第二十四話 ブラックヒメ爆誕
俺たちは、夜になる前に近くの町で宿をとり、一夜を明けてから再び目的の町を目指して歩いていた。
誠の領域支配は、とても便利で一番安全なのだが、空間を増やすことは無理らしく、さすがに男女四人で雑魚寝をするわけにはいかない。
そのため、道で疲れたら空間で一休みして、夜は近くの町か野宿になった。
野宿の際、誠は空間で寝るとのことで、同性の俺もレベル1だから中で寝るように言われてしまった。
とても情けない……。
「今の町、明日からお祭りらしいよ〜。お祭りとか、ずっと縁がないから羨ましいね!」
「そうだな……俺は、正月の朝を迎えてたから……ある意味、カウントダウンっていうお祭りはあったけど、家でテレビを観てたしな」
「まァ、そのおかげで。コイツの家族がメディアにまで訴えてるのを観られたんだから、良かったんじゃねェのか」
多月のいうとおりだ。
おかげで、誠の目的も一致して元の世界に戻るため四人で協力をしている。
まぁ、その前に……最大の目的は、ヒメの魂を肉体に戻すことだけど。
一時間ほど歩いただけで、一番後ろを歩いていた誠が膝をついた。地面に手をついて四つん這いとなる姿に、本来一番後ろを歩く予定だった多月が誠の襟首を摘み上げる。
「うっ……も、もう……歩けない、です……」
「オイ、へばるの早すぎだろォ! これだから、引きこもりは……アタシと大違いだなァ」
「多月も引きこもっていたけど、体力あるのはドラゴンだからか?」
軽い気持ちで口にしたら逆鱗に触れたようで、ドサッと誠が荷物のように地面に転がされ、代わりに胸ぐらを掴まれた。
口から軽く炎が漏れ出す様子に瞬間、身体が凍り付く。
「ちょ、ちょっと待って~! ナイトくん、謝って!!」
「わ、悪い……」
バッと離される手の風圧でよろめくが、人間の目から竜のギラついた目に変わる多月に、思わず唾を飲み込んだ。
「森の中を駆け回っていたに決まってんだろォォオ!!」
いつも以上に大声をあげる多月の声は咆哮にすら聞こえて、自然と耳を押さえる。
引きこもりの違いでのお怒りだったらしい……。
──女心は複雑だ。
少しだけ誠の空間で休むことになった俺たちは、キャンプスタイルに変わっている床に寝そべる。
当然、誠はベッドで横になっていた。
「これは、快適そうだね〜! ナイトくん、いいな〜」
「誠、仕事が早いな? みんなで、休むときのために作り変えてくれたのか?」
「う、うん……ぼ、僕は……体力が、ないからね……」
俺が女神エムプーサに呼ばれる前に話をしていた誠のステータスを確認すると、思ったとおり持久力が1番少ない。
財前誠
年齢:28
性別:男
レベル:25
力:124
命中力:350
持久力:90
敏捷力:124
知力:250
精神力:500
魅力:400
魅力の高さは、きっとイケメンだからだ。男の俺からみても、線は細いが高身長で、少し頼りなさはあるが正統派イケメンである。オタクだけど……。
何より、身長が俺よりも高いところが羨ましい……。
「俺なんて、牛乳飲んで、身長が高くなるスポーツもしていたのに……」
「ナイトくん! 心の声が言葉に出てるよ!」
「クックックッ……ドンマイ、ナイト! まぁ、親の遺伝とォ……あとは、運だろッ! 知らねェけど」
多月は、また大笑いして転がっている。
真ん中に寝そべるヒメは励ましてくれるが、俺はそれを子守唄のように軽く目を閉じて両手で顔を覆った。
「――ナイトくん、ナイトく〜ん!」
「んっ……アレ? 俺、寝てた……のか?」
身体を起こしてヒメの横を見ると、大きな口を開けてイビキをかいている多月の姿が目に入る。
なんとなく察していたが、思った以上に豪快だった……。
「えーっと、アレからどのくらい経ったか分かるか?」
「確か、休憩前が……7時くらいだったから〜。――現在時刻!」
魔法の呪文を口にすると、再び顔ほど大きな時計が現れる。時計の針は、9時を指していた。
自然と手を額に伸ばして、カチャッという音で魔法のメガネをしたままだったことを思い出す。
「そんなに時間が経ってなくて良かったよ。それにしても、最初の町以外で他種族を見ないよな?」
「もしかしたら、基本的に種族の町とかで生活しているのかもね?」
「なんか、ファンタジー心をくすぐられるなぁ。冒険が終わったあとに、みんなで探索したくなる」
他愛もない話に花を咲かせていると、イビキが聞こえない気がして視線を後ろに向けた。
「アタシも、他種族は興味あるねェ……。そのメガネって自前じゃなかったのなァ。ちょっとアタシにも貸してみな」
「えっ……ヒメ。多月に貸しても大丈夫か? って――」
急に興味を示した多月に魔法のメガネを強引に奪われる。
ジロジロとこちらを眺めてきては下半身に注目していることに気がついて嫌な予感しかない。
「なんだ、思ったよりも良いモノ持ってるじゃねェかよ」
「なっ……!?」
思わず、下半身を両手で隠す。
――女からセクハラを受けたのは初めてだ。
恥ずかしいと思う感情はないが、勝手に見られていい気持ちはしない。
それに、隣のヒメが頭から湯気が出ているかのように放心している。
「――アレ? ドラゴンの丸焼きって、どうしたら、キレイに焼けるんだっけ……」
目に見えるほどの黒いオーラを放ち、ドラゴンの調理法について淡々と言葉を口にする姿に、二人で唾を飲み込んだ。
目は虚ろで、視点が合わない姿は恐怖をあおる。
「――ヒメ。だ、大丈夫か……?」
多月の戯れによって、ブラックヒメが誕生してしまった……。
――俺は、何も悪くない。
その後、ヒメによって魔法のメガネを没収されただけではなく、明らかな殺意を感じた多月は、機嫌を取ろうと毎日苦労することになった。
まぁ、自業自得だろう……。




