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番外 After the end 3

 



 処刑場は見物客であふれている。

 黒山の人集(ひとだか)りは処刑場の上に立たされた偽聖女を(さげす)み、罵詈雑言を浴びせていた。

 16、 7歳ほどの女の子を、大の大人たちが口汚く(ののし)(さま)は異様なまでに(みにく)い。


 うつむき、ボロボロと涙を流す彼女にどこからともなくいくつもの石が投げられて、薄汚れたワンピース一枚のその体にどんどん赤い傷が出来ていく。



「おやめください」


 その声はその場にかわしくないほど、涼しげで凛としていた。それまで醜悪(しゅうあく)に騒ぎ立てていた人々はたった一言で口を(つぐ)まされる。


「遅くなり、申し訳ありません」


 処刑場の壇上に現れ、深々と民に頭を下げるのは、光り輝くような白のローブ。ベールを被り、顔どころか髪色もわからないが、人々は理解した。


 聖女だ、と。


 隣のみすぼらしい少女とは違う。

 なんの説明もなくても、彼女こそ本物の聖女だと誰もが感じた。


「皆様をお待たせしましたこと、改めてお詫び申しあげます。

 立会人としてジェイド殿下にもお越しいただく予定でしたが、途中で殿下の馬車が故障したため、私の馬車で迎えに参っていたのです。

 ……このようなことになるのであれば、私はここに残るべきでしたね」


 大丈夫ですか?と杏奈に優しく寄り添い声をかける聖女は酷く清らかに見えた。縮こまりがたがたと震えるだけの少女に、誰も見向きしない。

 聖女の斜め後ろに、黄金の君と呼ばれる美しい王子が静かに立った。


「聖女様! そんな大罪人に慈悲など必要ありません!」


 どこからか声が飛ぶ。

 聖女は立ち上がり、改めて民衆へと向き直る。


「彼女が大罪人であるというならば、私も大罪人なのです」


 声を張りあげてる様子はない。

 しかし、穏やかなその声を誰もが聞いた。


 聖女の力は天候を操る。声が遠くに響くよう、風の流れを操作することも彼女には造作ない。


「アンナさんは、力のコントロールを学ぶ前に御璽を得ました。様々な憶測を耳にしていることでしょう。

 しかし、私には今御璽があり、彼女の御璽も薄くはなったものの、消えてはいません」


 そう、杏奈の手の甲にはまだ薄く御璽があった。


「彼女は、聖女候補なのです」


「だからって!」


「ええ、だからといって、彼女がしたことは許されないでしょう」


 未熟だったから、そんな言い訳をしたとして誰も許さない。


「多くの人が、被害を受け、傷つき、怒り、悲しんだことと思います。

 王太子殿下とジェイド殿下は不眠不休で災害対応に奔走してくださったときいております」


「私たちは、王族として民のために最善を尽くしただけだ。

 ……だが、多くの民につらい思いをさせたことを申し訳なく思っている」


 ジェイドの言葉は、人々を驚かせた。

 美しい王子は、自らの功績を自慢するようなことはせず、真摯に言葉を紡いだからだ。

 真っ直ぐにこちらを見るエメラルドの瞳に、王家への不満を持っていた人達の怒りがしぼんでいく。


「私も同じ気持ちです殿下。

 どんな理由であれ、彼女を止められなかった、私の力で、天候を整えられなかったのです。

 ……私は、聖女失格です」


「アンネローゼ……」


「皆様、本当に、申し訳ありませんでした……」


 背骨が見えるほど、しっかりと深く頭を下げる聖女。人々は、怒りの矛先を見失っていた。


 王子も聖女も、偽聖女を庇っていない。


 騒動を起こした偽聖女に対する怒りはまだある。

 だが、二人が真摯に謝罪している前で、自分たちがいつまでも傷だらけの少女に怒鳴っていることも難しかった。


 死者もほぼおらず、損害は国が主導で調査を行い、申請をすれば相当分が補填されると説明もすでに来ている。


 処刑場はしんと静まり返っていた。


「あたし、そな……つも……じゃ、て」


 ぽつり。

 聞こえたのは、うなだれた杏奈の声だった。


 

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