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四話『彼女がなりたいもの』杏奈視点



つまんない家族、つまんない学校、つまんない友達、ああ、なんてーーつまんない人生。


そんな可哀想なあたしも幸せになれるタイミングがきた。大好きな『聖ナル乙女ノ永遠(エタニテ)』の世界に来れた!

異世界に召喚された主人公が世界を救いつつイケメンと仲良くなってく王道の乙女ゲー。


「どうせならもっと甘々シナリオの世界でもよかったなぁ、R18ゲーとか」


シリアスな展開も多いし、最初から甘々って感じじゃないんだよねーこのゲーム。でも、攻略対象はほんとにイケメンだしみんな好み、友愛以上の親密度があれば聖女としてめちゃくちゃ優しくしてくれるし、聖女と女王を兼任するルートはもうヒロインこそ女神様みたいなことになるもん、狙うしかないよね!……そう思ってたのに……。


「あ! ラスアン!」


「……げ、アンナか……」


騎士キャラのラスアンを見かけて駆け寄れば嫌そうな声。

初期対応より酷い気がする。

同じことしか言わないゲームと違って、ゲームでうまくいった会話も全然発生しない。


「もう! 嫌そうな顔しないでよ! 傷ついちゃうよっ」


「こんなところで何してるんだ? 勉強は?」


元気キャラのラスアンにはハッキリものを言う明るい子がウケるし、そうしてるんだけど、ラスアンはそっけない。


「うーん、今日はサボり! ね、今から訓練? 混ざってもいい?」


これはゲームでもあった!

身体を動かしたいというヒロインと一緒にトレーニングするイベント。

最初こそ仕方ねえな、と誘ってくれるラスアンは、練習後には「楽しかった、また一緒に訓練してくれ」と笑ってくれるのだ。


「混ざれるわけないだろ、馬鹿か。勉強しろよお前」


「ひ、ひどい……!! なんでそんなこと言うの!!」


なんでなんでなんで!!

ラスアンはここで優しく笑ってくれるはずなのに!!なんで見下した顔するのよ!


「勝手に外出るな。だいたい、男女の差もあるし、お前を混ぜても俺の邪魔になるだけだろ」


じゃ、俺行くわ、とラスアンが去っていく。


なんでこうなるの……!!!


こっちにきてからずっとこんな感じ。

会ったことあるキャラはジェイドとラスアンだけだけど、全然仲良くなれない。


「これも……あの女のせい……」


ギリッ、と奥歯が鳴る。


先に聖女を名乗る女がいた。

そいつのせいで私が本物の聖女だって言っても誰も信じてくれない。

しかもそいつは誰とも結ばれないノーマルエンドに似た感じでずっと霊羅(れいら)の塔にいるらしい。


どうせ転生して先に攻略しようとしたんだろうけど、私が本物の聖女なんだから無駄よね。

失敗するのは勝手だけど、その女のせいで私が聖女として認めて貰えないのはほんとにムカつく。


「せめて聖女の力が出るイベントまでいけばなぁ……」


自分の手の甲には何も無い。

でも、覚醒イベントまでいけば御璽(みしるし)と呼ばれるタトゥーみたいな模様が浮き出る。


「カンノ殿」


「ジェイド!」


ぱっと気持ちが明るくなる。

ジェイドから話しかけてくるなんて久々だ。


「神野じゃなくて、杏奈って呼んで?」


ゲームなら、カンノ発音しにくいからって最初からアンナって呼んでくれてるのに……。


「申し訳ありません、私には(おそ)れ多く……」


「私がいいって言ってるのに!」


甘えても悲しそうにしても怒ってみてもちっとも呼んでくれない。イベントで「私のアンナ……」って甘く囁きながらおでこにキスをしてくれるスチルがすごくお気に入りなのに……。


「あ、そういえば、会ってくれそう? 聖女サマ」


教会を通すと全然とりあってくれないみたいだからジェイドに直接手紙をお願いした。

女の子の秘密だから中身は見ないで欲しいとお願いしてあるし、念の為に、転生うんぬんについては日本語で書いた。


「いえ、聖女はお会いにならないそうです」


「なんでよ!!!!」


ばんっ、と机を叩く。手が痛い。

でも、あたしの誘いを断るなんて、と思ったら怒りが止まらない。馬鹿にされてる!!


きっと、自分が偽物だから本物の聖女であるあたしに会うのが怖いんだ。


そう思ったら会わない理由は納得できるけど、思うようにいかなすぎてイライラする。 でも、ジェイドの前で暴れてたらダメよね、はっとしたあたしえらい。


「大きな声を出してごめんね、会いたかったしまさか断られると思ってなくて、あたし、びっくりしちゃって……。

あたしが、聖女だって言ったから、嫌われちゃったのかな……」


ぽろり、とタイミング良く涙を落としてみせる。

だいたいの男はこれで急に態度を変えるのに、ジェイドはピクリともしない。

むしろ冷たい顔であたしを見下ろしてる気がする。


「聖女の安全のため、聖女には限られた人間しか会うことができません。ダメ元でもいいと言ったのも貴方です。そんなことで一々落ち込まないでくれませんか」


どうして慰めてくれないの。

どうしてそのまま背を向けるの。

どうして、


「あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"」


一人部屋に残されて、どうしてこんなにあたしはみじめなの。


聖女になりたいだけなのに。



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