第二十二話 魔法少女オタクの正体は
未だにギフトを得ていない俺は、またいつ女神と会うか分からないし、下手なことを言って計画がバレるわけにはいかないから、何も言えない。
「――僕! みんなのために、協力するよ! 領域支配しか、能力がないへっぽこだけど……両親と、お兄ちゃんが、こんな僕を、今でも待ってくれてるのなら……僕で良かったら……」
多月の事情を聞いた財前さんは、ガタッと音をさせて立ち上がった。
その姿に満面の笑みを浮かべた多月は無言で立ち上がり、財前さんの背中をバシバシと音をたてて叩く。
「ぐえっ」と人間からでてはいけない声をあげる財前さんに同情しながらも、自然と俺たちは立ち上がっていた。
「それじゃあ、改めて。これから宜しく、財前さん」
「う、うん……あ! 年も、そんなに違わないし……誠で、いいよ」
「それじゃあ、誠さん! 宜しくね~。それでなんだけど……早速、聞きたいことが~」
そういってヒメに手招きされた誠は、ベッド横にある棚から一冊の本を取り出している。
誘拐されたときに手にしていたことで、唯一共に召喚された、魔法少女の漫画らしい。
それを聞いたヒメの興奮は目も当てられないほどで、誠も最初は助けを求める顔を向けてきたが、次第に意気投合して2人の世界に入っていた。
いつの間にか横で一人酒を煽っていた多月の腕が腰に伸びてきて、鷲掴みにされ引き寄せられる。
「うっ……少し、力加減を……」
「あァん? これでも、加減してるわ。そんなことより、良いのかよォ? アレ。すげェ、仲良さそうだけど」
「えっ……ああ。別に……同じ趣味の仲間と、楽しんでいる感じだし……2人に、そういった感情はないだろう」
ニヤニヤしている横顔が丸分かりの多月に、会社の宴会で酔っ払いに絡まれたときを思い出した。
こいつは、今まで洞窟に引きこもっていたとは到底思えないほどのコミュ力と、勘の鋭さをもっている。
――俺は、酒の肴にはならないぞ……。
そんな矢先、突き刺さるような視線を感じてゾクッと身体を震わせ振り向くと、なぜかヒメと目が合う。
唇を尖らせている様子に首をかしげるが、再び誠に向き直って魔法少女の話で盛り上がる姿に、感じた寒気は気のせいかとホッとした。
「うーん……あっちは、自分の気持ちに気がついていないタイプだなァ。まぁ、応援してやるから、頑張れや!」
「えっ……? イッ……!」
最後に思い切り背中を叩かれると、痛みで軽く声が出る。
絶対、俺のHP……減ってると思うぞ。
しばらくして落ち着いた様子の2人がローテーブルに戻ってくると、今後の話をすることにした。
また、いつ俺が女神に呼び出されるかも分からない。
会社でもそうだが、報連相はとても大事だ。
「ヒメの残り時間が分からないし、元神の状況も分からない。だから、なるべく急ぎたい」
「アタシも同じ考えだ。だから、ヒメに聞いた町を目指すのが目標だよなァ? その道中で、ナイトのレベルも上がるといいけどよォ」
「ナイトくんは、またいつ女神様に呼ばれるか分からないけど、目的の町についたらゴールは近いから!」
目的の町は、危険な場所に挟まれた中心部にあるらしく、入出料が発生するらしい。
「めんどくせェよなー。そんな道のど真ん中に、町を作るんじゃねェって話だぜ」
「ま、まぁ……そう、だよね? ぼ、僕も……そう思う」
「まぁ、厄介な臭いしかないが、多月はドラゴンに変身しても最低1人しか乗れないらしいから、町に入るしかない」
誠のおかげで、安全な空間でゆったりと話ができる。
それに、この空間内ではもしかしたら……。女神の影響を受けない可能性があるかもしれない。
まぁ、移動ができないのが惜しいけど……。
確認が終わると、誠をじっと見つめている多月に気がついた。
バンッ!!
テーブルを叩いた多月は急に誠の襟首を掴む。
「えっ……ちょっ! 多月さん!?」
「ヒッ……! ぼ、僕……何か、気に触る、ことでも――」
「――その前髪。旅に出るには邪魔だろォ! 今から切るぞ!」
会ったときに感じてはいたが、話題にしなかった長い前髪。そのせいで、誠の目を見ることはなかった。
ブルブルと肩を震わせる誠は、真剣な眼差しを向ける多月に大きく首を上下に倒す。
「よしッ! その男気、気に入ったァ! 動くなよォオ!」
男気を見せた誠に気を良くしたらしい多月は、手を離すと拳だけを竜化させた。
思わず目を瞑る誠の前髪は、多月の爪による早業でスパッと切られ、俺たちは初めて誠の目を見ることになる。
しかも、まっすぐではなく、美容師のように段がついていたりして、器用さに驚いた。
おどおどしながら、目蓋を開く誠は何回か瞬きをして、開けた視界を確認している。
「あ、有難う……ございます。久々に、しっかりと前が見える……」
「当たり前だァ! つか、良くそんな前髪で生活出来てたよなァ?」
いつの間にか手鏡で確認している誠は、意外と気に入っているようで、笑顔だった。
――そして、まさかのイケメンだったことが判明する。




