高校2年生
第三章(7月25日)
市内の雑居ビル。どうやらここが例の住所らしい。ビルの中に入り目当ての部屋へと向かう。部屋は4階。とても静かなビルの階段で自分の足音と心臓の高鳴りが響く。3階を越え4階に到着。廊下を進み部屋番を探す。401、402、403、405・・おかしい。404号室がない。そして例の男から渡された住所には404号室の文字。騙された。一瞬そう思ったが、すぐに思考を修正した。なぜならヒカルはオカルト同好会の会長だからである。何か条件があるはず。ヒカルは403号室と405号室の間を行ったり来たりしながら考えた。辺りを見回しても特に変わった点は無い。遠目で見るに全て合わせて7室ある。下の3階におり数えてみた。301.302.303.304.305.306.307.全部で7室。三階には304号室がある。では5階はどうか。これも三階と一緒で合わせて7室。504号室はある。おかしい。4階だけ404号室が無い。ヒカルはとりあえず4階の廊下の端から端まで歩いてみることにした。401.402.403.405.406.407.404・・・
ヒカル「えっっ。」
407号室の次に404号室。意味が分からなかった。とりあえずインターホンを鳴らした。しばらく待つと「ガチャ。」ドアが開く。
あの例の男がヒカルを出迎えた。
男「おぉ。ほな入り。」
恐る恐る警戒しながら、両腕を胸で結び、姿勢を低くして入った。
ヒカル「おじゃましまーす。」
意外と部屋の中は綺麗。例えるなら校長先生のいる部屋?のような感じがした。お客さんを迎える客間のような感じでもある。緊張しながら靴を脱ごうとしていると。
男「あっええで。土足で。」
部屋の奥の大きな机の椅子に何か座っているのが見えた。何かと表現したのは全身が布で覆われており、人のようにも見える為であった。
男「ほなここに座り。まぁ緊張せんでええで。てかこの前の威勢はどこいったん?気持ち小さくなったなお前。」
部屋の中央には膝丈ぐらいの木製の長テーブルと両脇に二人掛けのソファがあった。大きなソファに腰を掛けたヒカルは、体が埋もれ小さくなっていた。
ヒカル「あんときは、なんか夢中で。アドレナリンのせいっていうか。なんというか。あの、1つ聞きたいんですけど。」
男「早速かいな。ほんと気になりしぃやなぁ。ほんで?」
ヒカル「部屋番おかしくないですか?407号室の後に404号室って。」
男「そやねん。不憫やねん。いつも頼んでる出前のおっちゃんが毎度迷うねん。おもろいよなぁ。ほんで、ほかには?」
ヒカル「・・・っあ。そうだ名前、まだ聞いてなかったです。お名前聞いてもいいですか。」
男「おぉぉお。そうやったなぁ。俺は、イッペイや。宜しく。」
ヒカル「なんか変。」
イッペイ「えぇ、そうか?イッペイぽくないか?てか人の名前にケチ付けるなんてやっぱ強情な娘やのぉ」
ヒカル「あぁ名前じゃなくて。」
イッペイ「はぁん?」
ヒカル「昨日と全然対応が違う。というか真逆。いや素直?というかこの部屋なんか怪しい。」
ヒカルは周囲に意識を向け、最初に抱いた大きな机に座っているなにかへと視線を向けた。
イッペイ「はぁ。どうでっか先生。」
視線をイッペイに戻す。
ヒカル「ん?先生?」
「私はかまいませんよ。イッペイ君。」
2人(仮)しかいないであろう空間に第三者の声が部屋にこだました。いや正確に言えば自分の頭の中にこだましたという表現のほうが正しい。
ヒカル「えっ。もしかしてあれ生きてる?」
指先はもちろん部屋の奥の大きな机の椅子に座っている主である。
イッペイ「あれ言うなや。先生や。気づいたんなら、頭下げて挨拶せい。」
先生「イッペイ君。私はかまいませんよ。改めて、初めまして。ヒカルさん。私のことは先生と呼んでください。今からあなたの疑問全てにお答えいたします。ただその代わりこれからイッペイ君と私の手伝いをしていただけませんか。」
イッペイ「えぇぇ、先生。手伝いって。話がちゃいまっせ。」
先生「申し訳ないイッペイ君。気が変わりました。それに私たち側ではない人材は重宝すると思うんですがねぇ。どうでしょう?」
困惑したイッペイの瞳は、先生とヒカルを行ったり来たり走らせている。
ヒカル「ちょっと待ってください。勝手に話が進んでますが、どういうことですか?説明してください。」
困惑したヒカルの瞳もまたイッペイと先生を行ったり来たり走らせた。
先生「わかりました。正直に話しましょう。本当は今日、ヒカルさんをここに招いて記憶を消すつもりでした。」
ヒカル「記憶を消す??はぁあ??記憶って消せるんですか??」
先生「まぁ落ち着いて。もし記憶を消せなかった場合に備えて、神隠しでヒカルさんを別の世界に飛ばすことも考えていました。」
ヒカル「神隠し???はぁいぃ??それって本当にあるんですか???」
イッペイ「ははっ。変な奴。普通自分の置かれている立場に目が行くだろ。なんで記憶を消すやら神隠しの事象に目が行くねん。本来であれば今頃やばいことになってたんやぞお前。」
先生「まぁこれは最終手段で、もっと手前から策を講じていたんですがね。全て突破されてしまいました。ヒカルさんあなたは不思議な人です。」
ヒカル「策?」
イッペイ「本当ならまずこのビルにすら入ってこれへん。結界で外からは見えなくなってる。普通の人間ならただの空き地に見えてんねん。」
ヒカル「んん??私ってもしかして特別??でも霊感とかないけどなぁ。」
イッペイ「詳しくは知らんが、どうやら俺の力が通用せんらしい。ほんで、話を続けるが、ビルに入られた場合に備えてもう一つ結界を張ってたんや、わかるか?」
ヒカル「そんなの楽勝だったよ、404号室が407号室の後にある。でしょ。」
イッペイ「残念。それはこの建物の本来の設計ミスや。3階から階段を上って4階に向かうと5階に着くよう結界を張ってたんだよ。つまり4階に来れないっちゅうことや。来れんかったら来れんかったで、あぁ騙されたーってなって、はいお終い。最悪来たら来たで、記憶消すか。神隠し。んでお終い。」
ヒカル「なんか複雑な心境。慈悲があるようで残忍。」
イッペイ「はっ。当たり前や。知ってはいかん事知りたがってるんやから。そら消されるわ。普通。」
先生「ヒカルさんの知りたい事というのは、最悪世界のバランスを崩しかねないとても貴重なものです。それでも知りたいですか?今ならまだ引き返せますよ。」
ヒカル「えぇ?引き返すって記憶消されるか、神隠しに会うってことですよね。もうすでに引き返せなくないですか?」
イッペイ「ははっ。そやな。先生酷な質問しはるわ。」
先生「これは失礼。選択肢を与えているようで、もう決まっていましたね。」
ヒカル「教えてください。消されない程度に。教えてください。消されない程度に。」
イッペイ「なんで二回言うたん。ははっ。アホやん。バリてんぱってるやん。」
ヒカル「フンっ。大事なことは二回言うんです。しらないんですかぁ?はぁぁぁ?」
不細工な顔でイッペイを挑発した。
先生「ちょうどいい。ヒカルさん入社早々で申し訳ありませんが、この後、イッペイ君と依頼を1つこなしてきていただきませんか?」
ヒカル「依頼?てか入社???えっと私の学校アルバイトとか禁止なんですけどぉ。」
イッペイ「ははっ。またアホなこと言うとるわ。バレたってこのビル誰にも見えんのやからバレたところでやろ。」
ヒカル「あっ、、そっか。てかアホアホ言うな。むかつくねん。」
イッペイ「うわ、関西人でもないのに関西弁使いよった。お前関東人の意地ないんか。ははっ。」
ヒカルは、関西弁が移ってしまった屈辱と恥ずかしさで顔が真っ赤になった。
先生「あっそうそう。忘れてました。ご友人との思い出のノートがあるそうですね。今日お 持ちであれば、私に預けては、いただけませんか?」
イッペイ「あっそうや。あのノート持ってきたか。」
ヒカル「持ってきたけど、これはスエとの大事な思い出でもあるからその・・」
先生「イッペイ君から話は聞いております。ご友人を亡くしたそうですね。スエさんというのですね。では依頼に行かれているほんの数時間でいいので貸していただけませんか。確かめたいことがありまして。」
ヒカル「まぁ、それぐらいなら」
ヒカルは、先生の前の机の上にそっと置いた。
ヒカル「ん?そういえば最終私を神隠しにするんでしたよね?」
イッペイ「そやで。」
ヒカル「なんで、このノート持ってきてって昨日言ったんですか?」
イッペイ「そらお前神隠しした後で、そのノート燃やすために決まってるやん。」
すかさず机のノートを取り戻し、
ヒカル「もう絶対誰にも見せないし渡しません。」
先生「信頼を失ってしまいましたね、イッペイ君。君の話術にはいつも関心します。」
イッペイの心と体はドアの方向を向き、綺麗な一直線を描きながら突き進んでいった。
イッペイ「うっし。ほな行こか。初仕事やなヒカル。これからがんばろなぁ。」
ヒカル「あっ。親切なイッペイさん待ってくださーい。」
初めて名前を呼ばれた事。しかも呼び捨てだったこと。正直キモいけど、それをかき消すぐらいに立場が転落しているイッペイに皮肉を言う方が楽しかったことを、今でも覚えている。スエとのオカルトノートあの時先生に預けていればって、今でも後悔してる。
第三章(完)