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オカルトニシティ  作者: たんたん
7/27

高校2年生

第7章(7月27日)


先生「良し悪しでは、計れないことが沢山あります。その時の判断は、時間が経って分かる時もあります。それにヒカルさんにお任せしたので、ヒカルさんの判断は私の判断です。新手の詐欺だというのなら私も同罪です。現にヒカルさんに頼まれてお守り光らせてますし。」

ヒカルは、事務所に戻り、今回の依頼についての報告と罪の意識を先生に話した。

先生「気になるのであれば、1年後その親子に会いに行ってみたらいいと思います。答えを   出すのはそれからでもいいでしょう。」

ヒカル「はい。ありがとうございます。」

心が少し軽くなった気がした。

先生「そうでした。イッペイ君が新しい主を連れて帰ってくるそうです。」

ヒカル「良かったぁ。奈良の主の交渉上手く行ったんですね。」

先生「その主は、滋賀県の主だそうです。色々あって色々探して色々考えての事でしょう。」

ヒカル「先生、色々ばっかり。」

事務所に笑い声が響く。

先生「イッペイ君は、事務所によらずにそのままあの山に向かうそうです。ヒカルさんも行きたかったですか?」

ヒカル「はい、とっても。」

ただ交通機関がないので、残念だが諦めようとヒカルは思った。

先生「では、イッペイ君のもとに飛ばしてあげましょう。お守りが入っていた棚の上から1番目の引き出しにある茶色の木箱を開けてみてください。」

ヒカルは引き出しから茶色い箱を取り出し先生の机に持って行った。机の上で蓋を開けると、丁寧に絹で包まれた何かが入っていた。絹を一枚一枚めくるとべっこう色に輝く500円玉ぐらいの大きさの魚の鱗のような物が出てきた。

先生「それは、1日で千里を走ると言われている中国の妖怪の鱗です。それを使ってイッペイ君のもとに飛んでいくといい。」

ヒカル「妖怪って本当に存在するんですね。先生、どうやって使うんですか?」

先生「そうなんですよ。私も実は使い方を知らないんです。そもそも本物なのかすらわかりません。去年イッペイ君が中国から買ってきたんですが、せっかくなのでイッペイ君の所まで飛べるか実験してみましょう。イッペイ君曰く、念じると念じた先に飛べるそうです。」

ヒカルは、半信半疑でイッペイを念じてみた。・・・何も起こらない。ヒカルは10分間跳ねたり、口にくわえてみたり、飛ぶポーズをしてみたり色々試したが、何の成果もあげられなかった。

ヒカル「もう諦めて帰ります。明日、事務所でイッペイさんにどうだったか聞こうと思います。」

先生「そうですね。すいません付き合わせてしまって。そうだ、日給のお支払いがまだでした。依頼料の封筒から1万円を抜いてください。それがヒカルさんの今日の日給です。」

ヒカルはお礼とお辞儀をして、封筒から日給分を抜き取り、持っていた妖怪の鱗を絹で包み、茶色い箱に入れ棚の上からい番目の引き出しにしまった。

ヒカル「お疲れ様でした。」

先生「はい。お疲れさまでした。」

労いの言葉を交わし、事務所を出た。ヒカルが事務所のビルを出たと同時に、事務所の妖怪の鱗をしまった棚が揺れ始め引き出しから勢いよく何かが上から1番目の引き出しから飛び出して事務所の玄関に向かって飛んで行った。

先生「なるほど。屋外が発動条件なんですね。」

勢いよく玄関のドアにぶつかりドアに刺さっていた。ゆっくりではあるが、扉のドアにめり込んでいく。ついに玄関のドアに数mmの穴をあけ事務所の外に出ていった。

先生「ほぉ。ドアに穴が開くとは、すごいエネルギーですね。」

この実験結果に、先生は喜んでいた。

妖怪の鱗は事務所のビルを出たヒカル目がけて飛んでいき、ヒカルの右腕の外側、手首と肘のちょうど真ん中あたりに張り付いた。

ヒカルは、びっくりし声を上げるころには、上空を飛んでいた。目の前の景色がすごい速さで変わり、息ができないほどの風圧だった。真夏ではあるが、高速で上空を飛ぶとすごい寒いということが分かった。風圧でろくに目も開けれない。右手を伸ばし、風圧で首が折れ頭が足先の方向を向いている。知らずのうちに右手意外気を付け体制で飛んでいた。次第に高度が落ちスピードが落ちるのが分かった。

目を開けるとあの池があった。池の近くにイッペイの車があり、池を背にして山に向かっているイッペイがいた。

ヒカル「イッペーイ」

ヒカルは叫んだ。

イッペイは、辺りを見回し、後ろを振り向いた。すでに遅し、イッペイの背中に抱き着くように勢いよくぶつかった。

ヒカル「ぃったぁーい。」

イッペイ「それはこっちのセリフやっちゅうねん。何してんねん。いったぁー。」

ヒカル「すみません。でもこれは先生が悪いので、先生を責めてください。」

イッペイ「そんなわけあるかい。てかはよどいて。」

イッペイはうつ伏せでヒカルにつぶされていた。

ヒカルは、すぐ立ち上がり、トートバッグの中を確認した。

ヒカル「よし、落し物はない。ぁあ寒かったし、息できなかったし、怖かったぁ。あと私のトートバッグちぎれるかと思った。」

イッペイ「何ぶつぶつしゃべってんねん。あとでちゃんと説明せいよ。」

ヒカルは、念のためも一度謝り、一緒に山に入っていった。

イッペイ「先生から聞いてるやんな?主の事。」

ヒカル「はい、見つかってよかったですね。」

イッペイ「ごっつ疲れたで、今回はマジで。感謝せいよ。」

イッペイは、ヒカルを見て言った。私?とヒカルは思った。

イッペイ「私?みたいな表情すな。お前のためや。」

ヒカルは、この2日間の労力に感謝の気持ちと嬉しいという気持ちが湧いたが、なぜ自分の為なのか分からなかった。

イッペイ「お前、この山はもう終わりやって知った時、泣きそうな顔しとったやろ。俺そういうの見ると、動かないかんって思ってまうねん。」

確かに、悲しかったが泣くほどではなかった。だが、そこまで素直に言われると乙女心が揺れ動く。

ヒカル「本当にありがとうございます。」

ヒカルも混じりけの無い素直な言葉で気持ちを返した。

例の場所までの山中、奈良県での奮闘記や滋賀県から今日までの道のりを話してくれた。

イッペイ「やっと着いた。お待たせしました。」

2人とも、白骨化した遺体に向かって一礼した。

イッペイ「この石碑、目印って言ったやろ。なんの目印か知ってるか?」

ヒカル「さっぱりです。」

イッペイ「これは、土地の主と人間。土地の主と他の土地の主とを繋ぐ場所やねんて。奈良行った時、教えてもらってん。ほんで、教えてくれた人曰く、普通人間がこの石碑を見つけるなんてできないねんて。さっき言った通り土地の主と人間であって、人間と土地の主じゃないねん。つまり、土地の主が繋がりたい思わん限り人間は会えんらしい。ヒカルは、おそらく呼ばれたんやろな、土地の主に。」

ヒカル「それなら、イッペイさんでもよかったんじゃないですか?現に私ではなく、イッペイさんが走り回って見つけてくれたんだし。」

イッペイ「お前鈍感やな。俺一人やったらしょうがないで見捨ててたわ。お前が泣いてたから、俺は動けたんや。」

ヒカル「ああぁぁー、話盛ってる。泣いてないし、そもそも泣きそうですらなかったし。」

ヒカルは、嬉しいあまり怒っているふりをした。

ヒカル「もう一つの、つながりについては?」

イッペイ「亡くなる前に、主が他の主にsosみたいなんを送るらしい。ただ助けてほしいではなく、もう死ぬから自分の後を任せたいみたいな内容やねんて。ほんで、それを察知した、他の主がこの石碑目がけて飛んできて、新しい主になるんやて。全部奈良で教えてもらったんやけど、おしえてくれた内容詳しすぎて逆に怪しくなってまうよな。」

ヒカルは、まだ先ほどの余韻で、ドキドキしている。

イッペイ「おっそろそろや。来るでぇ次の山の主さんが。」

ヒカルは空を見上げた。自分みたいに滋賀県から飛んでくると思っていた。


イッペイ「この度は、この土地に来ていただき誠に感謝いたします。不慣れな土地であると存じております。故に私達生命、心よりあなた様を敬愛し感謝し信仰の心を忘れることなく精一杯この土地の永遠の繁栄に向けて精進し生きて参ります。どうか私達生命とともにこの土地で生きそして統治して頂きたい所存でございます。何卒お頼み申します。」

急にイッペイが声を張りちゃんとした言葉を使うのに驚いて、空を見上げていた視線をイッペイへと向けた。イッペイを見ると深々と土下座をしていた。それを見てこのまま突っ立ている罰が当たると思い、急いでヒカルも土下座した。

「良き良き。」

崩れた石碑から声が聞こえた。良くないと分かってはいたが、顔を上げて見てしまった。崩れた石碑の上に、双葉の新芽が根を張っていた。ヒカルは、すぐに頭を下げる。

イッペイ「うっし。これで安泰やな。ヒカル帰りラーメン食って帰ろや。祝杯やで。」

立ち上がり背伸びをするイッペイに、ヒカルもお出迎えみたいな何かが終わったことに安心して立ち上がり背伸びをした。

ヒカル「今回、来ていただいた主は、なんでokしてくれたんですか?」

イッペイ「滋賀県のある土地を治めている主の子供やねん。」

ヒカル「子供産むんですか?」

イッペイ「せやねん。俺も初めて知ってん。生命の産むとは少し違うらしいねん。どう違うかっていうのは、忘れてもうたんやけどな。」


ひと仕事終えた二人は、崩れた石碑を背に笑いながら坂を降りて行った。2人は気づかなかったが、先ほどいた場所にはもう崩れた石碑も白骨化した動物の死骸も消えており、大きな巨木がそびえ立っていた。


第7章(完)


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