高校2年生
第四章(7月25日)
「ピポーン。通行できます。」
ヒカル「高速乗るって遠いんですか?」
シートベルトをし忘れたことに気づき慌ててシートベルトに手を伸ばした。
イッペイ「そやなぁ。高速使って20分ぐらいやな。」
ぶおおおおおん。イッペイはETCを抜けるとアクセルを踏み込んだ。スピード狂である。
ヒカル「イッペイさんと先生は、超能力者集団で日本を悪いものから守ってる。っていう事なんですか?」
イッペイは追い越し車線に車線変更し、鼻で笑いながらヒカルの質問に答えた。
イッペイ「まぁ、そんなとこやな。あの井戸みたいな悪いもんを結界張って、人間から遠ざけたり、ネットでいわくつきの土地や物件探してお祓いしたり、今回みたいに依頼人から直接依頼がきたりとまぁ色々やな。そや実はインスタやってんねん.
まぁ宣伝やな、これ見て依頼のDMとかくんねん。今回は人づてやけど。」
ヒカル「えっ。なんて調べたら出てくるんですか?」
イッペイ「心霊調査解決団。や。ええ名前やろ。」
ヒカル「うわ。きなくさー」
ヒカルは、口から舌を出した。イッペイは、ヒカルをバカにするように舌を出した。
イッペイ「なんでもええねん。大事なのは広告や。何やってるかわかりやすいやろ。そんなこともわからんかー。」
ヒカル「あった。えぇアイコンダサ。このアカウント、私も追加したいからアドレスとパスワード教えてください。」
イッペイ「なんでやねん。無理や」
ヒカル「お願いします。私、超能力とか霊感とか特別な力は無いけど、広告宣伝なら私にもできます。突っ立てるポジションなんか嫌です。」
ヒカルは、こういう時に、下手に出るのが上手い。そしてイッペイは、実は押しに弱い。口を閉じながらため息をついてアカウントのアドレスとパスワードを教えた。
イッペイ「やるんやったら、ちゃんとせいよ。」
ヒカル「分かってます。」
はきはきとした良い返事をし、イッペイの目をしっかりみてうなずいた。
ため息をつきながら、後ろから迫る自分よりもスピード狂に道を譲る。左に車線変更し、ミルクカフェオレを飲んだ。
ヒカルは、スマホをいじりながらイッペイに質問をする。
ヒカル「そういえばまだ聞いてなかったんですげど、あの井戸ってどういう所だったんですか?」
イッペイ「あぁぁ。あの井戸な。戦国時代にまで遡るんやけど、戦いで敗れた落ち武者や賊軍を殺す用の井戸だったらしいわ。」
ヒカル「んん?突き落とすんですか?井戸の中に?」
イッペイ「ちゃうわ。井戸の水に家畜の糞尿混ぜて汚水にすんねん。ほんでその汚水飲んだら死ぬねん。人間って残酷よな。」
ヒカル「あっ。それ学校で習ったことある。ほんとにあったんだー」
イッペイ「だから、あそこの井戸の周りは負のエネルギーが密集してんねん。一度負のエネルギー集まると、いろんなものが吸い寄せられていく。そして2次災害が起きる。スエちゃんもその2次災害の被害者ちゅうことやな。知らんけど。」
ヒカルは、黙ってスマホをいじる。亡くなって間もない友人の話をしてしまい、イッペイは焦った。
イッペイ「おい、なんか反応せいよ。気まずいやん。てかお前から話振ったんやで。」
イッペイは再び追い越しレーンに車線変更し、車を飛ばす。
ヒカル「あっ、すみません。インスタ見てました。」
イッペイのため息が車を泳ぐ。
ヒカル「先生ってなんで布で覆われてるんですか?布っていうか服?大分厚着ですよね。も う夏なのに。顔も布で隠してるし。」
イッペイ「覆うってことは、見てほしくないねん。隠すってことは触れられて欲しく無いねん。あの井戸と一緒や。理由があんねん。何でもかんでも知ろうとすんな。せっかく守ったってんのに人間ってホンマ好奇心だけの単細胞やわ。」
説教っぽく真っ当なこの発言に、ヒカルは黙ってスマホを触っていた。横目でそれを見ていたイッペイは、また車の中にため息を泳がせた。
「ピンポーン565円です。」高速を降りた。
ヒカル「先生ってどんな顔かな?実はイケメンだったりして?でも隠す理由がないか?もしかして大火傷?」
オカルト女子はこの手の事にトキメキ興奮する。
イッペイ「ドアホ。」
ヒカル「ん?もしかして宇宙人?」
ヒカルのトキメキは、イッペイにも向く。
ヒカル「そういえば、さっきから人間、人間って言ってますけど、イッペイさんって実は、宇宙人なんじゃないですか?いや妖怪か?歯ギザギザしてるし。」
イッペイ「ははっ。そやで。あんまり騒いどったら食い殺すで。」
あまりにもアホなヒカルの発言に乗ってあげた。
ヒカル「うーーーん。わかった。悪魔だ。」
車が減速していく。
イッペイ「いつまで言うてんねん。着いたで。」
車を路肩に止める。
おしくら饅頭のような住宅街に着いた。道も狭く車幅は車1台半しかない。
ヒカル「こんな細い道に、車止めたら迷惑じゃないですか。」
イッペイ「ええねん、ええねん。20分ぐらいで終わるから。」
イッペイは車を背にして、大きな黒いカバンを手に持ち、歩き出す。ヒカルも遅れないように歩きながら振り返った、ただでさえ狭い車道に止まっているその車の車体にはjeepというロゴが書いていた。前から車が来た、おそらくこの住宅街の住人だろう。ファミリー層向けの大きな車であった。ヒカルたちとすれ違い、ヒカルは、イッペイのjeepとすれ違う所を見守っていた。住人も慣れているんだろう。難なくすれ違い遠くへ消えていった。ヒカルは少しほっとした。
イッペイ「初めまして。今回は宜しくお願いいします。」
ヒカルから3mぐらい離れた所で、大工さんのような格好の方4人に挨拶がてら名刺を渡している。ヒカルの方を見てイッペイが手招きしたので、小走りで向かった。イッペイは大工らしき4人にヒカルを紹介した。
イッペイ「ほな、始めさせていた頂きます。準備に5分、お祓いに10分の計15分前後で予定してます。」
4人の中の1人が、了解の相槌をした。イッペイの背後には住宅1つ分の更地があった。イッペイは、その更地で手際良く準備を始めた。ネットでしか見たことないが、今から何をするかヒカルは悟った。特にやることもなさそうなので、イッペイを静かに眺めている4人の大工さんの後ろで少し離れ、ヒカルも眺めていた。
先ほど、イッペイにうなずいていた小太りな大工が、自分たちの後ろで暇そうにしているヒカルに気づいた。
小太り大工「お嬢さん、学生さん?」
気を遣わせてしまったとヒカルは感じた。
ヒカル「はい、高校2年生です。」
小太り大工「あれ、お前んとこの娘も高校生だったよな?」
体格の良い大工に聞く。
体格の良い大工「はい長女が今年高1っすね。」
4人の中ではイケメンな大工が会話をつなげる
イケメン大工「ええぇ、もう高校生ですか。内はまだ小2です。」
一番若い眼鏡をかけた大工は、その場に、しゃがんで何やら書類を書いていた。
イッペイ「準備できました。皆さんこちらへ」
イッペイの掛け声に、みんなで更地の真ん中に向かった。
更地の真ん中には、簡易的な祭壇があり、祭壇に果物やお酒がお供えされている。細い木の枝のようなものが真ん中に直立し、その祭壇を4つの竹で正方形に囲んでいる。竹には縄が結ばれ、4つの竹を結ぶ、さらに縄には、白いひらひらした紙がついていた。
イッペイを先頭に小太り大工と体格の良い大工、イケメン大工と若い眼鏡大工、最後にヒカルという1人、2人、2人、1人で並んだ。
若い大工「ずっと気になってたんですが、この白いひらひらってなんですか?」
隣に並んだイケメン大工に、小声で聞いた。
イケメン大工「紙に垂れるでシデっていいます。」
イケメン大工は、年齢関係なく丁寧敬語で接していた。ヒカルは、後ろからそれを見て、心もイケメンだなと感心した。
前に立っている、小太りと体格が良い大工が後ろを振り向き、2人を睨んだ。2人は慌てて頭を少し下げた。先に空気を読まず、話しかけたのは眼鏡大工でイケメン大工は悪くないと思いながら、ヒカルは後ろから眼鏡大工の背中を睨んだ。
イッペイが、何やら唱え始めた。辺りに良い風が吹き紙垂が揺れた。ふと道路の方角に視線を移すと、白いワンピースを着た白い肌の女の子がこちらを見て立っていた。住宅街の子だろうか。ヒカルと目があったので、ヒカルは小さく手を振った。その女の子は、走ってどこかに行ってしまった。
土地のお祓いも終わり、片付けは、ヒカルも手伝った。
イッペイ「ほなこれで終わります。建設途中でなんか不可思議な事、起きたら連絡ください。無料でお祓いし直しさせていただきます。」
小太り大工「はい。また何かあれば連絡します。」
小太り大工が約3cmの厚みをした封筒をイッペイに渡した。おそらくお祓い料金だろう、約3cmの封筒の厚み分の金額をヒカルは想像して、この仕事は儲かると確信した。
車に戻り、ヒカルは先に助手席に乗った。イッペイは、トランクに大きなカバンを乗せ。運転席に向かう。
イッペイ「うわぁ。やられた。えぐぅうー。」
車のミラーを見て、なにやら叫んでいた。運転席のドアを開け乗り込んできたイッペイにヒカルは聞いてた。
ヒカル「どうしたんですか?」
イッペイ「少し擦られたわ。最悪や。最近買った俺のjeepちゃん。」
ヒカルは、気分が良くなった。イッペイの傲慢さに神が罰を与えてくださったと。
帰り際、さっきの更地の土地に、4人の大工さんがまだ残っていた。助手席側の窓お開け、ヒカルを飛び越えるようにイッペイは、、もう一度あいさつした。
イッペイ「連絡来ないことを祈ってます。」
イッペイのジョークに4人の大工は笑いながら、手を振って見送ってくれた。
4人の大工さんの間から、白い服のあの女の子がいるのをヒカルは見つけた。
助手席の窓が締まり、車が動き出す。
ヒカル「イッペイさんが、お祓いしてるとき、こっちを見る白い女の子がいたから、手を振ったんですよ。そしたら走って逃げちゃって、住宅街の子供かなぁって思ったら、さっき大工さんの後ろにいたんです。大工さんの娘さんだったんですね。お祓い中、あの土地に入らずにお父さんの仕事邪魔しないで待ってるなんて、賢い娘さんですよね。私、遊んであげたらよかったです。」
イッペイ「へぇ。見えるんやな。大工の娘さんじゃないで、その子。あの住宅街一帯の主や。まぁ黙って立ってただけなら、建物立てるの許してくれたんやな。」
ヒカルは、ぞっとしたが、自分に霊感があることに少し興奮した。
2人は、次の依頼主のもとへ向かう。
第4章(完)