第二十九話 地下ダンジョンだった
再び多月を先頭に反対の正規ルートを歩いていくと、魔物と遭遇することもなく分かれ道に差しかかる。
「左側は、点灯で照らしたら直ぐに行き止まりだって分かったな」
「んー……つまんねェなァ。ブレスが撃てなくて、大声発したくて堪らねェのに」
「それは〜……もう少し我慢してもらって! ほら、ダンジョンボスのときに大暴れできるよ」
多月を宥めながら右側の通路を進んでいくと、直ぐに石畳の下り階段が現れる。
点灯で照らしても下がどうなっているか判別できないほど暗い。
「ダンジョンは基本的に階層で出来てるからね〜。ここは、地下ダンジョンみたい」
「そうなのか……まぁ、沼ガエルとか、ジメジメしてるから上じゃないとは思ったけど」
「だよなァ。さっきから熱くてたまったもんじゃねェ」
多月は、いつの間にかチャイナ風ドレスの上半身をはだけてサラシを巻いた姿だった。
これではヤクザの姐さんと言っても頷ける。
いきなり脱ぎ始めたときは焦ったが、ヒメによってこの姿に収まった。
下はフンドシだから大丈夫だとか、まったく良くはない……。
「この世界にも普通に下着はあるのに、どうしてそれなのか……」
「んァ? サラシのことか? それとも、フンドシかァ?」
「多月さん……両方だと思うよ」
俺たちが呆れているのをまったく理解していない様子に、盛大にため息をつく。
女性パーティーでも駄目だと思うぞ……。
再び目の前にある下り階段に目を向けると、通常の点灯では心もとないということで、ヒメが強化魔法をかけてくれた。
「――階位上昇!」
「おっ……光が強くなった」
一時的にスキルなどのレベルを一段階上昇させる魔法らしい。
強い光によって足元を照らすことが可能になると、多月は悠々と歩きだす。
さすがに階段にトラップはない。そもそも、まだ平和なことに違和感を覚える。
それに、階段を降りる間に壁にあった凹みも気になった。
「まだ、一階層だったからか……?」
「あー……トラップ? そうだよね〜ダンジョンって言ったら、ミミックくらいに付きものだし」
「オマエら、ミミック好きだなァ……宝箱じゃないって分かったときの残念さのが強くねェのかよ」
多月の言うことも一理ある。RPGでも宝箱があると気分が上がるからな。それが、ミミックだったら残念な気持ちにもなる。
トラップが無さすぎて足元にも壁にも注意を払っていなかったが、ここは地下一階。気を引き締めよう。
とはいえ、トラップを見つける魔法とかないと無理だよな……。
点灯で辺りを照らしていたが、不用意に壁に手をつくと、その部分だけが、ガコンと音を立てて凹む。
「あっ……。ヒメ、今更だけど……トラップを判別できる魔法とか――」
「うん、あるよー……今更だけど」
「なんか、上からスゲェ音しないか?」
上というと階段がある一階しかないが……。
点灯で照らすと階段の先が塞がれている。
まさかの凹みから大量の水が溢れ出ているようで、段差も失われて滑り台のように迫って来ていた。
「いやいや……あの凹み的に、普通なら火を灯す場所とかって思うだろ!?」
「そんなことより、これじゃあ他のトラップを調べる前に溺れちゃう! ――大地の壁!」
ヒメが杖を前に向かって振ると、階段がある道を塞ぐように土の壁が天井まで伸びあがる。
「思わず唱えた魔法だったから長くはもたないよ!」
「よっしゃァ! トラップ上等だぜェ! 行くぞ、オマエらァ!」
「なっ……! 多月! トラップ発動させた俺が言えたことじゃないが、慎重に――って、オイィッ!」
突然荷物のように抱えられると、走りだす多月に驚きながらも空を飛ぶ魔法で後ろからついてくるヒメと目が合った。
その間も、通路を全速力で走る多月が踏んだ床が沈む。
その直後、頭上から岩で出来た巨大な玉が、ズドンと天井から降ってきた。
ジリジリと距離を詰めてくると急に速度が増す。
「多月ぃぃい!?」
「クハッハハハ! 面白れェな! 追いかけっこなら、付き合ってやるぜェ!」
「もう、今更だけど! ――罠探知! 色がついているところは避けて走って~!」
結構な割合で、トラップを示す赤い警告色があらゆる場所についていた。
追いかけてくる大玉と距離を取りながら、多月は器用に赤い色を避けていく。
魔法は白黒じゃなくて助かった……。
多月が駆け抜けた道は一本通行で、俺は荷物のように抱えられたままヒメに指示を仰ぐ。
「あっ……ヤバッ。ナイト、しっかり捕まってろよッ!」
「えっ……て、壁ッ!?」
曲がり角に差し掛かり急に止まれない多月は壁を蹴るように上空に飛び上がった。
大玉が壁に激突して曲がり角に向かって方向転換するのと、ほぼ同時に多月も地面に着地する。
「クハッハハハ! 面白いな、トラップ! 気に入った!」
「うっ……俺は、酔いそうだ。――ギブ」
「ナイトくん頑張って! えーっと……――治療!」
ヒメが掛けてくれた魔法で、幾分マシになった気がしなくもないが、背後から迫ってくる大玉に目を逸らした。
そして、否応なく再び追いかけっこが再開される……。




