第三十話 暴走する多月
角を曲がると、再び一本道が現れる。そのまま点灯を前方に照らしながら、多月は優雅に下品な笑い声をあげて突っ走っていた。
空を飛行しているとはいえ、それについてきているヒメも人間離れしている。
相変わらず荷物のように肩に抱えられている俺は、点灯の灯りで微かに見える大玉を眺めていた。
「つーか、これ出口あんのかよォ。ヒメェ! マップ検索とかねェのかァ?」
「う~ん……透視魔法を使ってみるよ! ――千里眼透視!」
ヒメは空を飛んだまま左右を確認し始める。
回収されてしまったが、あのメガネでは壁などの透視は出来ないだろうな。
点灯の輝きを利用してギリギリ視覚できる範囲まで前方を照らすと、再び壁が見えてくる。
しかも、先ほどとは違って狭い通路から左右の分かれ道まで。
「咆哮で確認するヒマは与えてくれねェだろうなァ」
「ヒメー! 何か見えたか?」
「えっと~! 左に曲がって! 右は行き止まりみたい! 階段も見えないよ~」
背後から転がってくる大玉の音で、近くにいても大声を出さないと届かないほどだった。
「アタシが、一発ブチかましてやろうかァ!」
「いや、距離が近すぎるだろ! って、多月!?」
「うわ~。これは多月さん、やる気だよ……――二重盾!」
先ほどのように走りながら思い切り息を吸いこむ多月は、クルッと反転して大玉と対峙する。
目と鼻の先まで迫る中、大きく口を開いた。
「クソやろぉぉおお!!!」
先ほどと違って暴言を吐く多月の咆哮が大玉に当たる。
ピシッ!
亀裂の入るような音がして一瞬大玉が停止する。
その亀裂が上から下へ流れるように走ると、岩は真っ二つに砕けた。
思わず喜びの声をあげようとして、直ぐに思考が停止する。
ガラガラと砕けた岩の中から、一回り小さくなった透明な水晶が姿を見せた。
まさかの予想もしなかった本来の姿がお目見えしたらしい……。
「嘘、だろう……」
「アァーそういう面白さかよォ。しかも、アレだろォ。水晶玉になったことで加速すんだろ!」
「それ、事実と言う名のフラグだよ〜! でも、水晶玉って……普通は鉄球とかでしょ!?」
ゴロゴロと石の音を響かせながら、再び動きだす水晶玉に多月は再び走り出す。
今度は左に勢い良くカーブすると、靴底を磨り減らすような音が響いた。
俺は振り落とされないよう必死な思いで多月にしがみつく。明らかに足手まといだ。
俺がヒメみたいに魔法使いだったら、抱えられている状態でも何か出来るのに……。
さすがに、この状況で今更自力で走ることは自殺行為だ。
――魔物なら、まだやりようがあったかもしれないのに……。なんで無機物なんだよ!
「――足手まといで、悪い!」
「ハハハッ! んなことねェよ! ちょうど良い、ハンデだ」
「私こそ、賢者なのに……色々試しているんだけど。ダンジョンのトラップには効果がないみたいで!」
それにくわえて、水晶玉の背後から微かに聞こえてくる水の音。
ヒメの土壁が決壊したらしい。
距離的に追いつかれるのは目に見えている。
一階下りただけで階層が終わりなのか、一向に階段も見つからず焦る中、俺は右手に熱を感じて肩を揺らした。
「熱ッ……! いや、熱くない……?」
「あァん? どうした、ナイトォ」
「ナイトくん……?」
握っていた右手に視線を向けると、手のひらに眩しい光が集まっている。点灯とは別な何か……。
俺は混乱する頭で、目を瞑って祈る。
――この現状を打開する力が欲しい!
その瞬間、輝きが増した光は上の方に伸びていき姿を変えていく。
形取ったのは光が集まった剣だった。
「えっ……?」
「なんだなんだァ!? 後ろでよく分かんねェけど!」
「ナイトくん! それ、魔法剣だよ!? えっ……でも、光魔法レベルMAXじゃないと使えなかったはず……」
レベルは上がっていく感覚はあったが、光魔法レベルMAXって……。そんな簡単に上がるものか?
大体、|点灯《点灯》しかしてないし……。
良く分からないけど、力が欲しいと願って生まれた剣だ。
「ヒメ! 出来るだけ壁側に寄ってくれ!」
水晶玉はトラップの一部だからか、欠けることもなく無傷で転がる速度をあげている。
俺は、一か八か光の剣を前方に振り下ろした。
風を切るように、光の速さで前方に刃の閃光が飛ぶ。
すると、スーッと何かが斬れる音がして水晶玉の動きが止まった。
耳に聞こえてくる水音が大きくなってきていることで、俺たちは止まらずに走り続ける。
ピシッ
微かに聞こえてきた音に前方へ視線を向けると、真っ二つになった水晶玉が左右の壁に打ちつけるように転がった。
「やった!」
「えっ……? うわ〜! 凄いよナイトくん! て、水流も迫ってる〜!」
「オイオイ、すげェことやってのけるじゃねェかよォ!」
思わず弾んだ声に恥ずかしさを感じたが、一瞬振り返るヒメと多月の喜ぶ声に自然と表情が緩む。
まぁ、多月に抱えられている残念な状態に変わりはないけど……。
割れた水晶玉を越えて迫ってくる水流が見えた。
「あっ! 前方に下り階段有り〜!」
「よっしゃァ! 行くぜェえ」
足だけを竜化させた多月は、助走の体勢となって踏み込むと、階段目がけて加速する。
ヒメもそれに合わせて速度をあげたことで隣合わせとなり、横顔が視界に入った。
「ヒメ! 階段の入り口を塞げるか!?」
「やってみる!」
加速したまま滑るように階段を降りる多月に、浮き上がる身体で必死にしがみつく。
俺の言葉で階段を飛行して下るヒメは杖を上部に向けた。
「――石畳の壁!」




