第四十七話 ハッピーエンド?
元の世界に帰るための条件。どっちも正しかったのかもしれないが、今はどうでもいい話だ。
女神エムプーサは、別の次元にいると言っていたから、どこを向いて会話をしたらいいか迷って空を見上げる。
多月も俺たちから手を離して、全員で上を向いた。
「女神サマ~あの者を倒したから、誘拐された異世界人は、元の世界に戻れるんだよな?」
「え……えっ!? ギフトで、この世界に縛られているんじゃ……」
『ええ、あの者を倒したことで、私が与えたギフトは消え、元の世界に帰れます――貴方を除いて』
女神エムプーサが最初から誘拐した異世界人を、元の世界に帰そうと考えていたかは分からない。
だけど、俺が女神のギフトを貰ったことで、何か心境に変化があったんだろう……。
「ちょっと、待って! どういうこと!? ナイトくんだけが帰れないって……」
そんな中、ヒメは女神エムプーサの言ったことを一字一句聞き逃さずに叫んだ。
「ハァ!? ふざけんなよ! アタシらに、元神だろうが知らねェふざけた野郎の始末を頼んだ女神がよォ!」
「そ、そうだよ! 理不尽にも程がある!」
『――ナイト様は、女神の寵愛を受けたのです。これは、栄誉なこと。ですので、貴方にだけ女神のギフトを継続させました』
まさかの理由には俺も面食らった顔をする。
自分の容姿には、少なからず自信はあったが、確実に魅力の数値に問題があるな……。
不意に腕を掴まれると、横にいたヒメが離さないとばかりに両手で抱きしめてくる。
その行動は嬉しいが……胸が、当たっていることで視線を逸らした。
「ナイトくんを誘拐したのは私なのに、ナイトくんが帰れないなんておかしいよ! 女神の寵愛って何!? 人間の男を夫にはできないんだから!」
『夫になどしません。側において生涯愛でるのみです。貴方たちの世界でいうのなら、ペットのように』
「ふざけないで! ナイトくんは、誰のものでもない!」
この場にいない女神エムプーサと真剣に口論するヒメに、正直とても嬉しい……。
俺の表情に気づいた様子の多月と、誠は何も言わずに静観しているように感じた。
「ヒメ、大丈夫だから。俺を信じて先に帰っていてくれ」
「だけど……! そう、だったんだ……異世界人は、関係ない。女神のギフトに縛られていないことが重要だった……」
急に光に包まれ始めた三人に、絶望するような声色で独り言のように呟くヒメの両目からは、自然と涙がこぼれだす。
俺の言葉は、最後までヒメの心には届いていない。大丈夫だと言っても、それを100%信じるのは難しいだろう。
その身体が消えてしまう前に、俺は思い切りヒメを抱きしめた。
自分よりも小柄で、女性らしい身体つき。
――今、此処で。好きだと言いたかった。
だけど、それは良くあるフラグになっても困る……。
それに、万一があったら責任が取れない。
「うぅぅ……絶対に、会いに来て! 待ってるから――!」
「――一番に会いに行くから。部屋で、待っててくれ……」
こういうのはテンプレで決まっている。
だから、きっと……誘拐された場所に戻るはずだ。
だんだんと薄くなっていく身体に、隣にいる多月が口元を上げる。
「アタシは心配なんかしてないからよォ! ナイトの言葉は、信用できる」
「うん! 僕たちにも、二人で必ず会いに来てほしい。姐さんは、先ず……探すところからだけど」
「そこは、あんときに言ったように大丈夫だ。頼も〜って言って、オマエの家に転がり込むからよォ?」
相変わらずの調子で絡まれている誠に笑ってしまうが、大変だったけど、楽しかった旅も終わりだ……。
強制的に消えていった多月と誠に続いて、抱きしめていたヒメの涙を拭うと、その身体も光の粒子になって消えていく。
一人残された俺は、女神エムプーサにあの部屋に呼んでくれと頼んだ。
まんまと俺を手に入れたと思っている彼女は、直ぐにそれに応じる。
一瞬、視界が途切れると再び白い部屋にいた。
そして、変わらない白いテーブルと椅子の前には、妖艶な赤いドレスに身を包んだ女神エムプーサがいる。
――どこが夫にはしない、ペットだ。あからさまに、誘っているだろう……。
まぁ残念ながら、その誘いには乗らないが――。
「一つ頼みがある。元の世界に戻った彼女の姿を映すことはできるか?」
「ええ……。そんなことですか。容易いことです」
褒められたことじゃないが、さすが子供を誘拐しているだけはある。
最初と同じ方法でビジョンに映されたヒメは、自分の部屋にいた。
いかにも子供部屋というように机の上は整頓されてはいたが、小学生の教科書がみえる。
彼女が生きていると信じて、両親がそのままの形で残していたのかもしれない。
一度だけ、部屋に招かれたときに見た光景が蘇る。
ただ、一つだけ気になったのは……ベッドに顔を伏せて座り込む彼女の後ろ姿だった――。
「――女神サマ。一度誘拐した人間をもう一度呼ぶことは出来るのか?」
「いいえ……。魂を拒絶した扱いになりますので、一度召喚した人間は残念ながら喚べません」
一度召喚した人間は喚べないルールがあるという言質をとった俺は、ニヤける顔を隠せない。




