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五話『重圧』



聖女になりたくなんてない。


聖女になってからもそう思う。

投げ出したいと思うことすら許されない、こんな毎日がいつまで続くんだろう。


「アンネローゼ」


「はい、御師(おし)様」


「この辺りは聖女の力が効きにくいらしい」


とん、と地図上を指で示されたのは、西側の砂の国との間だ。砂の国は強い日差しと、乾燥した風、夜は冷たく、植物の育ちがとても良くない。


そんな国との間にある村は、やせ細った土地との共存や干ばつに悩まされていた。

定期的に強めに力を送っているが、対処療法にしかならず、根本的な解決ができていない。


「この国は、近隣諸国と比べて一番自然災害が少ない。それはもちろんお前のおかげだアンネローゼ」


御師様は人柄通りの柔らかい声で言う。


「でもね、こうやってどうしても自然や精霊の影響が出てしまうんだ。

どこかを贔屓(ひいき)してはいけないお前だけど、平等であれば良いというものではない」


「はい」


「しばらくこの村周辺を気にかけておやり。

それから駒を置いたところには雨を」


御師様の言葉に私は頷く。

後ろ手を組んでゆるやかに立ち去る御師様の後ろ姿を眺めながら、私は外をみた。


「喜びすぎない、怒りに捕まらない悲しみに溺れない、気楽にならない、そんな生き方ほんとに人形みたい……」


零れる独り言を聴く人はいない。


私が聖女になったのは、5年前。

御璽(みしるし)が出たのは6年前。

そこから先代から聖女を引き継ぐまでの一年、ずっと血が(にじ)む努力をしてきた。


理不尽に罵声と暴力を浴びせられる日々。


『殴られようとも怒るな!』

『お前の怒りで人が死ぬんだぞ!』

『人殺し!!』


一日中監視官に見張られる日々


『泣くことを許したか!?』

『お前が自身を(あわ)れんだ所為で水の龍が村を沈めるんだぞ!!』


私になにも与えてくれない世界を愛さねばなない苦痛


『常にこの国の平和を祈るのです』

『それがお前の存在意義』

『心穏やかに、全ての命を慈しみなさい』


ーーーそれが聖女なのだから。




「彼の地に慈しみをーー」


遠い、砂の大地を思う。

新しい生命が芽吹くように、恵の雨が大地を湿らすように、冷たい夜の風が和らぐように……。

そこに暮らす人々が穏やかに眠れるように、小さな幸福が彼等に訪れるように。


「彼の地に恵みの雨をーー」


私が幸せになれば世界は花畑にあふれ、暦を無視して様々な植物が実をつける。

私が悲しめば、世界には止まない永久の雨が振り、私が怒れば大地は揺れ、乾き、山が火を噴く。


この世界のために、幸せになることも不幸になることも、感情を揺らすことすら自由に出来ない。


それがこの世界の聖女の真実。

祈れば恵みをもたらすだけの人間に都合のいい存在なんかじゃない。



「聖女なんて、重くて重くて仕方ないわ……」



空の向こうの聖女を名乗る彼女を思う。

彼女が聖女になってしまえばいいのに。



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