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悪役令嬢は今日も全力で生存ルートを模索する  作者: 揮毫
第1章「破滅フラグ折曲げ記録」
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第3話「聖女との邂逅」

王宮の貴族専用の庭園は、手入れの行き届いた薔薇が咲き誇る優雅な空間だった。白亜の噴水が太陽の光を反射し、鳥たちが楽しげにさえずっている。しかし、私はその美しい光景に浸る余裕はなかった。


(リリアン・ベルフォード……この世界の光の聖女であり、原作のヒロイン。そして、私に「プレイヤーさん」と呼びかけた人物)


彼女が私に何を伝えようとしているのか、慎重に探らねばならない。なぜなら、私と彼女は本来敵対関係にあるはずだった。


「アリシア様、光栄です。お時間をいただきありがとうございます。」


リリアンは純白のドレスを纏い、微笑みを浮かべながら優雅に会釈した。その姿は絵画のように美しく、光の加減も相まって神々しいほどだった。


「こちらこそ、貴女のような高潔な方とお話しできることを光栄に思いますわ。」


私は微笑みながら、優雅にカップを持ち上げる。彼女の様子を窺うと、瞳の奥に何かしらの警戒心と、同時に好奇心が見え隠れしていた。


「アリシア様、私は貴女とお話ししたいことがありますの。」


「ええ、私も貴女と話したいことがありましたわ。」


私たちは、お互いの言葉の裏を探るように視線を交わす。


「貴女も……私と同じですね?」


リリアンが小さな声で囁いた瞬間、私の背筋に冷たいものが走った。やはり彼女も転生者……なのか?


「同じ、とは?」


慎重に言葉を選びながら問い返す。


リリアンは少し躊躇した後、小さな紙片を私の前に滑らせた。そこには、完璧な日本語でこう書かれていた。


『ここでは話せません。夜、城の東側の礼拝堂でお会いできませんか?』


(……ますます確信に近づいたわね)


私はカップを持ち上げ、優雅に微笑む。


「興味深いですわ。では、今夜お会いしましょう。」


リリアンも静かに微笑み返し、二人の間に一瞬の沈黙が流れた。その沈黙の中に、私たちだけが共有する秘密の始まりがあった。



夜、私はこっそりと礼拝堂へ向かった。


静寂に包まれた礼拝堂は、月明かりに照らされ神聖な雰囲気を醸し出していた。リリアンはすでにそこにいた。祭壇の前に佇み、ステンドグラスの光を背にして神秘的な影を作り出している。


「来てくれてありがとうございます。」


彼女は小声でそう言い、周囲を慎重に見渡した後、私の手を取った。


「私も、前世の記憶を持っているの。」


その言葉を聞いた瞬間、私は息を飲んだ。


「……それは、つまり……?」


「ええ。この世界は『薔薇の誓い』という乙女ゲームの世界。でも、それだけではない。何かが変わっているわ。タイムラインが狂っているのも、異常な飛竜の出現も、その証拠。」


やはり、彼女も気づいていた。


「貴女は……どうして私に協力を申し出たの?」


私の問いに、リリアンは真剣な表情で答えた。


「私、ヒロインだからって、定められたルートをなぞるだけなんて嫌なの。このままだと、貴女は破滅してしまう。でもそれ以上に、この世界そのものが不安定になっているのを感じるの。」


彼女の言葉には、ただのゲームキャラクターではない、確固たる意志が宿っていた。


「……なるほど。私たち、ただのゲームの登場人物じゃないかもしれないってことね。」


「そうよ。だから、私と協力してくれない?」


私は少し考えた後、手を差し出した。


「興味深い提案ですわ。では、一時的な同盟といきましょう。」


リリアンの瞳が輝き、彼女は私の手をしっかりと握った。その瞬間、遠くで雷のような音が響き渡った。


(……まるで、この世界が私たちの決断を歓迎するかのようね)


こうして、私とヒロインの秘密の同盟が始まった。

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