第十六話 仲間と書いて運命共同体と説く
沈黙していたヒメは、俺の言葉に目を見開いている。
きっと、彼女は多月を仲間に加えるつもりはなかったんだろう。
事情を聞いて尚更そう思った。今さら、女神の依頼に挑んで、万一命を落とすかもしれない。
それに、あの女神は真実と嘘を混ぜている。
だから、色を取り戻せたら帰れるという保証もない。
だけど、俺はヒメの言葉を信じている。
ヒメは正直強い。だけど、幽体な部分に不安が残る。
初期ステータスは高くても、レベル1の俺には自分の身を守ることも、万一ヒメが肉体に引っ張られたり、消えるようなことがあったら、それに抗う力がない……。
だから、その力を蓄える間。他人の力を借りたい。
「そう言われて、アタシが力を貸すと思っているのか? 今さら、何をしても手遅れかもしれないのに……」
「ヒメ……重要な話を、多月にしても構わないか?」
「えっ……私のことなら、ナイトくんに委ねるよ。誘拐したのは、私のワガママだから」
ヒメの了解を得ると、俺は正座した足に手を置く。
「なんだ? アタシも自分について話した。話くらいなら、聞いてやるよ」
「有り難う。実は、ここにいるヒメは、幽体なんだ。つまり、幽霊に近い」
「――は? はぁぁあっっ!? 嘘だろ! えっ……触れるけど」
幽霊が苦手なのか、異様な反応を示して肩を揺らす多月は、おもむろに尻尾を伸ばしてきた。
先ほどは、他の部分に気をとられて気づかなかったが、赤く太いドラゴンの尻尾が生えている。
それを器用に動かして、ヒメの足に触れていた。しっかりと感覚も伝わっているらしい。
「簡単にいうと、ヒメは賢者の称号を得ていて、魔法によって魂を入れ物に入れているような状態なんだ」
「なるほどねェ……人形みたいなもんか。アタシは、見てのとおりドラゴンだ。ちょっとドラゴンに憧れていて種族を変えてもらった」
見た目どおりドラゴンが出来ることは、なんでもできるらしい。
魔物でいうなら最強種かもしれないが、願い事にしては弱いな。ヒメの方が強いだろう。
「それで、俺たちは元神が何かをした情報を女神からも得ている。それからヒメが肉体を失った経緯は、一度元神に負けたから……」
「あァ? てことは、なんだ? オマエ、単身で挑んだのかよ! そうか……死んだのなら魂が残ったとしても、色を失う」
人形だろうと魔法だろうと、生命体があっての色だ。これは、絶対条件だと思う。
付喪神のような装備品以外に色がある現象も生命体あってこそ。
俺たちは持ち主から離れて少しして色を失っていくのを見ている。
俺は思わず前のめりとなって土下座をするような形をとった。プライドなんて関係ない……。
万一、元の世界に帰れなくても彼女の肉体を取り戻したい。不安定な存在だと分かったヒメを目の前で失うのが怖いんだ――。
多月の顔は見えない。横にいるヒメも顔を伏せたのが分かる。
多月は誘拐されてから、ずっとここに独りで暮らしていたのだろうか……。
「アァァァ!! 分かったよ! 元の世界にも、戻りたい……だけど、一番はヒメの肉体を取り戻したいってわけな」
頭をガシガシとかきながら、彼女は叫んだ。
多月も小学生で誘拐されたのに頭の良さが垣間見える。
「元神に挑んでほしいわけじゃないんだ……実は、俺は昨日この世界にきた。ヒメに誘拐されて」
「へッ……? オイオイ嘘だろ!? ヒメ、オマエも中々やるじゃねェか! 大体分かった。つまり、レベル1のナイトが自分で自分の身を守れるまで、お供してくれってことか」
察しがいい多月に俺は顔をあげて真顔で頷いた。
横から視線を感じて目線だけ動かすと、ヒメと目が合い反らされる。
別な意味で顔を足に埋めるヒメに首をかしげた。
「よし! そういう男気は嫌いじゃねェ。それに、異世界に誘拐されて、25年! 初めて同郷に会えたんだ。ドラゴン姉さんの力を貸してやるよ!」
「有難う。あ、しっかりと名前を言ってなかったな……俺は、神崎ナイト。改めて宜しく」
「おうッ。アタシは、五十嵐多月だ。ヨロシクなッ」
互いに立ちあがって握手を交わす。
隣にいるヒメも立ちあがると、その上に両手を置いて笑顔をみせた。
「多月さん、有難う! 不束者ですが、宜しくお願いします!」
どのくらいの時間が経ったか分からないが、ヒメは左手を頬にそえて目線を下にして悩んでいるように映る。
同じ異世界人と出会い、仲間が増えたことは喜ばしいことなのに……。
「えーっと……どうしたんだ? ヒメ」
「ナイトくん……。重要なことを忘れているよ……私たちが、ここに来た目的」
「あっ……ドラゴン討伐! でも、そのドラゴンは同じ異世界人で、人間だった……説明が難しいな」
ギルドマスターは、異世界人を知っているから、説明のしようはある。
だけど、ドラゴンの討伐依頼は、かなり目立っているため周りが騒ぐ可能性は高い。
「そうだ!」
「うわっ! どうしたんだ?」
大声をあげるヒメに驚きつつ、何かを閃いたようで背の高い杖をかかげる。ドラゴンの姿でも眠れるくらい広く高い洞窟のため、少し大きめな杖を降り上げても天井にあたることはなく、それをおもむろに多月に向けた。
「えっ……?」
「あァ? ヒメ……アタシとやり合おうってか……」




