鏡
ボクはベットから起き上がる。
アレっ?
視点が低いような気がする。
というより、身体が明らかに若い。手にシワもないし。
ボクは素早く着替える。
間違えない。
この身体は中学生のボク。
家の玄関を出ると、ボクの両親が未来ちゃんの家族に挨拶をしていた。
この日、なんでこんな日に戻ってきたのだろう。
どうせなら、あんなことを言う前の日に戻ってきたかった。
ボクがそんなことを思っていると隣の家から未来ちゃんが出てきた。
ボクは考える間もなく走り出していた。未来ちゃんはボクに気付きニコリと微笑む。
大嫌いだって言われたボクに⋯⋯。
ボクは未来ちゃんのところまで走り彼女を思いっきり抱きしめていた。
「未来ちゃん、好き好き好き好き大好きだあああ。ボクを独りにしないでくれ。お願いだ!」
「ミナト、私は何処にも行かないよ。だって、君が私を見つけ出してくれたんだよ」
未来ちゃんは独り日本に残り両親だけがニューヨークに行くことになったらしい。
「未来ちゃん、あの■■■■■■■■■■■」
ボクの必死の叫びもノイズに掻き消されていく。
管理者の仕業?
ここは現実世界ではないってこと。
『私は命がいいと警告したよね。中途半端なもん差し出したあんたが悪い』
これは『未練堂』の入口にいた婆さんの声。
ボクは未来ちゃんのお父さんのところに行って、何度も叫ぶ。
「■■■■■■■■■。■■■■■■■。■■■■■■■■■」
ボクが発したすべての言葉がノイズに掻き消されていく。
ダメだ!
ボクが直接的な言葉で言っても伝わらない。
これじゃ未来ちゃんの両親が死んじゃう。
「ミナト君、大丈夫だよ。『未来』をよろしく頼むね」
ボクは未来ちゃんのお父さんの言葉に何度も何度も頷く。
どうすれば。
どうすれば。
どうすれば、伝えられる。
ボクがそんなことを考えていたら、未来ちゃんの両親は出発してしまった。
ダメだ。
ダメだ。
これでは生前と一緒だ。
ボクは何をやっても肝心なところで選択を間違える。
どうすればよかったんだよ!
ボクは未来ちゃんと一緒に未来ちゃんの家へと戻った。
「ミナト、私も大好き!」
玄関を閉めるなり未来ちゃんはボクに抱きつく。
これは現実なのか?
それともこれは夢?
夢か現かなんて関係ない。
このまま何もしなければ未来ちゃんの両親はあの飛行機に乗ってしまう。
どうすればいいんだ?
どうすれば⋯⋯。
「ミナト、どうしたの?」
未来ちゃんがボクの顔を心配そうに覗き込む。
「ボクはどうすればいい?」
未来ちゃんはボクの言葉の真意がわからず困惑する。
「どうすればいいって? ミナトのせいで私はここに一人残るのよ。責任とってね」
未来ちゃんは耳まで真っ赤にして呟く。結末を知っているボクは黙り込んでしまった。
そして、お昼すぎ運命の電話が未来ちゃんのスマホにかかってきた。
えっ、スマホ?
「うん、うん、うん。わかった。それじゃ」
未来ちゃんはそう言って電話をきった。気になったボクは未来ちゃんに訊く。
「誰から?」
「お父さんだよ」
最後のチャンスかも⋯⋯。
「ボクもお父さんとお話ししたい」
「えっと⋯⋯。私たちまだ中学生だし⋯⋯」
何、真っ赤になってんだ?
「えっとね。航路が悪天候で欠航なんだって今日は空港の近くのホテルで泊まるって電話だったんだよ」
未来ちゃんの言葉を聞きボクは呆気にとられる。
だったら、生前はなんで飛び立ったの?
「ミナトと会いたいって言うのはミクの願い。ミクの家族の無事はミナトの願い」
明らかに未来ちゃんとは違う声色で未来ちゃんはボクに言う。
ここは現実?
それとも夢?
『夢』?
「未来ちゃん、これは夢だよ。やっと、あの詩の意味がわかったよ。未来ちゃん、身代わりの鏡に戻ろう」
ボクがそう言った瞬間、ボクと未来ちゃんの目の前には鏡がポツンと佇んでいた。