第四十五話 二人のヒメ
そのとき、急に両手を広げる元神に思わず戦闘態勢をとる。
だけど、現状ヒメの肉体である元神を攻撃することは出来ない。
「まぁ、良いだろう。こんなものは誤算でしかない……何せ、私は今キミの肉体を所有しているのだから」
「……他の二人は、どうした!」
「あー……他のオマケか。一匹面倒そうなトカゲがいたから、二人して最初の町に飛ばしてやった。殺さなかっただけ有り難く思うんだな」
最初の町というと、かなりの距離があるが無事を確認できたことで安堵する。
だが、口元を押さえて笑いを堪える元神は杖をこちらに向けてきた。
「まぁ、此処には辿り着けないだろうがな。祝福と呼ばれる空飛ぶ豚の軍勢に、今頃駆逐されているんじゃないか?」
「なっ……多月たちを舐めるな! 彼女のおかげで俺たちは、ここまで来られたんだ」
「みんなで、元の世界に帰るって約束したんだから! 離れていても気持ちは同じだよ」
元神が向けてきた杖から無数の玉が四方八方から飛んでくる。
俺は思わずトワイライトを引き抜いて防御態勢をとった。それをヒメは同じ魔法で相殺する。
トワイライトは魔剣なだけあって、魔法も斬れた。
俺は威嚇の意味で、トワイライトを振り抜くと避ける必要性はなかった元神は、空中に浮かび上がる。
こちらが思うように攻撃できないことをいいことに、無尽蔵な魔力で問答無用に複数の魔法を放ってきた。
俺は、ヒメに守られているばかりで手も足も出ない。
「――お前の目的はなんだ! ヒメの肉体を奪って何をする気だ」
「あー……この肉体を奪ったのは、ほんの戯れだった。だが、今の私はキミたちの異世界に興味を持った。女神エムプーサの魔法を反転させて、そちら側に行く……」
まさかの元神は饒舌だった。
つまり、こいつはヒメから奪った肉体で、俺たちの世界に転移しようとしている。
それなら、なぜヒメだけ自分のもとに転移させたんだ。
「肉体の持ち主が私のように魂だけの存在で生きているのは誤算だったが、今から見せてやる……私が転移する瞬間を!」
「待て――それは、ヒメの肉体だ!」
「返して! 私の身体!!」
元神が放つ竜巻によって俺たちは端まで吹き飛ばされる。
その瞬間、元神は女神エムプーサと同じように魔法を唱え始めた。
「私が、キミだけを此処に呼んだのは……目の前で、自分の肉体が失われて絶望させるため! ――時空を越えよ!」
「くっ……そ!」
白い輝きに包まれて目を開けていられなくなると、走りだそうとするヒメの身体を抱きしめて引き止める。
「いやっ……! やめてぇぇええ!!」
部屋全体が光に包まれてから数秒して微かに感じた白さが消えたのが分かって目を開けた。
――だが、そこには元神でありヒメの肉体が留まっている。
訳が分からず、ヒメの手を離すと呆然としているのは元神も同じだった。しかも、杖を落として両手を眺めて肩を震わせている。
ヒメもホッとした様子で、倒れそうになるのを後ろから受け止めた。
だが、その瞬間。微動だにしなかった元神がいる前方から、キラッと光るものを感じた僅かな間に、鋭い氷の刃が目前に映る。
「なっ……!?」
キーーン!!
反射的にトワイライトを横へ振り抜くと、地面に突き刺さった。
先ほどの竜巻と、情緒不安定となったヒメの防御魔法は効果を失っている。あの刃は、明らかにヒメを狙っていた。
今度は、ヒメの声で高笑いが聞こえてきたことで再び前方を睨みつける。
「――まさか、まさかの誤算。肉体と魂は共鳴する……と、でも言いたいのか? 私のように絶望を与えてやろうと考えたばかりに……。お前を殺す理由が出来た」
「えっ……? 魂である私が、ここに存在しているから……肉体が転移出来なかったの?」
「ああ……そうみたいだな。それなら、最初の目的であるヒメの肉体を取り戻すまでだ! ヒメ!」
先ずは、ヒメの肉体の意識を奪って拘束することを決めた俺は走り出した。
ヒメも俺の意図を分かってくれて防御魔法と素早さ上昇によって、加速した足で視界を奪うべくライトを放つ。
ヒメの肉体を傷つけたくないがために、俺の甘さで隙が生まれた。
回復すればどうとでもなる首や腹部への攻撃を躊躇したことで、元神の手が俺の喉元に伸ばされる。
その手は魔法によって鋭く研ぎ澄まされた銀色に光る刃物に変わっていた。
「うっ……」
「先ずは、その手に握っている魔剣を捨ててもらおうか……それと、防御魔法で私の刃は防げない。なんせ、手刀だからな」
「ナイトくん……!」
――カランッ
俺は言われるがままトワイライトを手放す。地面に落ちたことで、金属音が響く中、不安そうにするヒメと目が合った。
正直言って、こっちが隙を突かれるとは思わなくて俺も動揺している。
だけど、元神自身も転移の失敗で動揺しているのに加えて、これまでの旅を見ていたのなら俺のことは雑魚だと思っているはずだ。
直ぐに殺さないのが、それを物語っている。
奇跡の力も知られているかもしれないが、ここまで来てヒメの負担になるわけにはいかない!




