第十四話 遠足感覚で、ドラゴン退治?
俺たちは、早朝と思われる時間から活動を始める。
もちろん、あれから現在に至るまで何もない。
部屋に入ってから、ヒメがアイテムボックスを使えることで、荷物の整理もする必要がない俺たちは男女時間帯で分かれて入る風呂で汗を流し、そのまま就寝した。
異世界もさまざまで、この世界に風呂の概念があって本当に有難い。
やはり、日本人といったら湯舟は大事だ。水浴びだったり、シャワーだったり、身体が洗えるだけマシかもしれないが……正直言って生活が一変するのは辛い。
ただですら異世界に誘拐されたんだ……。
ヒメや女神サマのように美人や可愛い女性相手じゃなかったら、キレていると思う。まぁ紳士な俺は最悪、男相手でも穏便に対応するけど。
「準備できたね! それじゃあ、ドラゴン退治に行ってみよう~」
「……なんか、遠足に行くノリな気がして不安だ」
俺たちは宿を後にすると、そのまま徒歩で岩山に向かって町を出る。
便利な魔法で、飛行魔法というものもあるらしいが、上級魔法使い~賢者の領分らしくて目立つようでやめた。
まぁ俺は営業で5年間、自転車を走らせて、それ以外でも体力作りとしてジムに通ってこれでも鍛えている。
見た目が細くみえるのは着やせするタイプなのと……筋肉がつきにくいだけ。俺が目指しているのは細マッチョだから全然問題ない。
「ナイトくんとの初めてのバトルが、ドラゴン退治になるなんてね~」
「そうだな……異世界って気がしてきたよ。まぁ、この剣で斬れるのかも謎だけど……」
腰に携えた例の魔剣トワイライトの柄に触れると、森の入口が見えてきた。
岩山の洞窟は目立つ場所にあるようで、下からでも良くみえて森の中で迷うことはなさそうで助かる。
まぁ、こちらには万能な魔法を使えるヒメがいるから、まったく心配はしていない。俺もレベル1にしては強いらしいが、賢者の称号は本当にチート能力だ。
森といっても、しっかりと整地された道ですぐに目的である洞窟までたどり着いてしまう。
岩山といっても、洞窟がある一角のみだった。
「うーん……ギルドマスターがいうように、たどり着くのに時間はかからなかったな」
「うん……魔法で飛んで行ったら1分だったね」
魔物も一切でないのはドラゴンの根城だからな気がする。
元の世界でもそうだが、動物社会では縄張りがあって人間以外は弱肉強食だ。まぁ、人間社会でも大半は死ぬことはないが……弱肉強食はある。
いじめなんかが代表的だ。弱い立場の人間は、虐げられる。
俺も、普通の家庭で生きてきたが、いじめられたことはあった。
そんなとき思うことは、いじめているヤツらの方が、みじめで、かわいそうだということ。アレは純粋な強さじゃない。本当に強い人間は、弱者を守る立場だ。
動物社会でいうなら、群れを作る種族は力の強さでリーダーが決まり、弱い者を守る。まぁ、確実にドラゴンは単体で強い魔物だから、弱者を守ってくれないタイプだろうけど……。
「ナイトくんは、私の後ろにいて……。絶対前に出ちゃだめだよ!」
「あ、ああ……分かった」
これは、俺が言いたい台詞だった……。
だけど、今の立場ではヒメに任せよう。安全のためと事前に防御魔法を掛けてもらったけど……攻撃を受けない方が絶対に良い。
洞窟は意外と深いのか、外から中までは見えなかった。
背の高い杖を握りしめて一歩前に足を踏みだすヒメに、俺も一歩踏みだした瞬間、けたたましい声が耳の鼓膜を震わせる。
「――我が名はタツキ。凶悪なドラゴンである。殺されたくなければ立ち去るがいい」
「うっ……! 凄い声だ……でも、今……タツキ?」
名前を名乗るドラゴンに、人語を話せるとウワサは聞いていたが、その名前が日本語にしか思えなかった。
ヒメも驚いたように俺を見つめている。
「えーっと……タツキって、漢字でどう書くんだ? それとも、ひらがなか、カタカナか?」
「あー……漢字だ。んで、多いに月って書いて、タツ――え……?」
俺たちは立ち止まったまま、声を張り上げた。
すると、普通に返された言葉に明らかに異世界人だということが、お互いに分かる。
約1分ほどの体感。沈黙の末、洞窟から足音が聞こえてくると、姿を現したのは2本の少し曲がった赤い角と、赤いストレートヘアーを風になびかせた女性だった。
恰好はチャイナ服のようで、きわどい短さのスカート部分から長い足が伸びている。
思わず視線が下に向いてしまうと、ルビーのような一重の鋭い瞳で睨まれて変な声がもれそうになるのを両手で押さえた。
「オマエら……もしかして、異世界人か?」
「ハイ! その、俺たち……ドラゴン討伐の依頼を受けてきたんだけど……」
「あァん? アタシが討伐依頼を出されてたって? あー……今年は、木の実が少なくて食料欲しさにドラゴンの姿で町に下りたんだった」
明らかに人間とは異なる人種なのは見て分かる。これも女神のギフトなのか……?
ボサボサな頭を掻く俺と同じくらいの身長に感じる女性は、とてもマイペースに欠伸をしている。




