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【完結】異世界誘拐物語 〜女神のギフトは甘い罠〜  作者: くれは
第三章

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閑話 祝杯と……不穏

「オイ……オマエは、どうしてその中に入ってるんだァ?」


 ドカッ


 多月はポッカリと空いた穴に蹴りを入れる。

 椅子に座ったときの高さに浮かんでいるため、いつもより低めだ。


 現在引きこもり状態になっている誠の空間に入れない多月は、話しかけながら蹴りをお見舞いしている。


「多月……逆効果だと思うぞ? 今は、そっとしておこう」

「ナイトは甘いんだよ! 同じ男なら、ガツンと言ってやれ!」

「まぁまぁ……多月さんも、少しは疲れたでしょう? 明日には、此処を発つんだからゆっくりしようよ」


 チッと舌打ちをして離れる多月に、怯えながら穴の横から顔を出して様子を伺う誠が視界に入った。


 パッと見は、痩せこけているせいで少しだけ心配になるが、多月によって前髪を切られたことで、イケメンだと分かる素顔に勿体ないと感じている。


 その臆病な性格が、多少改善されたら俺より遥かにモテそうで……。気弱なのもデメリットばかりじゃない。

 それだけ、優しいということでもある。

 俺が、女だったら庇護欲にかられている可能性もあるな……。


「んじゃァ……祝杯するかァア!!」

「急に元気になるなよな……まぁ、俺もようやくレベルが上がって興奮はしているからな」

「うんうん! もう少ししたら、夜になりそうだし。ご飯食べながら、乾杯しよう~」


 楽しそうなところを見せて、誠を誘い出す作戦でもある。


 まぁ、多月は単純に飲みたいだけだけど……。



 宿に向かう前に、少しだけ調達した飲み物を簡易的な丸いテーブルに置く。


 多月に部屋の留守を頼み、お願いした夕食をヒメと共に受け取って戻ると、いつの間にか肩を組まれて泣きそうな顔の誠がいた。


「あっ! 二人共~!」

「あー……これは、どういう状況なんだ?」

「おう! 待ってたぜ~。先に、晩酌して待ってようと思ったらよォ……やっぱり1人酒はつまらねェから、優し~く声をかけて引っ張り出した」


 上機嫌に説明をする多月に、晩酌をさせられている姿が板について見える誠に二人で顔を引きつらせる。


 男女が逆転するとは、こういうことなのかもしれない……。


 椅子は二つしかないため、俺たちはベッドに腰を下ろす。


 ヒメのおかげで金には困っていないし、不便もあるから男女別で部屋を借りようと提案したところ、誠は空間内でしか寝られないらしく、男の俺も同居させてもらうことになって、この部屋は女子部屋扱いだった。


 空間内とはいえ、部屋の行き来は可能なため、二人に確認をとると、まったく気にしていなくて反対に心配になる。


「それより、せっかくの料理も冷めちまうし、祝杯しようぜ!」

「誠が、大丈夫なら……。それじゃあ、無事にダンジョンを攻略できて、誠も取り返せたことに乾杯」

「乾杯~! 誠さんも、飲んで食べて忘れよう~」


 ヒメが最初の町で購入したグラスをアイテムボックスから取り出して、果実酒を注ぎ入れた飲み物を手に乾杯した。


「乾杯~!! ほら、誠も飲めよォ」

「か、乾杯……ぼ、僕は……ゆっくりと、自分のペースで……飲みたいから」

「多月さん、完全に酔っ払いのお父さんみたいだね……誠さんが、昔の女中さんとかに見えてきたよ〜」


 大げさに肩を揺らす誠に哀れみを感じて横に視線を向けると、軽くショックを与えている本人のヒメは分かっていない様子で笑っている。


 しばらく飲食を楽しむと、いつの間にかベッドで爆睡している多月の煩いイビキが部屋に響き渡っていた。


 ようやく解放された誠は、再び自分の空間内に引きこもってしまう。      

 あの空間内なら、騒音も聞こえないのだろうか……。


「そろそろ解散しよっか~。あ、私は心配しないで! 魔法で、音を消すことくらい容易いから」

「ああ、さすが賢者のヒメだな。俺だったら眠れない夜を過ごしそうだ」


 勝手気ままな姿の多月を横目に、出入りの許可をくれた誠の空間内に足を踏み込む。


 軽く中を覗くと、ベッドにうつ伏せとなっている誠の姿があった。

 多月に飲まされすぎて、酔いつぶれているのかもしれない。


「それじゃあ、また明日。お休み……」

「うん! お休みなさい、ナイトくん」


 天使のような笑顔を見せるヒメに、胸が熱くなると照れ臭さを誤魔化すように、空間内の床に置かれたままの寝袋に入る。


 今の時間が分からないが、明日に備えて寝るため目を閉じると、外の音が聞こえないことに気がついた。

 やはり、この空間内は絶対の王である誠によって快適になっているらしい。


 酒が回ったことで、眠気から意識が遠ざかっていく中、不意に声が聞こえて薄く目を開くと、何故か眼前に誠の姿があった。

 しかも、目が虚ろだ……嫌な予感しかしない。


「ナイト……添い寝してもいい?」

「えっ……大の男同士だし、暑苦しいから、無理……」

「そんな、酷い……! 抱きついた時、頭ポンポンしてくれたのに」


 これは、何上戸(じょうご)といえばいいのだろうか……。

 甘え上戸(じょうご)……? 何か違う気がするが、眠たい頭で抱きつかれるのを引き剥がすのは、苦労する。

 しかも、相手は俺より線は細いが体格差のある男だ。


 それに……意外と、力が強い。嫌な予感は、こんな形で的中した――。


「――庇護欲は、撤回だ! それから、俺は男より女の方が良い……!」

「――庇護欲……? 良く分からないけど〜……それ、ヒメちゃんに言っちゃおうかな~……」

「なっ……そこで、ヒメを出すな。それより、お前……なんか口調も変わってないか……?」


 完全に目が据わっている男に、顔が強ばり否応なく意識は覚醒する。


 ――これは……男版、多月だ。


 差別するつもりはないが、同性に抱きつかれても嬉しくはない。

 魔法少女が好きで、なりたかったとも言っていた誠だが、恋愛対象は女だよな……?


 多月相手は、女性だから色んな意味で困るが……男に言い寄られたことはないから、対処法方が分からない。


 体温は高いのに、ヒンヤリとする誠の細い指先が腰に触れると、思わず肩が揺れる。


「うーん……分からないけどォ……僕、どっちもイケるから……」

「えっ……それは、どういう意味合いだ!? ――って……寝てる? 焦ったー……」

「スースー……んんぅ……兄ちゃん――」


 酒のせいで熱さが増す中、抱きついたまま先に寝てしまった誠を引き剥がしてベッドに寝かせた。

 寝言からして、兄を恋しがっているのかもしれない。


 まぁ、俺の方が年齢は下だけど……ヒメと違って、誠には親代わりの大人もいなかったらしいから。精神年齢は、大分子供なのかもしれない……。


「よしっ……今あったことは、忘れよう。俺のプライドのためにも……眠っ――」

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