はどうされますか?アップスタイル?ハーフアップ?どちらにしましょう?」

「ヘアアクセサリーは生花と宝石細工のもの、どちらになさいますか?」

「ネックレスのご希望は?!」

「…お任せするわ。でも控えめにお願いね」


朝からしっかり磨かれ、まだ7歳だというのに念入りにマッサージまでされ、侍女やメイドにもみくちゃにされた結果、数時間を費やしてエルディネの支度は整った。

今日のパーティーは、まずは王城の大庭園でのお茶会から始まり、夕方の舞踏会へと続いてゆく。

エルディネはパーティーに参加する前に既に疲れ切っていて気付かなかったが、彼女の支度に携わった者たちは一様に満足そうで、頷き合いながらお互いの仕事振りを讃えあっていた。


「お嬢様、大変お美しいです」

支度が完成したと聞いて、まず最初に部屋をノックして入ってきたのは、邸で一番の古参の執事長ベイスだった。

彼は、まるで自分の孫を見るかのように目を細めて、嬉しそうにそう言った。


次に顔を出したのは、軽食や簡単に摘めるスイーツを持参するのを口実にエルディネの元にやってきた、料理長のバーセと副料理長サーラの夫婦だった。

「エルディネ様、お…」

「まあ、なんて美しいの!」

感嘆の声が部屋に響く。

その、妻の大きく良く通る声に、料理長の賛辞の言葉はかき消されてしまってはいたけれど。

大きな体と腕を動かしながら、如何にエルディネが愛らしいかを伝えようとする口下手のバーゼを、部屋にいた皆が生温かい目で見ていた。

邸の使用人からの賛辞は、その後もしばらく続いた。  


そんな今日の邸の様子を目の当たりにして、普段はもう2人の人格を分けて意識することなど殆どなかったナナミは、エルディネは幸せ者だな、と彼女のことを心から羨ましく思った。

わたしには、友だちもいない、親戚もいない、何よりーーー

たった1人の肉親である母親でさえ、私を褒めてくれたことなんてなかった。

笑わない自分の母親の姿を心にそっと思い浮かべながら、ナナミは痛む胸の辺りをギュッと手で押さえた。


しばらくすると、出発予定だった時刻になり、リザヴェール侯爵が部屋に現れた。

今日の侯爵は、白い礼装用のシャツの上に濃紺の衣装とクラバットを身に着け、栗色の髪をいつもよりすっきりと後ろに流した出立ちで、娘から見てもとても素敵だった。

侯爵はエルディネに手を差し出し、邸前に停車した馬車までエスコートしてくれた。


「我が家の天使は、今日はいつにも増して愛らしいな」

馬車が出発すると、侯爵はアメジスト色の瞳を細めて言った。

今日の日のために誂えたエルディネのドレスは、上半身は淡いブルーで控えめにフリルがあしらわれており、スカート部分は父の濃紺の衣装に合わせて上から下に向かって淡いブルーから濃紺のグラデーションになるように、シフォンが幾重にも重ねられたデザインだった。

「ありがとうございます。お父様も素敵です」

にっこりと子供らしい笑顔を浮かべながら、エルディネは父に言った。

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