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君逝く朝に  作者: 杉山薫
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迷いの森

 ボクはさっきから小一時間くらい森を彷徨っている。そうだよ。この森の名前が悪い。なんてったっ迷いの森。これて迷わないほうがおかしい。まあ、ボクもすぐに引き返せばよかったのも事実だけだけども⋯⋯。泉どころか小川さえも見つからない。でも、この森の木々はどっから水分を吸収してんだよ。


そんなことを考えていたらボクの耳に水のせせらぎの音が届いた。ボクはその方向へと必死に走っていった。


アレ、水のせせらぎの音の他に何か木が擦れるような音がする⋯⋯。水車だ。その隣には小さな家があった。


よし、あの家の人に泉の場所を訊こう。


 ボクは水車の家の玄関の前にいる。少し、いやかなりビビっているのだ。だって、迷いの森にポツンとある一軒家だよ。なんだろ。魔女かなんか出てきたらどうしよう⋯⋯。


そんなことをやってると、玄関の扉がギイと開く。


「ちょっと、そこにいられると眠れないんだけど⋯⋯」


すっごい美人さんだ。


「すいません。泉に行きたいんですが道に迷ってしまって」


「道?」


そう言って彼女はクスクス笑った。


確かに道なんてないか⋯⋯。


「泉ならこの先にあるわよ」


彼女の指差す方向を見ると確かに泉がある。さっきまでは木々しか見えなかったけど。


「あ、■■■■■■■■■■■■■■」


ノイズのような音がして聞こえない。


 ボクが彼女の方に振り向くとそこには水車も家もなく、一つの墓標があった。すでに何が書いてあるのか、かすれて分からないが確かにそれは墓標だった。ボクは気を取り直して泉の方へと歩いていった。


 泉を覗くとボクの顔ではなく、入口で居眠りをしてたお婆さんの顔が水面に映っていた。


「おや、やっと来たかい。ずいぶんと遅かったね」


「道に迷ってしまって」


「迷いの森だからね。それで私に何をくれるんだい」


『命と言われても拒否しなさい』


さっきの水車のところの女の人の声だ。


「えっと、じゃあボクの唯一の未練とかじゃダメでしょうか?」


「それはその世界に入るときに渡したはずだろ。あんたの命でどうだ? いい思いをさせてやるよ」


どんな思いだろう。

興味ある。

あるけど⋯⋯。


「じゃあ、ボクの二十歳から六十歳までの四十年間の記憶とかでいい?」


「私は命がいいんだけど、まあいいか。でも、お前気前がいいな」


気前がいい?

そうかな。


 ボクは森の泉を離れて森の外に向かって歩いていく。


外だ!


なんかすっげえ馬車が停まっている。馬が一、二、⋯⋯、六頭付いているすっげえ馬車だ。


アレ、昨日屋敷の玄関で会った男の人だ。


「旦那様、お帰りなさいませ」


ハイ?


ボクがキョロキョロと周囲を見回していると彼は馬車のドアを開ける。


「旦那様、こちらへ」


馬車の中は高そうな絨毯が敷き詰められている。長椅子もすごく高価そう。


「あ、でも森で迷って汚い格好で汚れちゃうから」


ボクがそう言って乗車を躊躇っていると彼がこう言った。


「旦那様の馬車ですので支障はございません」


ボクの馬車?


ボクは仕方なく馬車に乗った。椅子に座るのはさすがにマズイと思い絨毯にペシャリとしゃがみ込む。


「それでよろしいのですか」


彼がそう言うのでボクは頷く。


 馬車は砂利道を走っていく。


多分?


昨日の荷馬車とは違い、まったく振動が伝わってこないので自信がない。ボクはカーテンを少し開けて窓の外を見る。すごいスピードで走っている。


そりゃ、馬六頭で引っ張っているんだ。当たり前だね。


しばらくすると、馬車のドアが開く。


停まっていたのか!


「旦那様、到着いたしました。どうぞお降りくださいませ」


昨日の大きな屋敷だ。ボクは馬車を降りて馬小屋へと歩き出す。


「旦那様、どちらへ?」


ボクは馬小屋を指差す。


「馬小屋に御用でも?」


「寝床があるから」


ボクの言葉を聞き男は呆れる。


「旦那様の寝床は屋敷の中にございます。お入りくださいませ」


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