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【完結】異世界誘拐物語 〜女神のギフトは甘い罠〜  作者: くれは
第三章

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第三十話 暴走する多月

 角を曲がると、再び一本道が現れる。そのまま点灯(ライト)を前方に照らしながら、多月は優雅に下品な笑い声をあげて突っ走っていた。


 空を飛行しているとはいえ、それについてきているヒメも人間離れしている。

 相変わらず荷物のように肩に抱えられている俺は、点灯(ライト)の灯りで微かに見える大玉を眺めていた。


「つーか、これ出口あんのかよォ。ヒメェ! マップ検索とかねェのかァ?」

「う~ん……透視魔法を使ってみるよ! ――千里眼透視(クレヤボヤンス)!」


 ヒメは空を飛んだまま左右を確認し始める。

 回収されてしまったが、あのメガネでは壁などの透視は出来ないだろうな。


 点灯(ライト)の輝きを利用してギリギリ視覚できる範囲まで前方を照らすと、再び壁が見えてくる。

 しかも、先ほどとは違って狭い通路から左右の分かれ道まで。


咆哮(ほうこう)で確認するヒマは与えてくれねェだろうなァ」

「ヒメー! 何か見えたか?」

「えっと~! 左に曲がって! 右は行き止まりみたい! 階段も見えないよ~」


 背後から転がってくる大玉の音で、近くにいても大声を出さないと届かないほどだった。


「アタシが、一発ブチかましてやろうかァ!」

「いや、距離が近すぎるだろ! って、多月!?」

「うわ~。これは多月さん、やる気だよ……――二重盾(シールド・ダブル)!」


 先ほどのように走りながら思い切り息を吸いこむ多月は、クルッと反転して大玉と対峙する。

 目と鼻の先まで迫る中、大きく口を開いた。


「クソやろぉぉおお!!!」


 先ほどと違って暴言を吐く多月の咆哮(ほうこう)が大玉に当たる。


 ピシッ!


 亀裂の入るような音がして一瞬大玉が停止する。

 その亀裂が上から下へ流れるように走ると、岩は真っ二つに砕けた。


 思わず喜びの声をあげようとして、直ぐに思考が停止する。


 ガラガラと砕けた岩の中から、一回り小さくなった透明な水晶が姿を見せた。

 まさかの予想もしなかった本来の姿がお目見えしたらしい……。


「嘘、だろう……」

「アァーそういう面白さかよォ。しかも、アレだろォ。水晶玉になったことで加速すんだろ!」

「それ、事実と言う名のフラグだよ〜! でも、水晶玉って……普通は鉄球とかでしょ!?」


 ゴロゴロと石の音を響かせながら、再び動きだす水晶玉に多月は再び走り出す。

 今度は左に勢い良くカーブすると、靴底を磨り減らすような音が響いた。


 俺は振り落とされないよう必死な思いで多月にしがみつく。明らかに足手まといだ。


 俺がヒメみたいに魔法使いだったら、抱えられている状態でも何か出来るのに……。

 さすがに、この状況で今更自力で走ることは自殺行為だ。

 

 ――魔物なら、まだやりようがあったかもしれないのに……。なんで無機物なんだよ!


「――足手まといで、悪い!」

「ハハハッ! んなことねェよ! ちょうど良い、ハンデだ」

「私こそ、賢者なのに……色々試しているんだけど。ダンジョンのトラップには効果がないみたいで!」


 それにくわえて、水晶玉の背後から微かに聞こえてくる水の音。

 ヒメの土壁が決壊したらしい。

 距離的に追いつかれるのは目に見えている。


 一階下りただけで階層が終わりなのか、一向に階段も見つからず焦る中、俺は右手に熱を感じて肩を揺らした。


「熱ッ……! いや、熱くない……?」

「あァん? どうした、ナイトォ」

「ナイトくん……?」


 握っていた右手に視線を向けると、手のひらに眩しい光が集まっている。点灯(ライト)とは別な何か……。


 俺は混乱する頭で、目を瞑って祈る。


 ――この現状を打開する力が欲しい!


 その瞬間、輝きが増した光は上の方に伸びていき姿を変えていく。

 形取ったのは光が集まった剣だった。


「えっ……?」

「なんだなんだァ!? 後ろでよく分かんねェけど!」

「ナイトくん! それ、魔法剣だよ!? えっ……でも、光魔法レベルMAXじゃないと使えなかったはず……」


 レベルは上がっていく感覚はあったが、光魔法レベルMAXって……。そんな簡単に上がるものか?

 大体、|点灯《点灯(ライト)》しかしてないし……。


 良く分からないけど、力が欲しいと願って生まれた剣だ。


「ヒメ! 出来るだけ壁側に寄ってくれ!」


 水晶玉はトラップの一部だからか、欠けることもなく無傷で転がる速度をあげている。

 俺は、一か八か光の剣を前方に振り下ろした。


 風を切るように、光の速さで前方に刃の閃光が飛ぶ。

 すると、スーッと何かが斬れる音がして水晶玉の動きが止まった。


 耳に聞こえてくる水音が大きくなってきていることで、俺たちは止まらずに走り続ける。


 ピシッ


 微かに聞こえてきた音に前方へ視線を向けると、真っ二つになった水晶玉が左右の壁に打ちつけるように転がった。


「やった!」

「えっ……? うわ〜! 凄いよナイトくん! て、水流も迫ってる〜!」

「オイオイ、すげェことやってのけるじゃねェかよォ!」


 思わず弾んだ声に恥ずかしさを感じたが、一瞬振り返るヒメと多月の喜ぶ声に自然と表情が緩む。

 まぁ、多月に抱えられている残念な状態に変わりはないけど……。


 割れた水晶玉を越えて迫ってくる水流が見えた。


「あっ! 前方に下り階段有り〜!」

「よっしゃァ! 行くぜェえ」


 足だけを竜化させた多月は、助走の体勢となって踏み込むと、階段目がけて加速する。

 ヒメもそれに合わせて速度をあげたことで隣合わせとなり、横顔が視界に入った。


「ヒメ! 階段の入り口を塞げるか!?」

「やってみる!」


 加速したまま滑るように階段を降りる多月に、浮き上がる身体で必死にしがみつく。


 俺の言葉で階段を飛行して(くだ)るヒメは杖を上部に向けた。


「――石畳の壁(ストーンブロック)!」

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