第13話 お父様を屈服させるくらいの暴力を身に付けるわ!
「シエラン、ミレアとザッティを任せていいか?」
「……わかりました」
ミレアとザッティを送り届けたあと、ボクたちは作戦会議をしていた。ウルはもう寝てる。ボクも眠い。
大事なのは陣形っていうか、誰が二人を守るかだった。候補はボクとシエランだね。ボクの速さをとるか、シエランの盾をとるかってところだ。
結局みんなで決めてシエランになった。考え方はボクとウルが速さを活かしてとにかく素早くやっつけるって感じ。
「『フォ=ピィフェン』も使う」
全体盾魔法だね。フォンシーがプリースト魔法使えてよかったよ。
「二人が育てばミレアが後衛から魔法攻撃、ザッティだけを守りに回せる。パーティは確実に強くなれるんだ」
「ミレアにマスターレベルでジョブチェンジしてもらうのは……、ダメですね」
「ああ。ウィザードの魔法は絶対だ。コンプリート以外ありえない」
講習で聞いた内容だね。ウィザードの最強魔法『ティル=トウェリア』はすごく大事だから、ウィザードのジョブチェンジはコンプしてからが普通なんだ。
「しばらくあたしたちのレベリングは考えない」
「そうですね」
「うん、ボクたちが仲間を育てるかあ」
ウルは寝てるけど、ボクたちの意思は決まった。
「本当はメンターに任せたいんだが、ミレアの気性を考えるとな」
「わかってくれても、仲間外れって思っちゃうかもね」
せっかくみんなで仲間になった。しかもついに六人。フルパーティなんだ。
「ボクはやるよ。せっかくいままで鍛えたんだ。仲間のレベリングに協力するのは当たり前だよ」
「そうですね。わたしもがんばります」
「ああ、やるぞ」
◇◇◇
「ごめんなさい!」
「……すまん」
次の朝、待ち合わせの事務所に行ったら、先にきてた二人が頭を下げた。
「説得、ダメだったんですか?」
シエランが残念そうだ。二人が謝る理由ってそれくらいしか思いつかない。
「ううん、冒険者になるのは認めてもらったわ」
じゃあなんで謝るの?
「それがね、わたくしが入るパーティが信用できるか、直に会って確かめたいって」
「うえええ!?」
「ごめんなさいラルカ。嫌よね」
「いやいや、嫌っていうか、ボクは田舎者だよ? 男爵様に会うなんて」
この際、公爵家の人たちと話したことあるっていうのは、なかったことにする。なんかあの人たちって例外な気がするんだよね。それにほら、普通の貴族様って怖いって聞くし。
「……オレじゃ頼りない」
「ザッティのせいじゃないわ!」
うーん、たしかにザッティはまだレベル0だし、それは仕方ないよ。だけど心意気は感じる。
ここはどーんってボクたちが頼りになるとこ見せないと。
「呼ばれたならいくさ。だけどミレア、あたしたちは貴族の作法なんて知らないぞ」
フォンシーも決心したみたい。だけどボクたち全員平民だからなあ。
「それは大丈夫よ。お父様はそういうのを気にしないから。ただ……」
「どうした」
「いえっ、多分、多分大丈夫のはず、よ」
すんごく気になるんだけど。ホントに大丈夫?
貴族に逆らう平民どもめー、ってなるのヤだよ?
「わたしも行きます。ご挨拶したことなかったから」
「朝ごはん食べないのか?」
ちょっと震えてるけどシエランも決意したみたい。ウルはぶれないねえ。みんながちょっと笑顔になった。
とりあえずごはん食べよっか。
◇◇◇
「ふむ、私がミレアの父、ムートハイト・マキレ・モータリス。現モータリス男爵当主だ」
ミレアのお父さんは、なんかこう普通のおじさんだった。目元とかはなんとなく似てるけど髪も目も茶色で、なにより雰囲気が違う。着てる服は綺麗だけどなんか疲れてるって感じ。ミレアは元気な子だからねえ。
「シエランです。ミレアにはお世話になっています」
「ラルカラッハです」
「ウルラータだぞ。このお茶、甘くない」
みんなでお話をしてるのは男爵邸の応接室だ。どんな対応されるかと思ったけど、一応お茶が並んでる。
シエランが最初に挨拶して。ボクとウルが続く。ちょっとウルが危ない。
「フォンシーだ」
「ほう? エルフか」
最後になったフォンシーも結構危ない気がするよ。
だけどそれどこじゃなかった。フォンシーを見た瞬間男爵様の目がこう、キラーンって光った気がしたんだ。
「流石はエルフといったところか。実に可憐だ。よしっ、ミレアをよろしく頼むぞ」
「お父様っ!?」
ミレアがすっごい慌てた。
パーティに入るのは許してもらえた感じだけど、これ絶対変だよね。
「それでフォンシーとやら」
「……なんだ?」
男爵様がフォンシーを名指しした。
不穏だ。不穏すぎる。フォンシーの額に汗が見える。焦ってる、フォンシーも焦ってるよ。
「私は10年前に妻を亡くした。ミレアからすれば母親だな。そこでフォンシー、ミレアの母にならないか?」
男爵様がとんでもないこと言いだした。ミレアとフォンシーって1歳とたくさんしか違わないはずだけど。
「……ミレア」
「ごめんなさい、フォンシー。お父様はエルフが大好きなの」
「……あのなあ。これは断っても大丈夫なのか?」
「いいわよ」
フォンシーの周りに冷気が漂ってる。ここが迷宮だったら『ダ=ルマート』が炸裂してそうなくらい涼しい。氷魔法ね『ダ=ルマート』。
さくっとながすミレアもミレアだ。
「ふっ、私は束縛せん。フォンシー、娘をよろしく頼むぞ。いつでも我が家を訪れるといい」
「……あのなあ」
こうして男爵様の許可が出て、ミレアとザッティはボクたちの仲間になった。ザッティ、一言もしゃべらなかったね。
◇◇◇
「あたしは二度と行かないからな」
「わかっているわ。わたくしとザッティも今夜からはみんなと一緒に宿だから」
男爵邸からの帰り道、フォンシーが深々とため息を吐いた。気持ちはわかるよ。
そしてというかついにというか、今晩からボクたちパーティは冒険者の宿に泊まることにした。シエランの家だと六人はムリだからね。
「さすがはフォンシー、やるねえ」
「怒るぞラルカ」
「あははっ、ごめんごめん」
「フォンシーはやるのか、すごいな。あ、止めろ、しっぽを掴むな。止めろフォンシー!」
ウルのしっぽを握ったフォンシーが、こっちを冷たい目で見てる。ごめんって。
「フォンシーが断ったのに、よく男爵様は認めてくれましたね」
「お父様はまだ諦めていないわ。繋がりを持とうとしている」
そうやってシエランに返事したミレアだけど、これってまずくない? ボクたち男爵様に目を付けられちゃったの?
「大丈夫よ。わたくしは強くなるわ」
「強くなってどうするの?」
ボクは当然フォンシーの味方だけど、ミレアはどうする気なんだろ。
「お父様を屈服させるくらいの暴力を身に付けるわ!」
うん、酷い。エルフ好きな父親と暴力娘か。一人っ子って聞いたけど、男爵家の将来はどうなんだろう。
「ふぅ。さあ装備を借りて潜るぞ。これからあたしらは金欠なんだからな」
そんなミレアを追い出さないフォンシーもすごい。一度決めたら必ずだ。かっこいいね。ボクも見習おう。
◇◇◇
「……これは」
「いいかザッティ、今は盾だけでいい。シエランも傍にいるけど、それを使ってミレアを守れ。必ずだ。それがザッティの役割だ」
「……わかった」
ザッティには剣を持たせないことにした。本人には悪いんだけど、今は希望を聞いてる場合じゃない。
それで装備してもらったのが大人用のヒーターシールド。みんなが装備してるバックラーの三倍は大きいね。逆三角形みたいな盾で、ザッティの体が八割くらい隠れるくらいだ。これでとにかくミレアを守ってもらう。
「家から持ってきたわ」
ミレアが手に持ってるのは『黒樫の杖』だ。硬くて魔法の威力もちょっとだけ上がるんだって。レベル0だから、まだ魔法使えないけどね。
防具は革鎧の上に昨日も着てた『魔導師のローブ』。魔法に耐性? があるんだって。両方家から持ちだしたらしいけどいいのかなあ。
「魔法使いみたいでかっこいいぞ」
「ありがとウル。どうせお父様は使わないから。わたくしが有効活用するの」
男爵様はナイトなんだって。
実はモータリス男爵家って、あんまりお金がないらしい。先代つまりミレアのお爺さんがなんかやらかしたらしくって、領地を取り上げられたんだって。今の男爵様は領主様のところで仕事のお手伝いをしてる。事務職っていうらしいよ。
「わたくしが冒険者で成功して、お家の名前を上げるのよ!」
「……オレもがんばる」
二人は仲良しだねえ。
いいんじゃない。目標は人それぞれだ。
「もう昼すぎちゃったね。昼ごはん食べてから出発しようよ。いつも迷宮で干し肉だからたまにはさ」
おなかが空いたらがんばれないよ。
「ウルも食べるぞ!」
ウルのしっぽもぶんぶんだ。ボクもしっぽをゆらゆらさせるよ。あ、ザッティがまた目で追っかけてる。
今日はこれから大変そうだ。だからちゃんとごはんを食べて、がんばろう。




