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【完結】異世界誘拐物語 〜女神のギフトは甘い罠〜  作者: くれは
第四章

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第三十六話 芸術はヘンテコ

 散々いじり倒された俺は、ヒメと二人で街の人に聞き込みをしていた。


「あー。あのヘンテコ? 確か一年前から出現したかなー。気がついたら、あそこに建ってたんだ」

「街から近いですけど、調査隊とかは派遣されなかったんですか?」

「んー。一度だけ出来たばかりは行ったかなー。でも、何も異常はないって帰ってきたらしいよ」


 芸術的な湾曲は、異世界ではヘンテコ扱いらしい。

 それよりも、街の人間がヘンテコ扱いしているのに異常がないで戻ってくるのは、おかしいだろう。

 しかも、調査隊は東京タワーを称賛していたとか。


 美的価値も人それぞれだが、大きな街の人間が口を揃えてヘンテコ扱いしている中、調査隊だけが違うのはおかしい。



 俺たちは、近くの喫茶店に入るとテラス席から街の様子を眺める。


「一年前って――」

「私が、亡くなった時期……だね」

「そう、だよな……ヒメの記憶から、東京タワーを盗み見たのが正しいか……」


 少しの間、言葉を失う俺たちのもとに頼んだ紅茶が運ばれてきた。

 二人で同時にカップを持ち口をつけると、思わず笑ってしまう。


「二人だけで話をするわけにもいかないし、飲み終わったら宿に向かおうか」

「うん! 今日は、ナイトくんがベッドで寝たいって言うから、部屋も二つ、とってもらってるしね〜……」

「あ、ああ……やっぱり、野宿しないなら、誠の空間で寝袋よりベッドのが背中も痛くないしな?」


 笑顔の中に怪しむ様子が(うかが)えるヒメの鋭さに、冷静を装いながら紅茶を飲み干して宿屋に向かった。



 多月に案内されるまま、男部屋に移動すると端の方に少し床から浮かいた空間が用意されている。


 多月と二人きりにされたことで、部屋を取った瞬間引きこもったらしい。

 普段とのギャップが凄まじいんだよな……女性なら、男らしい部分は嬉しい誤算か……?


「んじゃァ、準備できたら女子部屋集合なァ。誠も、引っ張り出して来いよォ」

「あっ、ああ……。あの建物に向かう前の最後の作戦だしな」


 ドアが閉まると同時に、穴から顔を出す誠に一瞬ドキッとするが、深呼吸して普段と変わらない態度で接する。


「あの建物に行ったら、何が起こるか分からないけど……大丈夫か?」

「う、うん……ぼ、僕も……元の世界に、戻りたいし……仲間、だから! 頑張るよ……」


 少しだけ酒を飲ませたら、強くなったりしないだろうかと頭を過った。何かのアニメや漫画の見過ぎかもしれない。


 誠の空間は女神の力も及ばないことが判明している。最悪何かあった際に逃げ込める場所があるのは有り難い。



 準備が出来たことで、女子部屋に行くと、何故か多月が酔っ払っている……。

 絡まれるのを回避しようと、捕まる前に領域支配をドアの前に設置した誠は難を逃れていた。


 その代わり、今度は俺が多月の生贄となる。

 それにも関わらず、酔払い多月に関して、ヒメは口を挟んでこないし、態度も豹変しない。


 女心は複雑だ……。



「まぁ、十中八九それだなァ? アタシだって、あの建物が東京タワーだって分かるぜェ」

「う、うん……でも、そうすると……手元に、置いてあるって……ことだよね? 元神様なら、冷凍保存も……出来そうだし」

「そうだよな……あの建物内にいるのか、それともアレは(ブラフ)か」


 この宿屋からも窓を開けたら多分一望できるはず。



 多月に肩を捕まれ、酒の相手をさせられている俺は、酒を回収した。


「オイッ! まだ飲みたりねェ!」

「明日に支障がでるから、もう終わりだ」

「多月さんは、お酒強いけど……まだ話終わってないしね」


 しぶしぶ酒を飲むのを止める多月が離れていく。

 ようやく解放された……。


 この街は、今まで訪れた町よりも広く、色があるだけでホッとする。


「色の有り難みを感じるな……」

「あァ……そういや、宿屋で部屋をとる前に妙な話を聞いたようなァ――」

「えっ? どんな話だったの?」


 腕を組んだ多月は飲みすぎたせいか、うなり声をあげていた。これだから酔っ払いは困る……。


「えっと……若い、魔法使いみたいな……女を、見たって……言ってたよ」

「えっ……魔法使いみたいな」

「若い、女……?」


 呆れ顔で穴から眺めていた誠が代わりに応えると、思わずヒメと目が合った。


「まさか、ヒメの肉体を操って……あの建物を造らせたのか?」

「可能性は高いかも……死人(しびと)じゃなくても、肉体を操ることは簡単だから」

「それだァ! 誠も、聞き込み出来るじゃねェかよォ! でも、目撃したのは東京タワーが現れる少し前だったらしいぞォ」


 辻褄(つじつま)は合う。


 女神や神が、俺たちを元の世界から誘拐(召喚)していたとはいえ、内情を知っているかは別物だ。


 そもそも、異世界人なら誰でも良いんだろう。

 他人(ひと)の人生を踏みにじっているなんて、あの女神に至っても考えている気がしない……。


「それがヒメかは分からないが、気を引き締めよう」

「うん……有益な情報は他に無さそうだし、明日のために寝よっか」

「おう。んじゃァ、男子は散った散ったァ!」


 ヒメがいるから、もう酒は飲まないだろうと、穴から出てきた誠と共に部屋を出る。


「それじゃあ……女子会と洒落込もうじゃねェの!」


 閉じた部屋から何か聞こえてきた気がしたが、眠気と軽い不安から気にとめることなく隣の部屋に戻った。

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