第一話 白黒《モノクロ》の世界
本日より長編新作(13万文字↓)の投稿開始しました。既に完結済みで、毎日投稿していきます。
初日は、最低で第五話(朝)〜時間帯ランダムで投稿予定です。
――そこは、色を切り取ったような白黒の世界だった。
霧の中、俺は鳥にでもなったように下を見下ろしている。
上空から大きな絵のような模様が地上に描かれているのが見えた。
それと共に小さくて分からない人の姿も――。
「神崎くん! 助けて!!」
大声で叫ぶ声で、一瞬だけ女性の顔がアップになって消える。
正月の朝。奇妙な夢を見る。それは、知らないはずの女性が、俺に助けを求めてきたことだ。
しかも、俺の名前を知っているなんて……。
でも、その女性の顔が小学四年生まで仲良くしていたあの子の、面影があった。
学校の帰り道、家の前で分かれてから行方不明になって15年も経って分かるはずもない彼女の顔……。
昔の日本では、子供が突然消えたら大人たちが口を揃えていう言葉がある。
『神隠し』
実は、それらの多くは『異世界へ誘拐されていたのでした』――。
始まりは、小学生の頃。
当時、仲良くしていた女の子が次の日消えていた。
その子とは小学1年生で同じクラスになって、性別を越えて意気投合する。
いつも同じ帰り道、その子は学校から家が近かったから途中で分かれていた。
長い下り坂の先で、2つに分れた石畳を少し進むと、赤いレンガの家がある。
そこが、その子の家。
小4の夏。いつもと変わらない同じ道で別れて、そのまま家に帰ったと思っていたのに……。
行方不明からもう、15年の時代が流れていた――。
あの事件すら忘れていた俺は、もう立派な社会人になって5年が経つ。
「正月の初夢によっては、良いことがあると聞くけど……これは、どうなんだ?」
目を開けただけで、まだ起き上がっていないのは、新年を迎えたばかりの朝だから。
まだ、寝ていても誰にも文句は言われない時間帯。
あの子のことを久しぶりに思い出した……。
少し気になったが、今更……他人の俺が、どうこうできるはずもない。
加えて、俺は20歳で働きだしたことで、引っ越して別の場所に一人暮らしをしている。
だから、あの子のことも、すっかり忘れていた。
横にある時計を見ると八時を回っている。窓からも、日が差していて青空――空が、白黒……?
「えっ……色が、ない?」
なぜか、横を向いた先に見える空の色が白黒だった。
体勢的に他が見えず、ベッドから起き上がろうと身体に力を込めるが……びくともしない。首だけが辛うじて動く。
まさかの、かなしばりか?
そう思った瞬間、白いシーツが赤く輝きだす。
首を動かして僅かに下に目を向けると、魔法陣は俺の身体を囲んでいるように見えた。
「なっ……なんだ、一体!?」
それは、某漫画などで見覚えがある、召喚の儀式に似ている。一気に顔が青ざめるように、身体が震えた。
「ここは、現実世界だぞ……!」
叫んだ直後、俺は意識を手放すことになる。
次に目を覚ますと、さっきと同じ白黒の空が視界に映っていた。
何かチクチクする肌に触れる感覚がして、寝たままの状態で横を向く。
いや、全部が全部、白黒じゃなかった。
ポツンと咲く単体の花には、なぜか色がある。
さっきと違って身体を動かすことが可能だと感じて、手を上に伸ばすと当然だけど肌色だ。
「――意味が、分からない」
今度こそ、身体を起こす。
一面草原である現在地に、さっきの出来事を思い出していた。
「これは、夢の延長かもしれない……魔法陣みたいなので、まさか異世界召喚なんてこと――」
混乱する中、頭上から声がして顔をあげると鳥が飛んでいる。
アレは、色があると思った瞬間目があった気がした。
そんな矢先。ソレは、急降下して俺に向かってくる。
距離が近くなったことで、その正体に気がつくと全身に鳥肌が立った。
「待てよ……鳥? じゃない!?」
赤い身体に、ギラついた黄色い瞳で俺をとらえたソレは、くちばしを大きく開けて迫ってくる。
――まさかの、俺の4倍はある姿で。
「嘘だろ……?」
何かないかと周りを見るが、白黒の草や小石しかない。
しかも、今はどうでもいいことだが、俺は寝巻き姿だった。
アレ? 寝間着の色……水色をしている。
そんなことより……。
結論からいうと、あのまま良く分からない世界に連れてこられたということになる。
いや、まだ夢の可能性も捨てきれない……。
そう思った瞬間、どこからともなく火の玉が飛んできた。
考えごとをしている間に、顔面まで迫ってきて、俺を丸飲みしようとしていた鳥のような何かは、丸焦げになって地面へ落下する。
そして、目の前で不思議な現象が起きた。
命を失ったのか、ソイツは白黒に変化していく。
「えっ……白黒」
視線が目の前に向いていて気がつかなかった俺の鼻に、ふわりと甘い香りが漂ってきて思わず振り返った。
「あの、大丈夫だった!?」
いつの間にか、ラベンダー色のローブを着た栗色の腰まである長い髪をなびかせた女性が佇んでいる。
手には、大きな杖? だろうか、女性よりも高さがあり、ファンタジー世界にありそうな魔法使いの杖にみえる武器を持っている。
「えっ……?」
その女性の顔を見た瞬間、驚きで声がでた。
「助けにきてくれたんだ! 神崎くん」
彼女は、あのとき夢にでてきた女性に瓜二つで、また名前を呼ばれる。
俺が座ったまま呆けていると、彼女も横に座った。
あれ? どうして彼女の服装は、白黒じゃないんだ?
待てよ。俺の寝間着……水色のしま模様で、色がある。
さっきの現象からして生命体だけに色があるんじゃないのか?
「ねぇ、その姿なら……もしかして、まだ女神様に会ってない?」
俺が考えごとをしている最中、真剣な表情で問いかけてくる近い顔に思わず後退る。
俺は目をそらして彼女の発する言葉を頭で考えた。
「女神、サマ……?」
思わずオウム返ししてしまったが、彼女は気にしていない様子で、どこか嬉しそうにもみえる。
「この世界に来たら、女神様に会うの……そこで、祝福といってギフトをもらうんだけど」
「ギフト……? 贈り物か?」
ギフトといえば、贈り物だ。
そういえば、今は正月だから……デパートとかではセールで賑わっているかもしれない。
「そう……だけど、それは罠。私の言葉を信じてほしいの! 絶対に、ギフトをもらわないで。アレは、この世界に肉体を縛りつけるものだから」
「えっ……?」
まさかの返答に困惑する。
女神という、ファンタジーのような単語にも戸惑ったのに、ギフトという知っているが普段使わない単語が、異なる性質を持つらしい。
「ギフトは、祝福でもなんでもない。毒みたいなもの……多分、どのタイミングか分からないけど、喚ばれるから! 言い訳をして、絶対に貰わないで」
「わ、分かったよ……それで、その……君は、結束ヒメさんで、あってる?」
「――うん。神崎くんは、イケメンに成長したね?」
名前を確認した彼女は、花が開いたように笑顔をみせる。
その直ぐあとにイケメンだと褒められると頭を掻いて誤魔化した。
断じて照れているわけじゃない。顔のことはクラスメイトになる女子には陰で噂されていたし、付き合うカノジョにも飽きるほど言われている。
ただ、彼女に言われるのは悪い気分じゃなかった。
「えっ……どうだろう。結束さんも、その……とても、キレイだよ」
「えっ……! あ、ありがとう……」
しばらく沈黙が流れた後、意を決して俺はギフトについて質問する。
第一話を読んでくださり有り難うございます。
引き続き宜しくお願いします。