第三十一話 このダンジョンは丸いモノが好きらしい
ヒメの魔法によって地下ニ階がある階段の穴が石畳によって塞がれる。
一気に駆け下りたそこは、地下一階よりもジメジメとして暑苦しい。
空気穴に関してはダンジョンの不思議の一つで、どこからともなく風を肌で感じる。
多月に荷物のように肩から下ろされると、ずっと抱えられていたことで力が抜けてへたり込んだ。
「オーイ。大丈夫かよォ?」
「ナイトくん、大丈夫!? 上は、なんとか塞がったみたい。空気も大丈夫そうだね!」
身体を丸めて猫のようなポーズになっている俺に、ヒメは優しく回復を施してくれる。
沁み込むような回復魔法に息を整えて起き上がった。
点灯を前に向けると、一階から地下一階までと違い横幅の広さがある。
思わず握りしめていた光の剣から力を抜くと、役割を失ったように淡い粒子となって消えていった。
「ハァー……大丈夫だ。俺の光魔法レベルってMAXなのか?」
「うーん。調べてみようか〜? 魔物の気配はしないし、近くにトラップもないみたい」
ヒメによって再び鑑定が行われると、別な何かが増えていた。
神崎ナイト
年齢:25
性別:男
レベル:11
力:200
命中力:110
持久力:110
敏捷力:200
知力:110
精神力:110
魅力:300
剣術スキルLv6
飛躍スキルLv3
テイムマスター
光の魔法Lv2
奇跡の力
「――奇跡の力?」
「これ、スキルの書に載ってたよ! 偉大な勇者の力とか」
「ふはッ! まぁ、偉大なことは成し遂げたからなァ? でっけェ水晶玉をかち割っただろォ?」
それにしても、勇者の力とか……異世界ファンタジー要素満載な響き。
「奇跡の力は、本当にピンチの時しか使えないみたい」
「あのとき、相当ピンチだったのかー……嫌な思い出だな」
あの巨大な水晶玉なら、現実世界でいくらになるんだ? なんて、考えている暇すらなかったぞ……。
それにしても、空間自体が広がったように錯覚する道幅の広さと、湿気のせいで額から汗が滴る。
布が擦れる音がして横を向くと、下着一枚になろうとしている多月をヒメが阻止していた。
「……あのさ。ヒメの魔法で、俺たちだけ涼しくするとか、そういう便利なのはないのか?」
「う〜ん。暖かくするか、寒くするかはあるけど……風を起こすとか、体温調整とかはないかな〜」
魔法も便利すぎる道具ではないらしい。
でも、そろそろ喉が乾いたな……。
俺を抱えて全速力で走ったから、余計に汗をかいている多月に、俺は水分補給と、身体を拭く提案をする。
「ハイ、お水の玉! ナイトくんは、あっち向いててね〜。絶対、振り向いちゃ駄目だよっ!」
「ああ……見張り番しているよ」
「アタシは、別に見られても気にしないけどなァ?」
――気にしろよ。
思わずツッコミたくなるのを我慢して、壁際に寄る2人に対して俺は前方の広い空間に視線を向ける。
点灯を届く範囲まで飛ばしてみるが、常時かけているヒメのトラップによる警戒色もない。
それと、また一方通行だ。
もう少し進めば何か見えそうな気がするが、魔物の姿もないからと油断は出来ない。
なんせ、俺のレベルはまだ11だった。
ステータスの上がり方はバグっていたが……体力数値が存在しないから怖い。
まぁ、ここはゲームの世界ではないから、HPなんてものは数値化出来ないのかもしれないな。
ステータスなんてものが見れるだけ感謝するべき――。
カチッ
脳内で考えをまとめていると、右の壁から音が聞こえた気がして、点灯を向ける。
今度は、何も触ってないぞ……。
――まさかの、時間制限……?
「ヒメ……壁から妙な音がしたんだけど、大丈夫だよな……」
「え〜? ちょっと待って〜。今、着替え終わるところだから〜」
嫌な予感しかしない音に思わず唾を飲み込むと、腰のトワイライトに手を伸ばす。
――ヒュン
次の瞬間、目の前を光速で何かが走り抜けた。
「おう。待たせたなァ、ナイト。どうかしたかァ?」
「――光速で、何かが走った。……壁から出てきたのかもしれない」
「えっ!? ここ、広いし……バトルするには最適だけど……。そうだ! ここでなら、使えるかも。――部屋の光飾り!」
杖を掲げたヒメの魔法によって、眩しい光が周囲を照らすと全貌が明らかとなる。
広い空間は、前方だけではなく、そもそも通路がない造りの部屋だった。
「えっ……? なんか、某ゲームにありそうな……モンスターハウスみたいな部屋だ」
「そ、そうなの……? まさか、一つの部屋だったとは思わなかったけど……」
「あァん? 中央一番奥に凄ェ、キレイな造りのデケェ扉があるぞ」
これは、アレしかない。ダンジョンボス前のフィールド。
モンスターハウスじゃないなら、別に良い。
最終的にボスを倒すのが目的だったわけだし、むしろ階層が少ないダンジョンで助かった。
だが、ダンジョンボスの前というと決まって中ボスくらいいてもおかしくはない。
先ほど聞こえた壁の音が、部屋を明るくしたことで、あちこちから聞こえてきた。
目を凝らすと、手のひらほどのボールのような何かが回転して走り回っている。
「ここのダンジョン……丸いモノが好きなのか」
「違うよ~! アレを良く見て! 生き物みたい」
「つまり、魔物ってわけだなァ? よっしゃァア! ここでなら派手にかましても問題なさそうだしな!」
一つの球体を目で追いかけると、徐々にその正体が分かってきた。
――あのフォルム。
……ハリネズミだ!
沼ネズミ
ランク:B+
レベル:45
特徴:背中にハリを持ち、そのハリで攻撃してくる。ハリには毒があり、麻痺効果がある。獲物が麻痺したのを狙って光速回転で、ひき殺す。見た目は愛らしくもあり、お腹の毛はモフモフしていて毛皮にされたりしている。
生息地:沼とついているが、基本じめじめした場所に生息している。
メモ:ダンジョン内で目撃された場合、複数の群れになっている場合が多く危険が跳ね上がる。




