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第5話 今回の経験はあたしたちの宝になる




 その日は4層まで行って戦った。おじさんたちが昨日この層までのモンスターを見せてくれたのって、こういうことだったんだ。


 ボクはレベル6、フォンシーとシエランはレベル5になった。

 まだまだ全然だけどスキルも増えてきたし、明日はもっとがんばれそうだ。うん、楽しい。



 ◇◇◇



「うし。乾杯だ」


 ウォムドさんの掛け声で、その日も事務所で打ち上げだ。なぜか今日もおじさんたちの奢りだよ。はむはむ。

 宿代は半額だし、朝は事務所で、昼は保存食だ。分け前が二割だって貯金ができるくらいだよ。あ、ボクたち三人は余ったお金を全部まとめてる。もしかしたらがあるからね。



「いいか、シーフとファイターのスキルは一生モンだ。プリーストだって攻撃は『強打』が使える。ジョブで重複するから出番が多いんだ──」


 カースドーさんのスキル講座だ。ちょっと酔っ払いだけどね。


「三時間以上寝ればスキルは元通りになる。だからよく寝て、たくさんスキルを使うんだ。すげえ連中になったら迷宮で寝るくらいだぞ」


「迷宮で? すごい」


「ああ。交代してな、ちょっとずつ寝るんだ。で、ずっと戦い続ける。そんなやつらもいるんだよ」


 そんなすごい人たちがいるんだ。

 カースドーさんの口調からわかる。ボクから見ればすごく強いおじさんたちだけど、もっと強い冒険者に憧れてるんだね。



「それで思い出した。明日からは『スキルトレース』を意識してみろ」


「スキルトレース? 講習で聞いてないな」


 フォンシーが首を傾げてる。

 当然ボクは知らない。シエランもそんな感じ。


「スキルを使うとある程度体が勝手に動くだろ? それを覚えておくんだ」


「もしかして、スキルを使わないで似たようなことをするんですか?」


「そうだシエラン。スキルっていうのはすげえ力が乗るけど、動きも最適化……、お手本って言えばわかるか? スキルを使った時の動きをマネするんだ」


 そうか。ボクの『忍び足』も足が速くなったのもあるけど、足音を立てない歩き方ってあるんだ。なんかこう、しゅばばって感じの。ふむふむ、できそうな気がする。


「とにかくスキルを使うっすよ。それと一緒にスキルトレースして、動きをよくするす。そしたらほれ、スキルが無くなっても戦えるっすよ」


「考え方だなあ。弱い敵はスキルを使わねえで倒す。強い敵には全力だ。まあそれは追々だな」


 アシーラさんとウォムドさんが言うことは、なんとなくだけどわかる。でもまだまだ先の話だよ。酔っぱらってるよね?



 ◇◇◇



 それから三日経った。なんていうかすごかった。

 5層のゲートキーパーをやっつけて、昇降機っていうのの鍵も手に入れた。これで一気に9層まで行けるらしいんだけど、それはまだ早いらしい。順番に6層、7層に進んだ。



「『オディス』。いいメンターだ。今回の経験はあたしたちの宝になる」


「そうなの?」


 フォンシーがボクの傷を治しながら感心した風に言った。


「あいつらなら一気に20層くらいまで行って、そこで強制的にレベルを上げられる。それで契約終了だ」


「パワーレベリングですね。それをしないのは、わたしたちの実戦経験」


「そうだ。時間は掛かるだろうが、レベル以上にあたしたちを強くしようとしてくれてる」


 そうなんだあ。たしかにここ二日くらいは、ボクたちが倒せるギリギリのモンスターと戦ってる気がする。直接攻撃に強い敵は全部おじさんたちがやっつけちゃう。ボクたちは魔法が使えないからね。

 もっと深い階層行って魔法でドカンってやれば、もっと早くレベルアップできるんだ。だけどおじさんたちはそうしない。ボクたちが見てるだけになっちゃうから。そういうことだったんだ。


「じゃあさ、がんばらないとね!」


「おう」


「はいっ!」



 ◇◇◇



「やったあ、レベル13!」


 シーフになって七日目、ボクはマスターレベルになった。シエランが12で、フォンシーは11だね。ジョブごとにレベルアップの経験値が違うんだ。

 たくさん戦ったせいか、フォンシーとシエランはMINがまたひとつ上がった。ボクは最初のまんま。うーん。


「よしよし。まだ時間もあるし、残り二人もマスターまでいっちまうかあ」


 14層から15層に続く階段の途中で、ウォムドさんが楽しそうに言ってくれた。

 ボクたちのHPがもっと増えたら20層より下に行くんだって。おじさんたち三人はすごいもんなあ。



「あっしは長いことファイターで、ウォムドはパワーウォリアーやってたっすよ」


 歩きながらちょっとした雑談だ。今回はおじさんたちの昔話。ジョブがどうこうって言ってたらこうなった。


「あれ? カースドーさんは?」


「俺はレベル30台のパワーウォリアーだったぞ。あの頃はまだアシーラとウォムドとは組んでなかったからな。といっても、まだ半年も経ってないか」


 いつだか聞いた話だ。力自慢しにヴィットヴェーンに行ったんだっけ。半年前って全然昔話じゃなかったよ。


「で、けちょんけちょんにされたんでさあ」


 なんでも女の人だけのクランがあるらしくって、そこがヴィットヴェーン最強なんだって。カースドーさんは、その中でもとびきり若い女の子にかなわなかったみたい。ボクたちと同じくらいの世代らしい。なにそれ。


「目が覚めるってのは、ああなんだろうな」


 ウォムドさんも目を細めた。そんなにすごいんだ。


「もしかしたらお前らがベンゲルハウダー最強になる日もあるかもな」


 やめてよカースドーさん。ボクはたくさん食べて、お昼寝するのが目標なんだから。


 その日の夕方、シエランとフォンシーもレベル13になった。

 一昔前なら一人前の冒険者なんだって。でも今はここかららしい。強くなるのは嬉しいし楽しいけど、大変だなあ。



 ◇◇◇



「やあ、頑張っているみたいだね」


「はい?」


 朝ごはん中のボクたちに話しかけてきたのは背のおっきい男の人だった。こげ茶色の髪の毛して、同じ色の目がキラキラしてる。おじさんじゃなくて多分20はいってないくらいかな。後ろにはもう一人男の人、それと女の子が四人。全員同世代くらい。

 どっかで会った気がするけど、思い出せないや。


「新人講習の時にいた人たちです」


「……おぉ」


 シエランがコッソリ教えてくれて思いだした。いやいや、そんな人たちもいたなあ、ってくらいだけどね。

 だってさ、ポリアトンナさんに驚いて立ち上がって、終わったらすぐにみんなで出て行ったって印象しか残ってない。あのときの六人でパーティ組んでるのかな?



「俺たちは『ラーンの心』。ラーン村からきたパーティだ」


 なにも返してないのに勝手に話し始めたぞ。こっちはどうしたらいいかわかんない。フォンシーなんてチラっと見たあと食事に戻ってるし、シエランはオロオロしてるだけだし。

 それとラーン村がどこにあるのかも知らないから。


「はい、こんにちは。えっとボクたちは三人組で、まだ名前は決めてません」


 こういう返事しかできないよ。


「知ってるぜ。メンター雇ってレベリングしてるんだろ?」


「ええ、まあ」


 だからなに?


「俺たちはアベレージでレベル10を超えたんだ」


 ボクは18だけどね。

 ホントになんなんだろ。蔑んでるって感じじゃないけど、すごく自慢げだ。ええっと講習から二十日くらいかな。メンター無しでレベル10まで上げたのはすごいと思うけどさ。



「キミたちがマスターレベルを超えたのは知ってるよ」


 知ってるのかー。そっか、マスター記念におじさんたちの奢りで大騒ぎしたもんね。


「ありがとうございます?」


「キミたちは同期だ。見かけたから激励ってわけさ。それと勧誘かな」


「勧誘?」


 それってボクたちを誘ってるってこと? だけどそっちはもう六人だよね?


「将来に向けてさ。俺たちはいつかクランを作る。それもベンゲルハウダー最高のクランだ。時がきたらキミたちを誘おうと思ってね。今の内にツバ付けとこうってことだよ」


 ずいぶん先の話だった。


 そこからなんか身振り手振りで説明してくれたけど、ちょっと意味わかんなかったよ。ボクが言うのもなんだけど、夢見すぎじゃないかな。


「あたしたちはあたしたちでがんばるさ。クランが出来た頃にまたな」


「……そうだな。じゃあお互いの健闘を祈ってるよ」


 フォンシーが話を終わらせてくれた。表情にはでてないけど、めんどくさそうなのが伝わるよ。

 話しまくってたお兄さんは名残惜しそうだったけど、もう一人の男の人が引っ張るみたいに連れてった。

 そのとき軽く頭を下げてくれたから、こっちもそうした。もしかして一人だけ暴走してたの?



「なんだったんだ、アレ。めんどくさいな」


「妙に爽やかな人たちでしたね」


 二人の感想がそれぞれなのが面白いね。爽やかねえ。ボクは暑苦しいかなって思ったよ。


「ほれラルカ、朝飯早く食わないとおっさんたちが来ちまうぞ」



 あわわ、急いで食べないと。いっぱい食べて今日も迷宮だ。



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