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オカルトニシティ  作者: たんたん
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高校2年生

第6章(7月26日)


早速、朝一でイッペイと例の場所に向かった。山に入る前に、イッペイは池の様子を確認した。

イッペイ「完璧や。」

そういって、ヒカルとイッペイは、あの池を背後にして山を登っていった。

何も考えずに山を降りて行ったので例の場所までの道や目印は分からなかったが、適当に登っていくと例の場所は、案外すぐ見つかった。

ヒカル「ここです。」

後ろを歩いていたイッペイに、指をさして教えた。反応がないので、イッペイのほうに振り返るとイッペイは手を合わせていた。ヒカルも空気を察し、手を合わせた。

イッペイ「この石碑は、崩れててもうよくわからんけど、おそらく目印やな。ほんで、そこにある白骨化した動物の死骸は、この山の主のご遺体や。俺の名推理教えたるわ。まず、池にいた幽霊の量は、滝行だけじゃない。大きな理由は、山の主が亡くなってもうて統治する存在がいなくなった。すると山の力が弱まる。ほんで変なもんが寄ってくる。あいつらは似たお互いに引き寄せ合うから、既に溜まっていた幽霊に引き寄せられたんやろな。」

ヒカル「なんで亡くなってしまったんですか?」

イッペイ「わからん。その土地の力と主の力は比例しててな、土地自体の力が弱まったんか、主の力が弱まったんかどっちか分からんけど大体は、この2択やな。」

ヒカル「土地の力ってどう決まるんですか?」

イッペイ「信仰心やな。これは人間だけが持ってる物やない。生物すべてが持ってる。その土地を信じ、愛することでその土地で生かしてもらっとる。結論いうと、それが足らん言う事やな。」

ヒカル「へぇ、勉強になります。もしかして、信仰心が増えればまた蘇るってことですか?」

イッペイ「いや、絶えた命は戻らん。」

ヒカル「では、もうこの山はどうなるんですか?」

ヒカルは、少し悲しくなった。

イッペイ「このまま放置すれば、木々が枯れはじめ、山の土砂が崩れる。そうなれば生物は住処を変える。ほんでそこは無法地帯になり、悪霊の巣窟になる。海外のスラム街みたいなもんやな。それに気づかない人間が、その山に何か建設し、悪い事件が起こる。よくある話や。」

ヒカルは、どうしようもない現実に白骨化した死体を見て、心のなかで何もできないことに対して謝った。

イッペイが、お辞儀をして山を降りて行ったので、ヒカルもお辞儀をしてイッペイの後に続いた。池までの坂道を下りながら、イッペイは誰かに電話をしていた。ヒカルは、この山の事を考えていたので電話で話す内容までは聞いていなかった。

あの池まで降り、イッペイの車に向かう。ヒカルは助手席に乗り込んだが、イッペイはまだ、誰かと電話をしている。

イッペイ「はい・・はい、っえ?ホンマですか?ありがとうございます。はい任せてください。ほな、行かせてもらいます。・・」

運転席に乗り込み、急いでエンジンをかける。

イッペイ「この山、救う方法1つだけあるんやけど、さぁなんでしょう?」

機嫌よく問題を出すイッペイに、ヒカルは答えを急かす。

イッペイ「なんや、おもんないなぁ。正解は、力のある主をこの山につれてくるんやで。」

ヒカル「んん?そんなことしたら、元々いた土地が衰退してしまいませんか?」

イッペイ「それは、主が一体の場合や。基本一体やけど稀に数体でその土地を統治している場合がある。ほんでさっき知り合いに、2体主がいる土地を聞いててんけど、なんと奈良県にいるらしいから、今からスカウトしてくるわ。」

ヒカル「そんなに上手くいくんですか?ていうか知り合いって?イッペイさんみたいに活動されてる方々が日本各地にいるってことですか?」

イッペイ「質問好きやなぁ、自分。まずスカウト自体は、初めてするから出来るか分からん。土地の主をスカウトしたなんて前例、聞いたことない。ほんで俺みたいに心霊現象を解決して金もらってる人間なんていくらでもおるで。たいていは裏側で動いてるから、俺みたいに表立って依頼受けてる人はおらんけどな。」

ヒカルの家の近くのコンビニに降ろしたイッペイは、そのまま車で奈良に向かった。


次の日、特に呼ばれたわけではないが、イッペイが戻っているかもと思い、ヒカルは9時過ぎぐらいに事務所に行った。

ヒカル「お邪魔しまーす。」

事務所のカギは開いていた。ついドアノブに手をかけドアを開けてしまったが、インターホンを鳴らすべきであった。

先生「おはようございます、ヒカルさん。先日はイッペイ君と依頼をこなしていただいてありがとうございました。」

ヒカルは、先生のいる大きな机の前で一礼した。

ヒカル「イッペイさんは、まだ戻ってきてないですか?」

先生「はい、まだ戻ってきていません。おそらく交渉が難航しているのでしょう。先ほど、新しい依頼の電話がありまして、ぜひヒカルさんにお任せしたいのですが、いかがでしょうか?」

ヒカル「私1人ですか?無理です、無理です。私にはイッペイさんみたいな力ないですもん。」

先生「任せると言っても解決するのではありません。話を聞きに行って情報集をお願いしたいのです。実際、私たちの出る幕ではない場合もあるので、先のヒカルさんが調査していただけると、私たちはとても助かります。電話越しでは、分からないその場の雰囲気などは言ってみなければわかりませんので。」

ヒカル「分かりました。お話聞いてきます。ただ私霊感とかもないので、現場に行っても分からないかもしれませんよ。」

先生「ヒカルさんから見て、右側の棚があり、その棚の上から2番目の引き出しに赤のお守   りが入ってます。」

ヒカルは棚の前に行き、引き出しを開ける。確かに赤い小さな巾着袋が入っていた。無地の生地で巾着袋の口は、頑丈に紐で縛られている。触ると、巾着袋の中に硬い何かが入っている。

先生「そのお守りは、ヒカルさんに差し上げます。肌身離さず持っていてくださいね。何か悪いものがいれば、温かくなります。そのお守りは私と繋がっているのでお守りを握って念じれば私に伝わりますし守ってあげることもできます。」

ヒカル「へぇー。ありがとうございます。」

先生「依頼人の住所と名前は後ろの長テーブルのメモに書いてありますので、持って行ってください。」

後ろを振り返ると確かに1枚紙のメモがあった。先生に挨拶しに行くときは無かったような気がしたが気づかなかっただけかなと深くは考えなかった。机のメモを取るとその下に封筒が2つあった。

ヒカル「この封筒は何ですか?」

先生「一つは交通費と昼食代です、もう一つは依頼料を入れる封筒です。必ず頂いてきてください。金額はお伝えしてありますので受け取るだけで結構です。」

ヒカル「承知しました。では行ってきまーす。」

封筒をトートバッグに入れ、事務所を出た。1人は不安だったが、先生の最強のお守りを頂いたので何とかなるいう自信があった。


依頼人の住所は、電車から40分の場所であったため、最寄りの駅に向かった。駅に着きさっき頂いた交通費で切符を買おうと封筒をトートバックから出した。封筒の中には1万円入っていた。やっぱりこの仕事は儲かっていると思った。

トートバッグからオカルト雑誌を取り出し、電車に揺られながら読んでいた。この仕事をしていたら、自分もライターとしてこの雑誌で連載できるかもと思い、心がわくわくした。

ヒカル「あと3駅か。」

気づくとヒカルの車両は、ヒカルだけになっていた。

プルルルルルルルル・・・

電車の扉が閉まる直前に男の人が駆け乗った。上下グレーのスウェットでサンダルに黒い帽子バリバリでぼさぼさな髪に無造作に生えた髭、全体的に汚い男性であった。その男性を見てヒカルは、なにか嫌な感じがした。気にせずにオカルト雑誌の続きを見ていたら、ズボンのポケットがほんのり温かいことに気づいた。ズボンのポケットに手を入れ確認すると、先生のお守りが入っていた。ヒカルは怖くなって、隣の車両に移った。先生のお守りが反応しているという事は、あの男性は幽霊だったのか。ヒカルは、隣の車両から、その男性をコッソリ観察していた。足もあるし、薄くなって背景が透けている様子もない。ヒカルは遂に自然と霊を見ることが出来るようになったのかもしれないという嬉しいような悲しいような怖いような感覚になった。オカルト雑誌の中でも、霊体験が、能力を開発することがあると書いてある。そんなことを考えながらあの男性をぼぉーっと見ていた。ふと我に返る。するとあの男性と目が合っていた。ヒカルは急いで目線を外した。幽霊を見ることは出来るようになったが、目線があった時の対処法は知らない。とりあえず、もう1つ向こうの車両に移った。まだ心臓がどきどきしている。車両のクーラーが一番効くところで体を冷やした。そうしているとヒカルの目的の駅に着いた。電車のドアが開きヒカルは降りた。

2つ後ろの車両を確認した。自分と一緒の駅にあの男性が降りて来てないか気になった。

電車が発車し徐々にスピードが速くなり、ヒカルを追い越していく。動く電車なんて見ないで早く改札に向かえばいいのに、ヒカルは2つ後ろの車両を駅のホームから見てしまった。あの男性は駅のホーム側に体を向けこちらを見ていた。一瞬であったがヒカルは見てしまった。あの男は目を見開き大きく口を開け、ヒカルに向かって何か言葉を発していた、ようにみえた。

ヒカル「いえ?」

口は、いの発音とえの発音だった。よくわからなかったが、あの男の最後の表情は思い出すだけで怖かった。

住所のメモを頼りにグーグルマップを使い向かった。住宅街に入った、どうやら家の住所らしい。目的の住所についた。表札があり依頼人の方の名前とも一致した。普通の2階建ての住宅で、玄関の近くに西洋風の使われていない鳥籠があり、玄関の手前には簡易的な柵があった。柵近くのインターホンを鳴らす。

ピーンポーン・・・・・

「はいー。」

若い女性の声だった。

ヒカル「初めまして。本日お電話頂いた、心霊調査解決団でございます。」

ヒカルは、この名前がきな臭すぎて嫌いである。というかいざ口にしてみると恥ずかしい。

「少々お待ちください。」

ドアが開き、笑顔でヒカルの所まで近寄り柵を開けてくれた。その女性は、大学生のお姉さんのような雰囲気で、化粧をし、茶色い長い髪をポニーテールに結び毛先はカールしていた。身長は、ヒカルより少し高く、ロゴTシャツに青の膝丈スカートをはいていた。

「初めまして、寄川カエデと申します。」

ヒカル「本日宜しくお願いします。今回担当させていただきます、刀岐ヒカルです。」

カエデさんは、ヒカルを自宅のリビングに案内してくれた。リビングの大きな机の椅子に座ると、カエデさんはリビングを出ていった。階段を上る足音がした。リビングの中は、特に気になる点はなかった、普通の家庭のリビングである。掃除も行き届いている様子であった。ズボンのポケットに入れたお守りも反応していない。ヒカルはトートバッグからメモ帳とペンを出し待機した。階段を降りる足音が聞こえてきた。リビングの扉が開き、こちらへどうぞと手招きされた。荷物を持ちカエデさんについていくと和室に案内された。そこには仏壇があって、男性の遺影が置かれている。おそらくカエデさんの父親だと察した。和室には、和室用の背の低い机があり、机の上に虫かごがあった。

カエデ「こちらが今回の依頼品になります。」

虫かごを指さしていた。ヒカルはとりあえず虫かごの前に座り観察してみた。そこには、静かなセミがいた。虫は、苦手ではなかったヒカルはじっと見つめた。そういえば今回の依頼内容について一切聞いていなかったことに気づく。

リビングから、麦茶の入ったコップ2つをお盆にのせて、カエデさんが和室に入ってきた。

ヒカル「ありがとうございます。」

麦茶のコップをもらい、半分ぐらい飲んだ。カエデさんはヒカルと向き合うように虫かごを挟みながら座った。

ヒカル「すみません。もう一度依頼内容を伺ってもよろしいですか?」

カエデ「はい、かまいませんよ。5年前に父が他界したんですが、翌年の一回忌の後から母が変なことを言うようになったんです。あっお父さんだ。って言うんです。最初聞いた時、幽霊を見たのかと思ったんですが、母の目線には小さな蜘蛛がいたんです。ほらあの家の中でたまに見るぴょんぴょん飛び跳ねる小さな蜘蛛です。ご存じですか?」

ヒカル「はい、私の家にもいます。」

カエデ「父が亡くなって、数か月は落ち込んでいましたが、それ以来、私に辛い表情を見せることは無かったのです。ただ一回忌を過ぎてから変なことを言い出すようになったので、少し父との記憶を思い出したのかなと母の様子に気を配ることにしたんです。翌朝、リビングの机に虫かごがあって、その虫籠の中で小さな蜘蛛がぴょんぴょんしていました。私は、お母さんに虫籠の事を聞いたんです。お父さん小さいから見失っちゃうでしょ、うっかり踏んでしまったら大変だから。母は、頭がおかしくなってしまったと思いました。ただ他に日常生活で変わった点はなく、いつも通り仕事に出かけて、帰ってきてご飯を作って、たまに私と一緒に買い物行ったり、休日に友達とランチ行ったり。父が亡くなる前のいつもと変わらぬ母でした。そんなある日、母の悲鳴で朝起きたんです。急いで一回の母のもとに向かうと、リビングで泣き崩れていました。小さい蜘蛛が虫籠で死んでいました。急いで精神科病院に行き、睡眠薬と気持ちを落ち着かせる薬を頂きました。それからしばらく何事もなかったんですが、父が他界して3年後のある昼下がりに、お父さんだ。ってまた言いだしました。視線の先には、庭の木にとまる鳥でした。私、鳥の種類とか分からないんですが白いスズメより少し大きい鳥でした。こんなことが、数か月、数年続き現在にいたります。そして今は、この虫籠のセミが母曰く父だそうです。」

ヒカルは、メモ用紙に今聞いたことを書き写した。

ヒカル「カエデさんのお父さんは、生まれ変わった姿でお母さんに会いに来ているってことですか?」

カエデ「はい。そう言う事になります。」

ヒカル「ちなみに、先ほどの鳥は、それからどうなったんですか。」

カエデ「4か月ほど、母が家でその鳥を鳥かごで飼っていました。ただ4か月がたったある日、母が、また来年っていって鳥籠から鳥を出して外に逃がしてしまいました。」

ガチャ。

「ただいまー」

扉が開くと同時に女性の声が聞こえた。

カエデ「おかえりなさーい。お母さん、和室に来てー。」

カエデの母「あら、お客さん?」

カエデの母は、玄関にある見慣れない靴から察した。

和室に買い物袋を手に持った、カエデの母が入ってきた。

カエデの母「あら、お若いお客さん。初めましてカエデの母です。」

ヒカル「初めまして、カエデさんからこの度依頼を受けて来ましたヒカルと申します。」

心霊調査解決団とは名乗らなかった。カエデの母は、一度買い物袋をリビングに置き、冷蔵庫に買い物商品をいれ和室に戻ってきた。

カエデさんが、ヒカルに何を話したかカエデの母に伝えた。

カエデの母「ヒカルさんは、どう思います?この子、全然信じてくれないのよ。」

そりゃそうだろという表情でカエデさんは、お母さんを見た。

ヒカル「お父様とは、どんな会話をするんですか?」

カエデの母「会話は無いの。夫は、テレビと友達みたいな人だったから、毎日たくさん会話した記憶はあまりないわね。だからあまり気にならないの。ただそこにいてくれるだけでいいの。」

カエデ「ははっ、確かに。テレビと友達って感じだったね。」

カエデの母「会話は無かったけど、私に対しての愛情は感じてたの。亡くなってからも形を変えこうして私に会いに来てくれる、私より早く亡くなったから、心配なのね。」

カエデの母は、温かい眼差しで虫籠のセミを見つめている。それを心配そうに見ているカエデさんにヒカルは聞いた。

ヒカル「それで今回の依頼とは、どういった要件でしょうか。」

カエデさんは、お母さんの事を考えていたためワンテンポ反応に遅れた。

カエデ「・・あっはい。このセミ、および一連の件は本当に父が生まれ変わって母のもとに来ているのでしょうか?もし違ったら、私は母を精神病院に入院させようと思っています。」

カエデさん母「ちょっと、何よそれ。私が気が振れているっていいたいの?」

雰囲気が一気に悪くなった。カエデさんもずっと黙っていた気持ちが口から出てしまった。

カエデ「だってそうでしょ。虫や鳥を見てお父さんだなんて言ってる人、普通じゃないよ。お母さんは、お父さんが死んで気が狂ってるのよ。」

ヒカルは、ポケットのお守りをぎゅっと強く握って喧嘩を沈めた。

ヒカル「落ち着いてください。カエデさんのお母さんは、嘘をついてはいません。」

この言葉を聞いて、2人ともヒカルを見た。

ヒカル「人間界にいる全ての生命の魂は、生まれ変わります。そして生まれ変わるつまり転生する時、前世と近い関係にあった魂の近くに転生します。必ずです。場所、時代、性別、生物、容姿、どう決められてるかはわかりませんが、必ず来世も近しい関係で転生します。そしてカエデさんのお父様はこの5年間で転生し姿を変え、お母様のもとに戻ってきているのです。強い前世の思いは転生してからも残ると言われています。」

カエデ「それは、私も雑誌で見たことありますし、母が心配になってネット調べて書いてありました。」

あんなに優しかったカエデさんから、キラーパスをもらい、ヒカルは、思考が一瞬停止した。ヒカルは、オカルト雑誌で書いていたことをそのまま言っていた。

ヒカル「私は、このセミに遺影の写真の男性を感じます。ただこれは、カエデさんには信じてもらえないでしょう。」

ヒカルは、ずっと握っていたお守りをヒカルの母に渡した。

ヒカル「このお守りは、真実のお守りと言います。心に願いこのお守りを握ると光ります。お母様このお守りをお父様の上で握り、お父様かどうか聞いてみてください。」

カエデの母「はい。あなたは本当にミチヒロさん?」

そういってお守りを握った。3秒何も起こらず、ヒカルは冷や汗が出てきた。カエデさんはお守りを握っている手を見つつ、疑いの目でヒカルを見ていた。

ぱぁぁぁぁ・・・・

お守りが手のひらで光りだした。全員驚く。

数秒優しく光った後、一気に光量を上げ強く光り和室を包み込んだ。

眩しくて目をつむったヒカルが次に目を開けると、カエデの母は、泣きながら虫籠を胸で抱いていた。カエデさんもお母さんの背中をさすり泣いていた。ヒカルは、優しく大人しくその光景を見守っていた。

お昼すぎの炎天下、クーラーをつけリビングでヒカルとカエデさんとカエデの母。それから虫籠の中のセミ。3人と1匹でそうめんをすすっていた。ヒカルは生姜をたっぷりいれて食べるのが好きだった。カエデさんとカエデの母はすっきりとした表情であった。ヒカルの高校生活や他の仕事の過去の依頼の話、カエデさんの大学生活の話、カエデさんの母の職場での話など話は盛り上がった。

カエデ「忘れないうちに、依頼料です。」

リビングの固定電話が置いてある棚の引き出しから、厚みのある封筒をヒカルに手渡してくれた。

ヒカルは、お礼を言いトートバッグにいれた。

そうめんをごちそうになり、カエデさんの家を出た。

カエデさんとカエデの母はヒカルに手を振って見送った。ヒカルは、2度振り返り手を振り返した。

最寄り駅までの帰り道、ヒカルはこれでよかったのかと自分の善意を疑っていた。ヒカルは、カエデの母にお守りを渡す前に、依頼人の母親が念じた瞬間、お守りを光らせてください、と先生に向かって強く念じて握っていた。あのお守りが光った理由は、ヒカルが先生に頼んでお守りを光らせたのである。あの場で、親子仲を保つには、あの方法しかなかった。ヒカルは、今でも思っている。ただ嘘をついたという事には変わりなく、さらにお金も頂いてる。

自分のやっていることは、本当に新手の詐欺だと思ってしまった。


第6章(完)


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