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【完結】異世界誘拐物語 〜女神のギフトは甘い罠〜  作者: くれは
最終章

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第四十四話 その姿は……

 建物の横に背中を預けていた俺は、再び上を目指して()い上がっている。

 辿り着いた頂上から下を見下ろすだけで、身体が震えた。


 現実世界なら、何階建てか分からないトップデッキの頂上から落下する行為に等しい……。


 だけど、この中でヒメの畏怖(いふ)する声がミサンガから伝わってきたんだ。

 ここで行動しないなんて(おとこ)じゃない。なんのために、此処まで来たんだ!


「――俺は、異世界で成長した自分を信じてる! ヒメを救う力をくれ! 光魔法! ――光の鉄拳(ライト・フィスト)!」


 握りしめた右の拳を建物に打ちつける。ミシッと鈍い音がしてから亀裂(きれつ)が入った。


 それは一瞬のことで、所詮はハリボテだった内と外の壁が砕かれる。

 一気に陥没(かんぼつ)するように足場が無くなり落下した。


「うっ……!」


「――何事だ?」

「えっ……。ナ、ナイトくん――!? 飛翔(フライト)!」


 足から落下したことで下の様子は見えなかったが、地面に到達する直前で身体が浮いて尻もちをつく。


 それにより無事を確認できたのも束の間。

 次に前を向いて、ヒメの畏怖(いふ)した声の正体が判明する。



「――えっ……? 嘘、だろう……ヒメが、二人いる」

「――うん……」

「そ、そうか。多月たちが聞いた、魂のない肉体だけを死人(しびと)のように操って――」


 俺の前に立っていたのは、紛れもないヒメの姿をした同一人物だった。ただ明らかに雰囲気が違っていることで、俺はどっちが本物のヒメか分かると隣に移動する。


 近くに元神の魂は視えない。

 だけど、もう一人のヒメを見た瞬間、俺の心臓が締め付けられるように重くなった。

 隣にいる彼女も表情がくもっているというより……青ざめている。


 ――俺たちが倒すべき元神(存在)は、ヒメの姿をしていた……。


「これは、どういう……」


 ヒメを横目で確認すると下を向いている。


「――全部、思い出した。私……アイツに、肉体を奪われたんだ。だから、私は魂と肉体を分けられた存在にされた」


 女神エムプーサもギフト以外は嘘をついていなかったようだ。

 だが、他の神たちで肉体を消滅させて元神が魂だけ残ったことを把握していたのに、どうして魂の存在になったヒメは視えなかったのかが分からない。


 俺が上から降ってきたことで、何か思うところがあるのか、無言で立ち尽くす元神ことヒメの肉体は沈黙している。


「それで、私は魂が異世界から離れる前に、魔法で縛りつけた。だけど……それは、期間限定で……。一年も保たなくて、貴方を呼んだの……」


 身体を小刻みに震わせる彼女の目からは涙があふれていた。


「実は、そのミサンガは――私と貴方を繋ぐもの。私が、この世に存在していることを証明するものだった――」


 俺はその理由を知ることになる。それは、とても辛いことだ。

 思わず伸ばしかけた手を引っ込める。


「――この世界で生まれたわけじゃない私を、証明するものは一つもない。私が私だと証明されないと、魂は留まれない」


 まさかの衝撃的な事実を突きつけられた。

 俺は、ただ単に賢者の力だとばかり……。


 震える声で紡がれる言葉に耳を傾ける。


「……ナイトくんは成長した私を見て、迷わずに名前を呼んでくれたよね? 貴方だけが、この世界にいる私の存在を認めてくれた。私が、今も消えないでいられるのは、ナイトくんのおかげだよ」


 泣きながら笑顔をみせる彼女は、とても繊細で見惚れるほどにキレイだった。

 彼女はあの頃と何も変わっていない。純真爛漫な小学四年生の結束(ゆいつか)ヒメだ。


 それに、生命体以外でも色はあるが……条件としても、生命体が関わっている。


 モノに宿った色は、その生命体が生きていないと、色を維持できないことだ。


「――あの男から肉体を取り返して、一緒に元の世界に帰ろう! ヒメ!」

「うん……! ナイトくん!」


 俺たちは奪われた肉体を取り返す作戦を考えることになった。

 だが、沈黙を(つらぬ)いていた元神はあろうことかヒメの肉体で、高笑いする。

 まったくもって不快だ……。


 元神の視線はヒメではなく急に現れた俺へと注がれている。

 その理由は、とても簡単で最悪だった。


「――道理で、深淵(アビス)の上空に飛ばしたはずなのに、建物の上空にいた理由が、ミサンガ(ソレ)か」

「……深淵(アビス)、だと?」

「深い闇の底、といえば分かりやすいか? 私の次に、モノリスを任された女神エムプーサが言っていただろう?」


 深い闇の底といったら女神エムプーサが言っていた、終末のような恐ろしい場所……。

 俺の身体は自然とゾワッと背筋が凍りつく。

 ヒメも先ほど以上に顔面蒼白という顔で、唇を強く噛みしめ元神を睨みつけていた。


「ふざけないで! ナイトくんを、そんな生地獄に落とそうとしていたなんて……許さない!」

「……生地獄? ヒメも、あそこのこと……知っているのか」

「あそこは、深い闇の底と呼ばれるだけあって、生きてるか死んでるかも分からない監獄って言われてるの……深淵(アビス)なんて名前がついてるのは初めて知ったよ」


 つまり、ヒメが自分を証明するためにくれたミサンガによって、元神の野望を阻止して俺は救われたらしい……。

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