第二話 彼女に誘拐されたらしい
「その、女神のギフトっていうのは、良くある異世界転生とかのアレで良いのか? 俺は、死んだよりも召喚されたような感覚だけど……」
疑問を投げかけた瞬間、彼女は立ち上がり深く頭を下げてきた。角度90度は、いっているかもしれない。
俺も良く分からないまま思わず立ち上がった。
「ごめんなさい!!」
急に謝られて、俺は肩を大きく揺らす。その理由は直ぐに分かった。
「その……私、こんな見た目のとおりで、魔法が使えるの」
「えっ……そうなのか? やっぱり、此処は異世界ってことになるのか」
魔法という単語で、不安だった俺の心に少しだけ面白いという気持ちが芽生える。まさか、平凡な人生を歩んでいた自分が異世界に飛ばされるなんて思いもしなかった。
「うん……そうなんだけど。実は、女神様の魔法を、盗んで……貴方を誘拐したのは、私なの!」
「えっ……?」
――まさかの彼女に誘拐されたらしい。
少しの間、思考が停止した。
つまり、あの夢は……誘拐する前のフラグ?
みたいなものだったのか……。
「その……帰る方法が見つかったの。でも、それにはギフトを持たない異世界人が必要で」
頭を下げたままの結束さんに、顔をあげるよう促すが、真剣な彼女はその姿勢のまま理由を口にする。
「それで、なんで俺だったんだ?」
これは、素直な疑問だった。彼女が誘拐される前に最後に会っていた人間だったとしても、普通なら家族とか身内を思い浮かべる。
まぁ、俺たちが25歳なんだから、彼女の両親は50歳は過ぎているだろうから無理か……。
確か、彼女は俺と同じで一人っ子だったはず。
「その……1番に、顔が浮かんだから」
「えっ?」
両手を擦り合わせるように、モジモジしながら何を言うかと思ったら、まさかの発言に思わず上擦った声がもれた。
「あー、その! 当時から、スポーツ万能で頭も良かったでしょう!? あれから15年も経ったら、きっと頼りになる男の人に成長していると思ったから……」
少しして顔をあげる彼女は、目を泳がせている。
恥じらう姿を目の当たりにした瞬間、ドキッと胸の奥が騒ぐのを感じた。
今まで感じたことがない……。いや、小学4年生のとき、彼女に感じていた気持ちと同じだ。
思わず左手を胸に当てる。
「その、結束さんは、なんのギフトをもらったの?」
「えーっと……大人になった今だと恥ずかしいんだけど……当時は、小学4年生だったから……ま、魔法少女になりたいってお願いしたの!」
とても可愛らしい願いごとだった。
でも、そうか……彼女は、俺と別れたあの日から、この白黒の世界で懸命に生きて――。
「とても、可愛いと思うよ?」
「有難う! そ、それでね! なんで、こんな姿かっていうと……魔法少女は、この世界に合わないから、魔法使いでって言われて……」
あー……良くある、王道じゃないってヤツか。
まぁ、この世界は確実に異世界だし。魔法少女は、日本のアニメだからな……。
「それなら世界最強でっ! て、お願いしたら賢者? っていう、魔法なら、なんでも扱える職業になったの」
賢者といえば、どの物語でも最強と呼ばれる職業に間違いはない。
だけど、これで話は終わらなかった。
複雑な表情を見せる彼女の顔は、曇っている。
「いつ、帰れるの? って、聞いたら。女神様は、こう答えたの。もう、かえれない」
「えっ……」
その言葉が得体のしれない何かに感じて、ゾクッと身体が震えた。
「帰りたいって訴えたら……ギフトを貰った瞬間から、あなたはこの世界と縛られた。だから、もう帰れない……」
なんだか、ホラー話を聞いている感覚に襲われて、思わず両手をクロスして腕を擦ると唾を飲み込む。
嫌でも視界に入る白黒の世界観が、さらに怖さを増長しているように感じた。
「ごくたまに、いなくなった子が、戻ってきたとかニュースであったでしょう? あれは、多分なんらかの形で、ギフトを貰わなかった子供たち」
彼女と会話することで、だんだんと当時のことを思い出す。
つまり、ギフトを疑問視した子供たちが、帰りたいと訴えたのかもしれない。
でも、神隠しに遭うのは小学生以下だ。
「だけど、女神様はこうも言ったの。私の力ではどうにもできないけど、1つだけ方法がある。あの者を倒して、この世界の色を取り戻せたら元の世界に戻れるって」
誘拐されて不安になっている子供にいう話じゃないだろう……。
しかも、まるで脅しのような話だ。
「でも、漫画とかで良くあるのは、特殊なスキルを持ってるタイプか、神や女神かにチート能力を貰わないと、この世界を生き抜けないんじゃ?」
「そこは大丈夫だよ! 特殊なスキルはないけど、異世界人は潜在能力が向上する」
なるほど……。
そういえば、高校生くらいに流行っていた漫画に、『魔王を倒してください勇者さま』とかあったな。
戦闘能力が向上するのは王道。
つまり、俺の秀でている部分もレベルアップしてるってことか?
腕を組んで考える。
「それを見る方法はあるのか?」
「魔法使いだけかな。神崎くんが良かったら、私が視るよ」
そういって、結束さんは目をこらすと焦げ茶色の瞳がラベンダー色に淡い光を帯びる。透けていて、とてもキレイな目をしている。
「少し恥ずかしいけど、頼む」
「まかせて!」
人に見られるのは、別に気にしたことはなかったが、彼女に見つめられると、正直気恥ずかしさがあって顔を横に向けた。
しかも、俺の格好は寝間着である。この世界に町はあるのだろうか……早く、着替えたい。
「うわっ! 神崎くん、すごいよ!!」
そんな俺の気持ちはお構いなしで、少女のようにその場でピョンピョン跳ねて、はしゃぐ姿は可愛かった。
「えっ……? それは、良い意味で、だよな?」
「もちろん! それじゃあ、読み上げるねー。ちなみに、この世界では、力って文字で分けられているみたいなの」
彼女が教えてくれたのは、『力、命中力、持久力、敏捷力、知力、精神力、魅力』の7つ。
良くあるゲーム表記だな。
それで、俺のステータスは――。
神崎ナイト
年齢:25
性別:男
レベル:1
力:150
命中力:100
持久力:100
敏捷力:150
知力:100
精神力:100
魅力:200
らしい。
正直言って、無駄に1番高い魅力の意味が分からないな……。