表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

食べ物にまつわるもの

こだわりの麺

作者: モモル24号


「博多うどんとかいいよね。ごぼ天にわかめに葱いっぱいで。うどんはモチモチ柔らか麺に限る」


 僕は柔らかめのニュルニュルッとした感触が好き。固くなくていい。透明なスープに、柔らかなうどんの麺。ごぼ天とわかめをトッピングするのだ。たっぷりの葱と柚子胡椒。麺を平らげた後に、おむすびと一緒にスープを飲み干す。


「え〜っ、違うよ。うどんはコシだよ。だから讃岐うどん。うどんを楽しむのに具なんかいらない」


 でも彼女は違う。シコシコ太いのが好き。喉を刺激されてたまらないのだとか。太ければ太いほど良くて、長ければ尚良しとのこと。


 何度目かのデートの後、極太一本うどんを食べたいと彼女が言い出したのが、うどんの好みの違いを知るきっかけだった。


「太くて固いだけのうどんなんか、美味くもないだろうに」


「ニュルニュルとかプニュプニュとか、柔らかいだけのうどんよりマシよ。あとワカメとか、具を盛り過ぎ」


「そんなに太くて固いのが好きなら、きりたんぽでも食ってろよ」


「きりたんぽは鍋よ。あと米よ。あなたの言いたいのは、ちくわぶだ!」


 まさか一杯のうどんを巡り口論になる日が来るとは思わなかった。不毛な会話だ。


 そして昼間の駅前で、大きな声で喧嘩するものではなかった。お昼ご飯をナニ()にするかの話だから、揉めても仕方ない。


 でも口にするなら美味いものが食べたいのが、人間の本能。貪り食いたい欲求というものだ。


「君の好みは理解した。でもうどんに関しては僕も譲れない。ここは互いに負けて、お昼はラーメンにしないか?」


「仕方ないわね。柔軟にみせて、引き分けにしないあなたの頑固な性分は好きよ」


 こうして僕たちは仲直りの握手を交わし、ラーメン屋に向かった。野次馬達は残念そうだが、口論する前まではラブラブだったんだ。固いものが好きな彼女に合わせて、頑固親父のいる店にした。


「……らっしゃい」


 ムスッとした表情の頑固親父が、一応来店の挨拶をした。愛想はよくないが、味は良い。何よりここは麺の固さが選べるので、喧嘩にならない。


「食券じゃないのね」


「あぁ、ここは麺の固さを選べるから、食券だと面倒らしいんだ。麺だけに」


「熱いラーメンが食べたいの。冷ます必要はないわよ?」


 使い古されたダジャレに笑いながら突っ込んでくれる優しい彼女。この店にして正解だったね。


「……何にするんだ」


 ──コトッと、静かに水のグラスが二つ置かれ、頑固親父に睨まれた。愛想は悪いが、仕事も所作は丁寧なのだ。


「僕は頑固ラーメンを。バリ固、葱だくで」


「……あいよ」


 ラーメンでも葱は必須だ。麺は頑固親父手製。通常の店より麺の量が多いので、バリ固なのだ。麺が美味いから、具はいらないくらいだ。


「私も頑固ラーメンを。柔らかめで、全乗せね」


「……あいよ」

 

 彼女も同じラーメンを‥‥ん、いま柔らかめって? 全乗せだとぉ〜?


「ちょっと待った。固いのが好きじゃないのか? それに全乗せって。具を盛り過ぎとか、どの口が言ったんだか」


「はぁ? それはうどんの話でしょ。頑固ラーメンは柔らかめ、こだわりの具と込みだから最高なのよ」


「それならうどんだって、具沢山だと旨いんだぞ」


「それは適量だからこその話よ。あなた、ごぼ天わかめに、かき揚げまで頼もうとしたじゃない」


「衣がフニャフニャのモロモロになって旨いんだって」


「そんな油まみれのスープ‥‥味にも身体にも悪いでしょう!」


「ぐぅ……」


 彼女の正論に返す言葉を失った。


「トドメさしていい?」


 わざわざ追撃の宣言をする彼女。頑固親父、この店私語禁止じゃないの?


「通ぶってないで、自分にあった一番美味しい食べ方をするのが正解なの。讃岐うどんはコシ、頑固ラーメンは柔らか全乗せが正義よ!」


 ぐぅの音も出なくなったよ。麺棒で、頭をぶん殴られたようだ。


「……お待ちどうさま」


 頑固親父がそっとラーメンを二人の前に提供する。


「ほら、具を半分わけてあげるから食べてみなよ」


 本当に優しい彼女だ。麺の固さで喧嘩しようと、美味しいものは共有したいのだ。


「あっ、旨い!」


 僕のこだわり過ぎて凝り固まった頭が、ほぐれていくのを感じた。


 頑固ラーメンは具を食べている間に、柔らかめの麺はすぐに伸びる。汁をたっぷり吸って、フニャフニャになっても、チュルッてひと息で吸い込んで────。


「美味しかった♪」


 出された料理を全て平らげ、幸せそうに呟く彼女の笑顔こそ、最高のご馳走だった。


 次の次のデートの日、うどんを食べに行くことになった。柔らかさを受け入れた僕は柔らかい麺のうどんを希望し、彼女はコシの強いうどんを求めた。


 こだわり過ぎは良くないと学んだけれど、自分の好みまでは譲れない。


 彼女が好きだという僕の好み‥‥そして僕の頑固さを好きだという彼女の好みもね。

 

 お読みいただきありがとうございます。


 こちらはしいなここみ様主催『麺類短編料理企画』 の一皿になります。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
企画から拝読させていただきました。 好みはそれぞれですけど、『うどんはこうじゃなきゃ!』などとこだわりが強い人は、ちょっと損している感じもしますね。 うどんって割と好みが別れるけど、『○○うどん以…
企画からきました! ご馳走様でした(*´ω`*) 『ケンカするほど仲がいい』っていいますからね。
ごちそうさまでした(•ᵕᴗᵕ•)⁾⁾ぺこ あつっ……! このラヴラヴスープ、熱すぎるわ! 私はやわめ、かため、美味しければどっちでもこだわりありません(*´艸`*)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ