第二十話 領域支配
「ぼ、僕の名前は……財前誠。この、空間は……僕が、女神様に頼んで与えてもらった……領域支配。この中では、僕は無敵……。あ、でも……移動は、できない」
「それ、すごい! あ、私は結束ヒメ。宜しくね? 財前さん」
「あァー……アタシは、五十嵐多月だ。んで? この空間内で、オマエに何かしたら、追い出されたり?」
悩みのタネを増やさないでほしい……。
避難させてもらったのに、また外に放り出されるのは御免だ。
「ひっ……! そ、それは……僕や、この空間にあるモノに、危害を加えなければ、自由……だと思……います! 他人を、招いたことはないから……追い出されるかは、僕にも……」
先ほどの件で明らかに怯えている財前さんは、小刻みに肩を震わせて、恐喝されている子供のように言葉を絞り出している。
多月は、怒鳴っていたわりに頭をぶつけた件は怒っていない様子で、この空間に興味をもっているようだ。
「ふーん……なら、仲良くしようなァ? 誠ォ……」
「ひっ!! お、お、お手柔らかに……お願い、します……!」
多月のおかげで、やりにくい空気感だが、中からは外の様子がバッチリ見える。
地面を耕す勢いで巨大な複数の根っこと、巨大なミミズが這いずり回っていた。
「――巨大ミミズもいるぞ……というか、あの霧を生みだして、俺たちを踏みつぶそうとしたのは、あの木の根だよな……?」
「うん……弱点は、あるんだけどね……ちょっと、時間がかかっちゃって、先手を打たれたよ」
芯から温まるようなココアに心を落ち着かせる。
あの魔物は、俺が魔法のメガネで調べたとおり<質の悪い幻覚を見せる魔物>というらしい。
長ったらしい名前の時点でタチが悪すぎる。
「実は、本体は地中に埋まっている巨大な球根なんだよ! だから、強力な魔法で球根を地上に出すから、トワイライトで真っ二つにしてほしいの」
魔物の中心には生命の源の魔石があるとかで、それを破壊したら死ぬらしい。
まぁ、良くある王道ファンタジーに俺は深く頷いた。
とはいえ、当たり前だが……実際に包丁以外の刃物を扱ったことはないし、石を砕いた経験もない。
ザコ相手に練習でもしておくんだったか……。
「と言うことで、作戦は以上! 球根がでたところで――」
「アタシが、ナイトを抱えて飛び出して〜。襲ってくるだろうミミズと、根っこを対処しながら、球根をバッサリやるって話だな!」
「――女性に抱えられた状態で、初めて武器を使うっていうのは……とても恥ずかしいが、仕方ない。やろう」
多月が球根に向かって俺を投げるという提案をしたが、即座にヒメに却下される。
常時、防御魔法は掛けてもらっているが、レベル1の俺が万一でも攻撃をくらったら、即死らしい……。
――まったくもって笑えない話だ……。
魔物と戦う経験なんてVRゲームか、夢の中だけだろう。
トワイライトは魔剣だけあって普通の剣じゃない。
鞘で、誤発(動)を防ぐといっていたけど……魔法って、どうやって発動するんだ?
求む! 剣を振るだけで魔法がでる単純さ。
落ち着いた俺たちは椅子から立ち上がる。
ベッドに座って一言も発しない財前さんは気になったが、今はあの魔物を倒すことが先決だ。
「財前さん、本当に有難う。おかげで、命拾いしたよ」
「うん! 強力な領域支配だけあって、移動できないのは不便だけど〜無敵っていうところに憧れる」
「あァ……まぁ、なんだ。ビビらせて悪かったな? アイツをボコってきたら、オマエの話もう少しくらい聞かせろよなッ」
一番にヒメが魔法を唱えて穴から上空に高く舞い上がる。
その直後、地面が割れると巨大な球根が地上に姿を現した。
見た目は、巨大な玉ねぎにしか見えない。
「ヒメが地面を破壊したんだ! 多月――」
「よっしゃ! イクぜェ!」
一回り身体を大きくする多月に抱えられるようにして、俺たちも安全な空間から飛び出す。
地面が砕けたことによる足場の悪さに足だけ竜化する多月と、俺の重さでバキバキッと地面では聞かない音が響いた。
多月は、楽しそうな表情をして空中に飛び上がったままの球根めがけて駆け出す。
思ったとおり、邪魔をしてくる複数の太い根と、巨大ミミズに再び口を大きく開ける多月はドラゴンブレスで焼き払っていった。
球根に辿り着くと、俺は腰の魔剣トワイライトを引き抜いて多月に当たらないよう気をつけながら横に構える。
「イッけえェェ!!」
多月の声を合図に俺は切っ先を振り抜いた。
瞬間、眩い光に包まれた魔剣トワイライトの刃は、鋭い切れ味で球根を真っ二つにする。
一瞬、ガキッと硬い何かに当たった感触があったが、ソレが魔石だったのかもしれない。
球根の断面が見えると、中心に青っぽい拳くらいの石が見え、真っ二つに割れていた。
すると、玉ねぎのような色をしていた球根は、一瞬で白黒に変化する。
魔石は砂のように光の粒子となって消えていった。
呆気なく戦いが終わると地面に足をつく。
上空にいたヒメも降りてくると、穴から覗いていた財前さんに気がついた。
すぐに引っ込んでしまったが、心配してくれていたのかもしれない。
足場の悪い地面を歩いて再び穴へと向かう。




