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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

聖女が魔女から調薬を学んだ結果

作者: 高月水都

 先視の聖女。それが、わたくしローゼライトに付けられた聖女のとしての役目。称号である。

 夢という形で未来を見て、それを回避するために手を回すのがわたくしの役割で、それを誇りにしていた。


 だから、此度の夢も回避しないといけないと判断して、回避方法を模索して、思いついたのだ。



「だからって、まさか聖女サマが魔女の元に来るとは思いませんでしたよ」

 森の外れ。知る人のみ来れる結界の張られている魔女の住処。そこに護衛をつけずに向かったのはそんな結界があるという理由の他に護衛をつけないで会いに来るのが自分に出来る誠意の形であったからだ。


「無礼を承知しています。森の魔女さま。――いえ、賢者の末裔さま」

 今でこそ魔女と言われて恐れられている存在であるが、かつては森の知識を持って人々を助けてきた賢者と呼ばれていた存在。


 人々が森からもらう僅かな恵みに満足できなくなった結果。賢者たちが止めるのも聞かずに森の恵みを奪い続けて、その影響で森が荒れて、災厄が発生したのを知識を分けてくれた賢者のせいだと罵り、自業自得なのに事実から目を背け魔女と呼ぶようになって迫害するようになった。


「懐かしい呼び方をされたね」

 魔女――賢者の末裔は嘲笑する。


「で、何しに来たんだい?」

「賢者の知識。毒を解除する妙薬の作り方を伝授してもらいたいのです」

 簡単に教えてもらるものではないと理解している。だけど、近いうちに訪れる危機にはその妙薬が必要なのだ。


「いいよ」

「もちろん。無茶は承知でっ!! って、………はい?」

 何でもやりますので教えてくださいと必死に頼み込もうとアピールポイントを言おうとしたが、聞き間違いなのかあっさり許されて聞き間違いだろうかとまじまじと見てしまう。


 フード越しなので顔はきちんと見えない。


「だから、教えてあげるよ」

「いいんですかっ⁉」

 そういうのは秘密だったりするものでは………。


 教えてもらえるのなら嬉しいのに焦ってしまうのは本当にいいのかと不安になるからだ。

「門外不出とか思っていました……」

「まあね。かつてはその妙薬を欲して森を荒らす輩がいたから存在を隠していたけど、護衛もなく、一人で来て、ここまで礼節を持っているんだからね。そういう子には教えたくなるってもんよ」

「ありがとうございます!!」

 心からお礼を述べると賢者の末裔さまはじっとこちらを見て、

「だけど、実際に妙薬を使用するのかい? それでお前さんの立場が悪くなると……」

「――ですが、それを使って悲劇を防ぐのが先視の聖女(わたくし)の役目ですから」

 胸を張って宣言すると賢者の末裔さまは声をあげて笑う。


「その強がりが未来を変えた先にもあるといいねぇ」

 預言のようにそんなことを言って、妙薬の作り方を……材料の見極め方からしっかり教えてくださり、その時に備えた。




 妙薬の作り方を覚えて、一人で作れるようになってしばらくして、とうとう先視で見た時期が来た。


 王族全員に盛られた謎の毒。だが、神殿の元にそんな報告が来た時には伝染病だと思われて、治癒魔法の使える聖女が駆り出された。


 だけど、それが毒だと知っているわたくしがすぐに賢者の末裔から教えてもらった薬を作り出して、治癒の聖女に託していく。


 薬が足りなくなったらすぐに連絡をしてくれと言付けも頼んで。


 それから数日過ぎて、無事に回復傾向が出てきたと聞いた時は安堵した。そんな矢先、

「初めまして、聖女ローゼライト。会えて光栄です」

 回復したばかりでまだフラフラの状態だったが、第二王子であるアイオライト殿下がわざわざお礼を告げに来られた。


「王族に盛られた毒は魔力に反応して身体の機能を狂わせるものだったのです。治癒魔法を使用したら逆に悪化して絶命したと……本当に感謝しています」

 年齢は確か12歳だっただろうか。わたくしよりも4歳下だが、礼儀正しくお礼を述べるのは流石王族といった感じか。


「そうだったんですね……………よかった」

 先視では王族が全員倒れて、治癒が効果なく絶命していたが、毒の影響で治癒が効果なかったからだったのか。


 王族が回復したのならその後の悲劇は防げるだろう。


 胸を撫で下ろしていたら。

「聖女ローゼライト。貴方には感謝してもしきれないです。これはささやかですが」

 王子は王子として与えられていたという自分が使える資金をすべて神殿に寄付をしてくださった。


 それからも恩を返すためという名目で神殿に奉仕活動を行い、その際多くの神殿を訪れる民に会い、王子としてではなく、身分を隠して神殿の下働きの格好をして神殿に助けを求めている人たちの困っていることやしてほしいことを聞いていて、それを城に持ち帰って改善していくようになった。


 第二王子が手を回してくれたから助かったと、近所の診療所が病人を見てくれなくて困っていると相談していたお婆さんが嬉しそうに話をしていた。


 どうやら、診療所と名乗れば国からお金を貰えるのでそう名乗っていただけの悪徳業者だったらしい。二度とこんなことないように監査する組織も作っていくと王子は話をしてくれた。


 そんな日々を過ごしていたある日。第一王子がいきなり現れて、

「お前が聖女ローゼライトだな。王族を治した薬の作り方を教えろ」

 などと命じてきた。


 側近が慌てて第一王子の言葉を補足すると。

 再び同じことが起きないようにいつでも用意できるように手を回しておきたい。だから、作り方を教えろという話だが、確かに予防することは必要だろう。そのために作り方を知りたいと言われると納得できるが、この薬の作り方は賢者の末裔さまに教えてもらったのだ。やすやすと教えていいものか判断できない。


「聖女ローゼライト」

「聖女スフェーン?」

 第一王子が帰られたのを見計らったように治癒の聖女スフェーンが声を掛けてくる。


「気を付けてください。第二王子が王太子になるのではないかという噂が最近広がっていて、第一王子が焦っているようなんです」

「第二王子が王太子……?」

 初めて聞いた。それならお祝いをしないといけないと考えていたら。


「だから噂です。――第二王子が様々な政策をして支持する人が増えているのでそうなるのではないかと言われているだけです。第一王子が逆転しないとこのまま王太子が決定してしまうので起死回生のためにはあの正体不明な毒の犯人を探し出すか、聖女ローゼライトが見つけた薬を量産化するしかないと思っているのだと……」

 そんな争いが起きているなんて思わなかった。


「気を付けてください。追い詰められている人間ほど何をするか分かったものではありませんから」

「ええ。………そうするわ」

 そんな忠告を貰った夜。


 わたくしは先視をした。




「賢者の末裔さま」

「おや、あんたかい?」

 国を出る前に挨拶をしたかったのでちょっと立ち寄る。


「以前はありがとうございました」

「律儀に礼を言いに来たのかい? ったく、相変わらず面白い聖女サマだ」

「多分、二度と会えないのでお別れを言いたかったので」

 先視をした。


 以前は王族が毒を盛られるものを見た。だから、妙薬を求めた。そして、昨日見た夢は――。


「賢者の末裔さま。近いうちに国が荒れるかもしれません。気を付けてください」

「荒れるって、どんな先視をしたんだい?」

「……いえ、先視を変えるために国から出るので……これからが分からないのです」

 先視を変えるために行動をするのが先視の聖女の役目。だが、変えてしまった結果であの新しい先視が起きるのならそれを今度は変えたらどうなるか分からない。


 王族が謎の毒によって国として機能しなくなるという先視を見た。それを回避するために方法として唯一出来ることは賢者の末裔の力を借りることだった。


 そして、未来を変えた。


 だけど――。


「気を付けてください。もしかしたら賢者の末裔さまにご迷惑を掛けてしまうかもしれません」

 いや、確実に迷惑を掛けてしまう。


「よく分からないけど、あたしら魔女は必要とする者しか近付けない特殊な空間にいるから聖女サマの危惧することはおきんじゃろ」

 安心するといい。それよりもことは一刻も争うじゃろうと見透かされるようなことを言われて、その通りだったので最後に挨拶をしてその場を去る。


 それだけしか未来を回避する方法が浮かばなかったのだ――。


 森を抜け、高台から一望できる国。今からこの国を出ると思うと寂寥感が襲ってくる。

「ごめんなさい……」

 そんな言葉しか出てこない。すべてを捨ててしまう自分が許せないが、自分が国を捨てるのが最善だと思えたのだ。


 自分勝手だと思って涙をこらえていると、

「聖女。ローゼライトさま……」

 葦毛の馬に跨って、第二王子アイオライト殿下がこちらに近付いてくるのが見えた。


「殿下……」

「行かれるのですね」

 見透かしたような名前と同じ色をした瞳が向けられる。


「はい……」

 止められるかと思った。だけど、第二王子はそっと道を譲るようにどいて、

「馬は乗れないでしょうから。ロバに荷物を載せてあります。それを連れて行ってください。ああ、ロバを連れて行けないと判断したら売ってくださって結構です。それを路銀の足しにしてくれれば」

「殿下っ!!」

「逃げてください。遠くへ」

 どうして気付いたのだろう、先視で知ったから逃げるというのを――。


「――僕には僕の情報網があります。兄が貴女を毒を撒いた犯人だと仕立て上げて、自分の手柄を作るための自作自演だと騒ぐつもりだと言うことも貴女の用意した薬が魔女の薬で魔女狩りをしようと企んでいることも――貴女と親しい僕を王に相応しくないと陥れるために企んでいることもすべて」

 そこまで愚かな人だと思いませんでしたと悲しげに目を伏せる。


「――その計画の後に本来毒を撒いたとある国が再び毒を撒いて国の中枢を混乱に陥れ、国の機能に綻びが出た隙を窺って侵略してきます。それがわたくしの見た先の未来です」

 毒を防げば阻止できると思ったが、そうはならなかった。


「念のために薬を渡しておきます。ですが、未然に……」

「ああ。防いでみせます」

 薬を受け取る手。


「聖女ローゼライトさま。それらの危機が去ったら……」

 何かを言いかけて止まる。


「いえ、その言葉はいつかにとっておきます」

 首を横に振り、勝手に納得したように呟くと、

「お気を付けて」

 と見送ってくださった。










 あれから何年か過ぎた。


 遠く離れた国でそこそこの生活を今はしている。かの国に侵略しようとしていた国は何があったのか戦争強硬派の王が倒れ、穏健派の王が立ったことで未来が回避されたのを感じた。わたくしを捕らえようとしていた第一王子は王太子になれずに第二王子が王太子になったと風の噂で聞いた。


 そんな話を聞いた翌日に久々の先視を見た。


 すっかり大人になった第二王子がわたくしの元に来るという先視だ。

「なんで、こんな遠い国にいるわたくしを探せるなんてそんな訳ないのに……」

 先視の力も耄碌したものだと一人笑っていると、

「せ……ローゼライトさまっ」

 聖女と言いかけて止めたのだろうという低い声が聞こえて、すっかり大人びた第二王子がいきなり現れて跪き、

「再会したら言おうと思っていました。僕の妻になってください」

 とそんな展開は流石に先視では見ていなかったのでただただ困惑するしかなかった。


 そして、賢者の末裔さまたちが魔女と言われて迫害されていたはずが気が付いたら国で重用されているなどと夢にも思わなかった。





賢者の末裔さまと友情エンドで終わりそうになった。

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― 新着の感想 ―
友情エンドでも良かったw
割と友情エンドで同居すると思ってましたわ・・・そして王太子が遠くの国に直接くるなんてしてんじゃねえ
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