迷宮
ここは?
暗い⋯⋯。
「あらっ、あなたは誰?」
聞き覚えのある女の声。
「ボクは湊。あなたはあの時の女の人ですよね」
ボクの言葉に考え込む女。
「知らないわ」
「迷いの森でボクに泉の場所を教えてくれましたよね。水車小屋の家で会いましたよね」
ボクは必死で声を紡ぐ。
「迷宮は■■■■■■■■■■」
まただ。
肝心なところがノイズがかかっていてまったく聞き取れない。
「ミナト、助けて⋯⋯」
この声は!
次の瞬間、ボクは迷宮の薄暗い入口に倒れ込んでいた。
ボクは立ち上がり迷宮を彷徨う。ダンジョン攻略、そんな軽いものじゃない。迷宮をただ迷っているだけ。
疲れた⋯⋯。
しかも、迷宮の門の部屋からここまでほぼ強制的に連れてこれられている。どこかで小休止くらい取りたい。
しばらく歩いていくと、迷いながら彷徨っているということにはなるが、向こうに灯りが見えてきた。
なんだろう。
あの灯りは⋯⋯。
さらにその灯りに近づいていくとポツンと街灯があった。そこには女の人が一人立っていた。
水車小屋の女の人だ。
でも、この女性の顔や声ってなんだか⋯⋯。
「昨日、お会いしましたよね」
ボクがそう言うと彼女は首を横に振る。
「私には覚えはないわ。さっきの迷宮の門は私だけど。そんなことよりさっきの声は聞き取れた?」
「いいえ、何かのノイズに邪魔されて⋯⋯」
「管理者の仕業よ。迷宮は■■■■■■■■■■」
「ごめんなさい。やっぱりノイズが入ってきて聞き取れません」
『じゃあ、これはどう? 迷宮は旅人の侵入を拒絶する』
「あ、聞こえました。そうなんですね。でも、それじゃどうやって?」
「そうね。だから、私もずっとここで立ち止まってるのよ」
「ずっとって、いつからですか?」
「わからない。もう自分が何者だったかも⋯⋯」
彼女の言葉にボクは言葉を失う。
そんなことがあるのか?
「じゃあ、ボクはもう行きますね。やっぱり迷宮はそんなに長くいてはいけないみたいだから」
「そうね⋯⋯」
ボクは彼女に背を向けて出ていく。
「じゃあ、先に行ってるね。未来ちゃん!」
えっ、未来ちゃん?
ボクは何を言ってるんだ。
そういえば彼女の顔は⋯⋯。
そう思って、ボクは振り返る。
そこにはすでに家はなく、代わりに鏡がポツンと立っていた。
身代わりの鏡?
ボクがそう思っていると、鏡に文字が浮かび上がる。
その夢、真の姿を示さず
その夢、真の時を示さず
その夢、真の意を示さず
我を崇めよ
己を讃えよ
彼を讃えよ
さすれば真の姿を示さん
さすれば真の時を示さん
さすれば真の意を示さん
なんだろう。
やっぱり意味がわからない。