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【完結】異世界誘拐物語 〜女神のギフトは甘い罠〜  作者: くれは
第三章

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第十八話 タチの悪い魔物

 太陽の日差しすら分からない中、俺たちは目的地に向けて平地を進んでいる。


 異世界にきて、一度だけ危ない目にはあったが、思っていたよりも安全な旅に拍子抜けしていた。


 俺のレベルは当然上がることはなく、先頭を多月、真ん中に俺、後方をヒメという女性に囲まれた情けない構図になっている。


 はたからみたら美女に囲まれたハーレム男だと勘違いされて、刺されそうだけど……。

 単純に女性二人に守られる情けない男なだけだ。


「――俺も、早くレベルを上げたい……」

「うーん……私が旅立ったときと違って、全然魔物と会わないね〜」

「あっ、もしかして多月の効果とか……? あの森にも魔物が一匹もいなかったわけだし」


 二人で先頭を歩く多月に視線を向けると、ちょうど大きな欠伸(あくび)をしている。

 これも、ある意味平和だということだろうか。



 急に振り返る多月は変身を解いた人の姿をしているが、ドラゴンだと分かる角と尻尾がある。


 赤いチャイナ服のようなスッキリした格好にしっかりとした女性の部分が感じられるのは、少し刺激的だった。

 しかも、スカートの丈が異様に短い……。


「あァん? 魔物がいねぇのは、アタシのせいかもなー。つーか、ナイトはそんなにアタシの服装が気になるのかァ?」

「えっ……!? いや、元の世界で見たことが……漫画くらいだったから」

「ナイトくんのエッチ……。見すぎだよ〜。そういえば、その眼鏡を悪用してないよね?」


 思わぬ飛び火となって上手い言い訳を探していると、道すがら急に視界が悪くなり霧が立ち込めてくる。


「えっ……急に、霧?」

「待って! これ……魔力が宿ってる!」

「オイオイ……。アタシの苦手な、(たち)の悪い幻覚を見せる植物じゃねぇか!」


 考える暇もなく一気に霧が濃くなると、二人が視界から消えた。


 俺は思わず腰から魔剣トワイライトを抜く。

 左右を見回すが、自分がどこにいるかも分からず身動きが取れない。


 万一にでも二人を攻撃して同士討ちなんてことになったら……。



 すっかり忘れていた魔法のメガネで、もう一度周囲を見回してみる。


 劣化版のためステータスは見えないが、俺は霧の正体を探った。


 すると、文字のような何かがメガネを(かい)して浮かび上がる。



 <(たち)の悪い幻覚を見せる魔物()



「えっ……? 多月が言っていたまんまだな。二人ともー! 無事だったら返事をしてくれ!」


 シーンと静まり返ったまま何も聞こえない。すでに道に立っているかも分からない感覚にトワイライトを握りしめた。


 事前にかけてもらっているヒメの防御魔法があるとはいえ、これは物理的な攻撃を受けた場合に効果がある。


 つまり、精神魔法に対しては無力だ。しかも、霧を出している植物系の魔物がどこにいるかは分からない。


「あからさまなフラグなんて立てたつもりはないぞ……。俺に、風の魔法でも使えたら……。いや、それならヒメがしていたはず」


 霧によって分断されただけで攻撃がないのも妙だ。

 もしかしたら、俺はザコだと後回しにして先に二人を……。


 そう思っていた矢先、背後から不意を突かれるようにして何かに羽交い締めにされる。


「うわっ!?」


 思わず上擦った声が出て恥ずかしい。

 だが、下に視線を向けると、それが人の手だと分かる。

 しかも、背後から耳元に聞こえて来た声は良く知る人物だった。


「うぅーん。あっラかい……弾力は、ないけロ……まぁまぁな、感触――」

「って……その声、多月か!?」


 背後に振り返っても姿を確認することは叶わなかったが、かろうじて魔法のメガネによって、五十嵐多月という名前の表示がされる。


 身長差がそんなになかったことから、多月の両手は腰に回されていて少し安心した。

 これが、ヒメだったら……危なかったかもしれない。


 霧で見えないため、危険なトワイライトをなんとか(さや)に戻すと、腰に回されたままの両手を掴む。


 俺より強いはずの多月がやられる魔物。弱いと言っていたが……なんだか、酔っぱらっているようにも思える。


 片手で両手を掴んだまま、空いている手で多月の肩を揺らしてみた。


「多月……。しっかりしろ!」

「うぅーん……もう飲めラい……眠い――」

「寝るなっ……。て、重いッ……。アレか、ドラゴンの尻尾」


 微かに見えた赤い色は、完全に地面にくっついている。

 普段は多月が手足のように動かしていて地面に接着はしていなかった。


 残るはヒメだが……多月と違って賢者の称号をもつヒメに幻覚は効かないはず。

 近距離じゃないと声が拾えないのかもしれない。


 攻撃をされない今しか合流する余裕はないぞ……。

 魔物の知識がないのが痛い……。


「ヒメー! どこだー!」


 叫んでも返事はなく、なんとか支えている多月は完全に爆睡した。

 そんなとき、まさかのすぐ横から別な声が聞こえてくる。


「……ついに俺も、幻覚に取り込まれたか――」


 目を凝らすと、霧の影響を受けていない空間に、黒い穴があった。

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