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【完結】異世界誘拐物語 〜女神のギフトは甘い罠〜  作者: くれは
第三章

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第三十二話 ダンジョンボス

 ダンジョンボスの前座にしては、数が多すぎないか……?


 目で追えるだけで、十匹はいる。

 しかも、部屋が明るくなったことで、たまに立ち止まって、つぶらな瞳を向けてくる姿が戦意を削ぐオマケつき。


「――やり難い!」

「か、可愛い……どうして、魔物なの〜!?」

「あァん? んなの、魔物の思う壺だろうがァ」


 ヤル気満々の多月に対して、俺とヒメは敵の思惑通り、戦意を削がれていた。


 一応、反撃のためにトワイライトは抜いておこう。

 あの光速回転は人間の目で追えるものじゃない。

 きっと、俺もレベルが上がったことで見えているんだ。


 魔物の本能か、十匹の沼ネズミは多月を避けて俺たちに向かってくる。

 この行動は、強者を避けて弱者から狙う生物的本能ともいえる動き。


 つまり、アイツらには俺たちが自分たちより弱いと思っている。


「……なんだか、舐められているのは(しゃく)だな」

「うん……可愛いモフモフなのに、残念だよ――全員まとめて、冥土に送ってあげる! ――氷の鎖(アイスチェイン)!」


 前方に向かって地面が凍りつき、一瞬にして動いていた魔物は鎖に縛られたように氷の標本になった。


 呆気にとられた俺は、冷静に目が()わっているヒメに大きく肩を揺らす。



 昔は、競争とかも興味がなく争いを好まない優しい女の子だったのに……。

 異世界誘拐(召喚)によって、相当なストレスが生じている。


 元の世界で魔物に狙われるなんて、命の危険はないから当然か。

 それに……。ヒメは一度、元神に殺されている……。


 運良く死を(まぬが)れたにすぎない。

 早く肉体も取り戻したいはず。


「凄ェじゃねェか!! ヒメ、オマエも大したもんだぜ。それじゃ、ダンジョンボスもサクッと殺っちまおうぜ!」

「そうだな……。誠も待ってるし、行こう!」

「うん! 私たちの本気を見せてあげよう」


 ――待ってくれ。

 今のは、本気じゃなかったってことか……?

 やっぱり怒らせちゃ駄目だ……。



 部屋の敵を一掃したからか、大きな扉がひとりでに開く。

 扉の先には赤く光る巨大な魔方陣があった。

 その反面、中は暗い。


 ダンジョンも色があるとはいえ、赤い警告色を放ち部屋を覆いつくす魔方陣には足が(すく)む。

 そんな俺とは対照的に前を歩き出す女性陣二人の精神力も強すぎだ……。


 負けていられないと一歩踏み出して扉の中に入る。

 ――さすがに魔法陣は踏めない。


 最後に俺が部屋に踏み込んだ瞬間、扉はひとりでに閉まる。

 思わず唾を飲み込むと、右から左にかけて光が渦を巻くように周囲を照らした。

 眩しさに一瞬目を瞑る。


「なんか、デカぶつが出てきたぞ!」


 直ぐに多月の叫ぶ声で目を開けた。


「えっ……? 思ったとおり、魔法陣か!?」

「そうみたい! 沼系のダンジョンみたいだから……ボスも」


 湿地帯というべきか、ご丁寧に壁にかけてジャングルのような(つる)や、(こけ)などが覆っている。

 だが、周囲に視線を巡らせる余裕もなく、急に足元が沈み始めた。


『フォォォォォオオ!!』


 下を向くと部屋一面が沼地と化した直後、巨大な魔法陣から出現したダンジョンボスが叫ぶ。



 沼の主:巨大ナマズ(ダンジョンボス)

 ランク:A

 レベル:50

 特徴:長いヒゲで獲物を絡めとる。皮膚はヌルヌルしていて剣などの武器は通りにくい。魔法有利。雷には強く、たまに放電する。ヒゲで絡めとった獲物を沼に引きずり込んでから感電させて殺す。

 生息地:沼の主だけあって、基本的に沼に生息していて、基本じめじめした場所が好き。魚のため、水辺以外では生きられない。

 メモ:沼が無くなったら、その場で跳ねているしか出来なくなるが、身体のヌルヌルによって24時間は生きられる。進化すると、手足が生えると云われている。



「――鑑定結果的に、現実のナマズに近い……のか? ヒゲが武器になるとは思わなかったが……」

「ナマズとか、見たことなかったけど……足場が悪いね!」

「そこは、アタシに任せなァ! こんな足場、脅威にもならねェ」


 ナマズに合わせて(かさ)が増すと、プールのように中心部にかけて深くなっているようだった。

 俺の膝下まで沼に覆われると、ヒメは抜けだして一人空中に浮いている。

 だが、空中戦が得意でないと魔法をかけてもらっても浮いているのがやっとだから仕方がない。


 その瞬間、中心部でナマズが空中に向かって跳び上がる。つまり、落下した際は甚大(じんだい)な被害に襲われるという前触れ――。


「――これ、確実に津波が起きるだろ!?」

「ボス部屋だから……もうブレスも撃てる! ――ドラゴンブレス!!」


 多月はナマズが落下した直後、津波のように流れてくる大量の泥を含んだ水流にタイミングを合わせ口から火を吹いた。


 泥の水は、蒸発する以前に風穴が空いたように弾け飛び、そのままナマズに向かって飛んでいく。

 俺たちは、微かに跳ねた泥がかかった程度だった。


「これ、一発でいけるか……?」

「レベル99だけど、さすがに……どうだろう」

「焼けちまえ!!」


 泥水で威力が弱ることなく放たれた渦巻く炎だったが、ナマズは辛うじて尻尾の先が触れる程度で回避する。

 威力は高いが、口から放っているだけあって魔法のように曲がらないのが弱みか。


 だが、尻尾が焼けたことでナマズは、まな板の鯉のようにその場でジタバタ暴れている。

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