高校2年生
第一章(6月25日)
怪しげな雰囲気を漂わせた井戸を遠くからじっと見つめているオカルト好きの学校帰りの二人組。ぱっつん前髪にツインテールの「ヒカル(16)」と丸眼鏡のショートヘアーの「スエ(16)」。二人ともおそろいのオカルト同好会と書かれたバッヂを制服の胸元に着けていた。
ヒカル「あれが噂の井戸。」
スエ「いいね。いいね。雰囲気あるね。」
夕方、日も暮れてきている中、彼女らは井戸へと近づいていく。
ヒカル「6月25日。これよりオカルト同好会の活動を始めます。ではまずこの井戸の噂についての、詳細で簡潔な現段階での調査結果を教えてくれたまえ。副会長。」
ヒカルが思う会長らしさを出した口調につられスエもそれに乗り、ヒカルが手に持っていた録音機をスエが奪った。
スエ「かしこまりました。では、現段階での調査結果を詳細で簡潔に申します。まずこの井戸がいつからあるのかということは不明。井戸にまつわる事件事故は不明。周りの住人の聞き込みから得られた有力な情報は、なし。以上。」
ヒカル「うむ。そうか・・・っぷ」
2人は顔を見合わせ大爆笑。
ヒカル「なっ、何にも分かってないじゃん。あはははは、、何が詳細で簡潔nははは、おもしろ。スエが気になるっていうから来てみたけど、雰囲気はなんかあるよね。」
スエ「でしょ。この前グーグルマップで適当に見てたらぽつんと井戸があって、おっめっちゃいいじゃん。と思ってきてみたら大当たり。ここ映像研の子に教えてあげたら良いホラーものとか作ってくれそうだよね。」
ヒカル「あーー。それめっちゃいいじゃん。ちなみにここ本当になんの噂もないの?」
スエ「うーん。一応ネットと図書館と私のお母さんに聞いたり調べてみたんだけど、ダメだった。お母さんに関しては、そんな井戸があることさえも知らなかったよ。ずーーーとここの土地に住んでるのにね。んで気になってヒカルと来る前に行ってみたの、昨日。だから実は私この井戸来るの二度目なの。」
ヒカル「ぅおおお。ロケハンもばっちりなんてさすが副会長。」
スエ「でしょー。」
得意げに笑うスエ。
ヒカル「ロケハンしたにしては情報薄すぎだけどな。」
2人ともまたげらげら笑う。
ヒカル「そんなに情報無いと逆に幻の井戸ってことか。うーーーん。・・一応、井戸のサイズ測って、写真撮って今日は帰ろか。」
スエ「了解です。会長。」
スエは、スクールカバンからメジャーを出し、それを受け取ったヒカルは、井戸の高さと直径を測り、スエに伝えた。
ヒカル「高さは。1m12cm。直径は46cm、、ぐらいかな。」
直径を測りながら、井戸の中をのぞいたヒカルは、その違和感をスエに伝えた。
ヒカル「んんん?あれ?なんか井戸の奥で光ってる。ねぇスエちょっと来て。」
・・・・・・・・
スエの返事は無い。
返事がないことに気になったヒカルは、後ろを振り向く。
ヒカル「・・・スエ?」
さっきまで一緒にいたはずのスエは、いなかった。
ヒカルは、ニヤリと笑った。
ヒカル「ほほぉ、急に雰囲気出してくるじゃん。神隠し的な演出とは、気が利くねぇ。」
気づけば、辺りは日が暮れ暗くなっていた。
ヒカル「スエー。もう暗くなってきたから、さすがに見つけらんないよ。どこー。」
少し大きめの声を張り、スマホのライトであたりを照らした。左右に光を振ったが人影らしきものは何もない。
ヒカル「とほほだよ。降参。もうおしまい。・・よし分かった。特別に帰り道のたこ焼き屋さんで奢ってやろう。さぁさぁ出てきたまえ。副会長君。」
・・・・・・・・
返事は無い。
少し不安になってきたヒカルの腕が下がり足元をスマホのライトが照らした。
ヒカル「・・んん?」
足元にスポーツメーカーのロゴが入ったリュックがあった。ヒカルはすぐにスエの荷物だと気づく。だがその瞬間さらなる違和感がヒカルを襲う。
なぜ、そのリュックがスエのものだと気づいたかというと、スエの誕生日にヒカルがプレゼントとしてあげたからだ。そしてファスナーの持ち手にはおそろいの宇宙人のストラップがぶら下がっている。
ヒカルに襲う違和感とは、通常スエのリュックは、二人で遊ぶ時やプライベートで使っていたもので、学校の日に使うことは無い。なぜなら学校の規則で学校指定のスクールカバンでの登校が義務づけられているからだ。そしてヒカルの今日の記憶の中でもスエは今日。スクールバックで登校し、この井戸までスクールカバンを持ち、一緒に来た。
すごく嫌な感じがして、大きな声を張り上げた。
ヒカル「スエーー」
闇の中でこだました声は次第に飲み込まれていく。そうだ。と、ひらめいた。スエに電話をかけてみよう。着信音で見つけてみせる。
ここまで自分を怖がらせたスエに対して、見つけたらすっごい怒って、いっぱい奢ってもらおうと決めた。さっきまでの恐怖が怒りに変わった瞬間である。
呼び出し音が鳴る。ぷっぷっぷ・・
絶対に見つけて、怒って奢って貰うんだから。心で念じながらコールがかかる。
聞きなれたメロディーがなった。スエだ。友達の着信音を覚えていないはずはない。スマホ画面も光るはずと目と耳に神経を集中させ辺りを見聞した。
そして音は後ろから聞こえてきた。
すぐさま振り返る。
驚きの光景に、スマホを落とす。
後ろにあった井戸の中から光が漏れていた。メロディーも聞こえる。
ヒカル「おいおい。井戸の中に普通隠れるかね?」
ずっと井戸のそばにいたのに、私に気づかれずにどうやって井戸に隠れたのかという疑問は、ひとまず置いといて、落としたスマホを拾い。
ヒカル「もぉおお、めっちゃオコだよ。バカスエ。」
とスマホのライトを井戸の中に向けた。
井戸の中には、着信を受け光り、鳴るスマホと一人の女子制服を着た人が倒れていた。
ヒカルは絶句し、目が回り腰を落とした。ヒカルは今見た信じがたい光景が頭の中を駆け巡り、胸元にヒカルとおそろいのオカルトのバッヂがついていたことを鮮明に思い出した。
ヒカル「あぁ、そういうことか。」
次に目を開けた光景は病院のベットの上であった。隣に母親と中年の警察官が話しているのを見て、今、頭の中を支配している記憶が本物であると確信した。
警官が目を覚ましたヒカルに気づく。警官の視線に、すかさずヒカルの母親がヒカルの方を向いた。
母親「ヒカル、大丈夫。」
ヒカル「うん。」
警官「目覚めてよかった。今は、色々困惑していると思うから心の整理がついた頃にまた来 ます。」
警官はヒカルと母親に挨拶をして部屋を出た。
ヒカル「今、何日?」
母親「6月25日の21時過ぎよ。」
ヒカル「そぉ」
母親「さっき、警察の方から辛い経験をされている場合、むやみに話してしまうと心が壊れる場合があるから発言には気を付けてください。って言われたんだけど・どう?・・その・・・記憶とか・・ある?」
ヒカル「あるよ。全部覚えてる。でも一個わかんないんだけど、どうしてここにいるの?」
母親「それがね通報があったらしいのよ。井戸の周りと井戸の中に女子生徒が倒れてるっ て。」
ヒカル「らしい?って」
母親「あぁ、通報があって向かった救急隊員の方曰く、そこには二人の女子生徒しかいなくて通報者が見当たらなかったんですって。だから通報があったのは本当なんだけど、誰が通報したのかわからないのよ。お母さんお礼を言いたいんだけどねぇ。困ったわ。というか普通どっか行くって変じゃなぁい?しかも井戸の周りは雑木林であそこで何をしていたのかしら。」
本当にそうだと思った。私たち、何してるんだろ。自分を責める準備を始めた。
母親「っあ。あそこで何してたっていうのはヒカルのことじゃないわよ。通報者の話よ。」
ヒカルの意識が宙を舞ってヒカルの体に着地した。
ヒカル「スエがね、気になる井戸見つけたから一緒に行こ。って言ったんだ。」
「スエのお母さんどうしてる?」
母親「スエちゃんに寄り添ってずっと泣いているわ。」
「警察の方が言ってたんだけど、スエちゃんが亡くなったの昨日なんですって。」
一瞬、ヒカルの顔が青ざめるが、ヒカルの母親がそれに気づくことは無い。なぜならヒカルの母親は冷静さを装い、心の中は不安で満たされていた。そんな不安をかき消すかのように話し続けた。
「それでね警察の方が昨日の夜、スエちゃんが帰って来てないってことになるから、どうして早く行方不明届を出さなかったんですかってスエちゃんのお母さんに詰め寄っていて、今さっき最愛の娘を失くした母親に対して、あまりにもひどすぎるわよねぇ。」
「だって、スエちゃんのお母さん夜のスナック経営で夜はいないし、帰ってくる頃には、スエちゃん学校行ってるから、気づかないわよねぇ。・・・そんな事。シングルマザーだし。ヒカルのことも心配だけど、同じ母親としてはスエちゃんのお母さんのほうが心配よ。」
ヒカル「・・そうだね。」
今の現状を自分ベースではなく、その周り。スエの周りにまで広げたヒカルは、事態の深刻さに気付き、ようやく涙が溢れた。
先ほど気づいた違和感を心の奥に忍ばせながら。
第一章(完)