第二十三話 女性は怖い……。
目的を確認した俺たちは一度、領域支配から出ることにする。
気がつくと白黒の黒い部分が増えてきていたからだ。
色がないのは本当に不便で、時間について魔法使いではない人間は、白と黒の量で見極めている。
領域支配を移動させるには、誠が必ず最後に出ることによって空間が閉じる仕組みらしい。
「えっと……外に、出たのも……久しぶりで、ドキドキする……」
「うはッ! ホントかよ。まァ、本当の意味で、一歩前進ってことだ! つか、ナイトより不安要素あるが、死なねェよな?」
「うーん……少し心配だね。私が、防御魔法を掛けるけど……誠さんが良かったら鑑定させて!」
女性陣から注目を浴びる誠は、両手で身体を抱きしめるようにクロスして震えている。
見兼ねて間を取り持とうとした直後、一瞬で視界が暗闇に覆われ、3人の姿が見えなくなった。
「ナイトく――!!」
これは、初めて女神エムプーサに呼ばれたときと同じ感覚……。
まだ2度目だから、ギフト持ちの仲間が2人増えたことで誤魔化すしかないか……。
再び視界が開けると、初めて訪れた空間と同じ造りの白い世界が広がっている。
その中心に、白い細工されたテーブルと椅子が2つ置かれ、女神エムプーサの姿があった。
初めて会ったときは、清楚な白のワンピースドレス姿だった女神エムプーサは、スリットが入った青いドレスを身にまとい、少し露出が増えていることに気がつくが触れないでおく。
「再びの召集をお許しください、ナイト様」
「いや、急に呼ばれるのは驚くが……方法はないんだろう?」
「はい。一応、あの魔道具で確かめてからお呼びしてはいるのですが、暫く居場所を把握出来ず……早急に召集致しました」
俺の考えは当たりだったようだ。
誠の領域支配に居座っていたことで、女神エムプーサの召集魔法は介入できなかったということ。
女神エムプーサは、スッと立ち上がると手をこちらに向けて座るよう促してくる。
隣の椅子に座ると、紅茶を差し出された。
座る位置も計算づくなのか、再び椅子に座る女神エムプーサの肢体が良く分かる。
ヒメによる防御魔法には毒耐性もあるが、果たして女神に通じるかが問題だ。
だが、2度目ということで飲まないわけにもいかない。
カップに軽く唇をつけ一口含むと、喉を鳴らすように飲む。何かのハーブティーのようで、ホッと息が漏れた。
「これは、なんのハーブティーなんだ?」
「それは、ローズマリーです。若さを取り戻すハーブと呼ばれており、女神の間では人気なのです」
諸説あるらしいが、疲労回復効果から女神の間で、そういわれているらしい。
毒は無味とも聞くが、今のところは問題はなさそうだ。
必要以上に女神を疑う人間なんて、もしかしたら俺くらいかもしれない……。
本題に入られる前に、俺は近況を話すことにしてカップを皿の上に置いた。
「先ずは、アレから実は仲間が2人できたんだ。どちらも異世界人の」
「まぁ、そうなのですか? それは良いことです。あの者を倒すには、女神のギフトを授かった者でしか倒せませんから」
「一人は、とても強くて頼りになるし、もう一人も防御力に長けてるから、パーティーとして申し分ない」
営業スマイルを向けると、女神エムプーサも笑顔となり座っている足のスカートのスリットをめくる姿が視界に入る。
俺は知らないフリをしてハーブティーを飲みほした。
「今のパーティーなら、俺は女神のギフトがなくても大丈夫そうだ」
「そう、なのですか? わたくしは、別に……こちらの手違いによって、誘拐しましたので……」
「俺は、想像力が欠落した人間代表だ。だから、ここぞってときに貰いたい」
女神エムプーサは、明らかに神妙な面持ちとなり視線を下に向けたあと、こちらに顔を上げ納得したように頷く。
「分かりました。それでは、次は……貴方様が、女神のギフトを求めた際に呼び声に応えましょう」
「有難う。それじゃあ、仲間が待ってるから……元の場所に戻してほしい」
「そうですね。……それでは、再びお会いできることを祈っています」
初めて会った際は気づかなかった赤いルージュの艶めいた唇が、密かに、ぷるんと揺れてみえた。
その直後、俺の視界は再び暗闇に覆われる。
「――――ナイ……く――」
「オイッ――ナ……!」
気がついたときには、誰かの呼び声が耳に届いた。
複数聞こえてくる声に、目蓋を開くと目の前にヒメの顔面が映る。
視線を横にずらすと、空と2人の顔もあり、地面に寝転んでいると分かったが、首から伝わる暖かさと弾力に思わず手を伸ばした。
手に触れたのは柔らかい感触で、目の前にあるヒメの顔が明らかに動揺したように目を泳がせているのに気がつく。
言葉を発する前に多月のニヤケ顔で理解した俺は、思わず飛び起きた。
「うわっ! わ、悪い……わざとじゃ――」
「う、うん! 大丈夫だよ! ナ、ナイトくんが……急に消えて、心配してたらまた直ぐに現れて……目を覚まさないから、地面だと辛いと思っての行動だから!」
顔に熱がこもるのが分かるほど、暑さに思わず手を団扇のようにしてあおぐ。
ヒメも早口のように状況説明をしてくれる中、1人腹を抱えている多月に、俺は冷ややかな視線を向けた。
「ハッハッハ! ウククッ……若いっていいねェ? そう思うだろう! 誠ォオ!」
「うっ……! 背中を、叩く力が……もう少し、弱めでお願いします……」
途端に限界と言わんばかりに笑いだす姿に肩を落とすと、隣にいた誠は被害を受けるように背中をバシバシと音がでるほど叩かれて痛そうな声をあげる。
「それで、女神様はどうだったんだァ?」
「えっ……と、なんか。服装が変わっていたな……青いワンピースに、スリット? が、入ってて――」
「何それ!? まさか、ナイトくんを狙っているんじゃ……悪い予感、的中だね。ぜぇぇぇったい! 女神の魅力に負けないで!」
明らかに態度が一変するヒメに動揺しつつ、女神と呼び捨てする姿に、女は怖いと感じた……。
それに対して、更に声高らかに笑う多月に俺は被害者の誠と目が合い、2人揃ってため息をつく。




