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「すいまっせんでしたー!」

 商館に若い女の甲高い声が響く。

 そいつは平身低頭を絵に描いたような姿勢で謝罪の言葉を口にした。

 当然だな。

 傷害未遂、下手すりゃ殺人未遂だ。しかも本人の勘違いでだ。被害に合った方は堪ったもんじゃない。

 今回は被害にあった方……つまりザシャ・シュラールが本気で何にも気にしていないようなのでお咎めなしなようだった。器がでかいのか何にも考えてないのか。きっと後者だろう。

「あたしはラニーグリア・サンフェルドって言います」

 そんなラニーグリアの前に鎮座しているのはツィラ・バルタサーリという名の婆さんだった。

 塵も埃も傷も何一つ付いていない磨き上げられた馬鹿みたいに高そうな大きな机に肘をついて無表情かつ何も口にすることなく冷静にラニーグリアをじっと見つめている。

 怖え。

 どうして社会的に成功した人間の無言の圧っていうのは怖さを伴っているのか。それは心理的にこちらが負けていると悟っているからだと思うのだがどうか。

「ツィラ。僕はこうして高原の岩清水から流るる清流のような美しき肌を維持しているんだ。そう目くじらを立てないであげてくれたまえ」

「あんたは黙ってな汚水小僧」

「あ、はい」

 俺たちの引き起こしたバルタサーリ商会汚染騒動の後、臭い汚い気持ち悪いという三種の神器を併せ持つ化け物として変わり果てていた俺らは風呂に入り念入りに体を洗い清潔な真人間として転生を果たした。

 でもなんかまだ臭い感じがする。

 微妙に離れているレイやハルとの距離感が切ない。俺だったら部屋から出て行けとばかりにマフィアキックかましてるかもしれんから優しい方か。

「こっちに来なラニーグリア」

「はい!」

 背筋を伸ばす小娘。この場の絶対的支配者が誰だか理解出来る程度の状況判断能力は持ち合わせているようだった。

「屈みな」

「申し訳ありませんでしたー!」

 土下座。

 遥か遠く、伝説の東世世界に伝わっていたという伝説の謝罪法。およそ人がし得る最大級の謝罪らしい。

 その在り方は多岐に渡り、中にはジャンピングでエクストリームなスタイリッシュ土下座なんかもあるだとかで色々と研究もされているらしいが奴がしたのは相手方よりも頭を低くして膝を揃えて座り込み、両手をついて床に額をこすりつけんばかりに伏せる基本に忠実かつ型通りのものだった。

 奇を衒わないという意味では好感が持てるかもしれない。

 ツィラ婆さんはラニーグリアの傍まで近寄ると伏せたままの後頭部をじぃっと見つめている。

「あんた」

「はいぃぃぃ。何なりと仰ってくださいぃぃぃ」

 俺らの時と態度違いすぎじゃねあいつ。

 お前が一番申し訳ないと示さないといけないのはザシャでその次が俺のはずなんだが。

「頭上げな。あんた聖樹の民の生き残りかい?」

「はいぃぃぃ。生き残りで……はい?」

「ラニーグリア、あんたの持ってるもん漁らせてもらったよ。悪いとは思っちゃいないよ。そこの煌士の兄ちゃんがいなくちゃ身内がくたばってたかもしんないんだ。他ならぬあんたの手でね。どこの誰かか正体ぐらい探らせてもらう権利があると確信してるんだが、あんたはどう思う」

 物言いは丁寧で正論っぽく聞こえるし実際に正しいんだろうけどなんだろう。

 俺という邪なフィルターがかかっているせいかインテリマフィアの脅しにも聞こえてくる。

 押収したゴツいナイフを弄りながら他人事として聞いていた。それにしてもこのナイフ。大型の魔物でも倒せるように即効性の毒が流れるギミック付きという嫌らしい代物だった。

 毒は用途に応じて仕込み分けが出来る。年季も入っているしこの年頃の女子供が持つには物騒にすぎる色物でもあった。

「聖樹の民。女神により強大な力を与えられその証として体の一部に聖樹の紋様が浮き上がるって話だったね。なあ、あんたはそれについてもどう思う」

「え、いや、えっと、その、それは……」

「なんだい違うってのかい。違うって言いたいのかい。あたしが許してやるからさ。言っても構わないんだよラニー嬢ちゃん。あんたにあたしのことを聞き出す権利は毛先ほどもないって。そうじゃないってんならあんたはあたしの質問にすべて答える義務がある。そうだね。そうだろう」

 穏やかな口調なんだけどなぁ。巨大な蛇が兎を追い詰めてくような粘着さを感じる。最初はお前はどこの誰かだって話だったのにな。次の瞬間にはお前に口を塞ぐ権利なんざねぇとなっていた。

 ラニー嬢ちゃんは味方を探し求めるように視線を兎の耳のようにちょろちょろと動かした。

 動かしたところでやつの視界に入るのは俺、ザシャ、婆さんに全く見知らぬレイとハルだ。アホたれでも分かるように訳すると敵、敵、敵に敵(推定)しかおらんのだ。

 途方に暮れるのもの無理はない。

「いぃえぇ。仰る通りですぅぅぅ」

 屈した。小娘は自分の仕出かした罪に対する罰を無条件で受け入れた。仕方ないね。どっちが悪いか一目瞭然だもんね。

「そうかい。だったらあたしにこいつが一体何なのか教えてくれるかい」

 婆さんが手に持ってるのは小娘が持っていたペンダントだ。

 あん時はどんな装飾してんのかなんて見もしなかったがありゃ確かに聞かざるを得ないよなぁ。

 大きめのトップに施された見間違いようもなく大きな樹木を模したそれ。

 かなり古びているって点は俺の持ってる懐中時計と同じだ。

 そして俺の懐中時計が……。

「……光った」

「うむ、輝きまくっているね!」

 前の一件以来、ただの頑丈な古時計としての機能しか持たなかったこれが今、こうなってる意味とは、そして理由とは。

「なんか熱い! 首の後ろ熱いんですけど! どうなってんの!?」

 知らんがなと言いたいところだがラニーグリアの首筋の痣が奇妙に脈打っていた。

 そして時計の蓋を開けると普段は正常に回る針がある方向を指し示したまま止まっていた。

「ふん。坊やの時計はやはり聖樹に縁のある煌遺器である可能性が高いね。固有の煌力振動波形の同調による煌素共鳴がこの現象を引き起こしているのだと考えられるが、その原因は何なのか」

 婆さんが思い切り理解不能な言葉を吐き始めた。不気味だ。

「この方向は……まだ消えないでおくれ! 地図、地図、地図はどこ⁉」

 ザシャは自分の身体をまさぐり始める。気持ち悪い。

 ラニーグリアが原因だとしたらどうだろうか。

 こいつと初めて会った時、流石にあん時は気づける余裕なんぞなかった。

 だけど下水に降りてからなら。

 あんな薄暗い中でわけわかんない光があったら俺だって気づく。それがなかった。だけど今はこうなっている。それは一体、なぜなのか。

「針が指し示す方角を覚えておいてくれ! ああ、もうひとつ同じような遺器が離れた場所にあれば正確な交点が弾き出せるのに! なんと惜しい口惜しい思わず身悶えしてしまうね!」

 ザシャは煩いが普通なので特に気にならない。

 やがて時計からは光が失せて、針も正常に動き出した。

 気になるのほあずっと無言だったハルだ。

 場を弁えるということを知っている筈の奴なので、ザシャと初対面の時とは違い今回はしゃしゃることもなく黙って見守っていたはずのあいつが左目を抑え込んでいた。

「おい」

 声をかけると手で遮られた。

「だ、大丈夫。大丈夫です。少し痛むだけです」

 大丈夫そうに見えないから声をかけたんだよ。

 こいつの左目はちょっと訳アリだ。

 元々は普通の目だったがちょっと前の事件で変質した。レイのように傍目にも分かるほど何かに影響を与えるもんじゃない。むしろ見た目以外は何にも変わりがなくて拍子抜けしたぐらいだった。

「何にもないなら顔をあげろ。レイが心配……してくれたらいいよな」

 ガキんちょの目玉がハルに向いているのがただ動く物を追う猫の習性的なあれじゃないのを祈ってる。

「本当に、もう大丈夫です。痛みも消えましたし。一応、見てくれませんか」

 ハルが左目を隠す眼帯を取り払うと冷たい黄金に輝くそれが晒される。それが魅入られそうな位にギラついていた。

 おいおい。

 とりあえず、ぽんとハルの肩に手を置いてやる。

「ほんっとろくな目に合わんなお前は」

「どういう意味です」

「そういう意味だよ」

 視線を交し合う俺らをよそに周囲では別の展開があった。

「へぇ……」

「それは……」

 ティラが面白そうに呟いて、ザシャが驚いたりしたけれど。

 一番面白い反応をしたのはラニー嬢ちゃんだった。

 何か信じられない物を見たように目を見開いて、何を言っていいのか分からないように口を開け閉めして、そうして唐突に泣き出した。

「み、み、み、みござむぅあーーーーぐぶぇっ!」

 いや、流石に止めるだろこれ。

 鼻水やら色んな汁を巻き散らかしてハルに突撃かますラニー嬢ちゃん。その姿は、控えめに言っても悪魔に乗り移られた関節外れた物の怪のようで防衛本能が勝手に反応した。

 ハル以外は全く目に入っていなかったようなので、簡単に投げ飛ばせた。

 引き潰されるオールドフロッグの断末魔めいた悲鳴を上げた。

「おい、あれどうする?」

「抑えな。変に動き出されても困る」

「あいよ」

 動けないように押さえつけた。

「ぐえぇー……」

 年頃の乙女が発してはならない声色に、だが俺の心は痛まなかった。もうとっくに乙女としてあるまじき醜態を晒している。一つや二つ上塗りされたってたいした違いはないだろう。

 悲しいけれど塗り重ねられた恥は決して削ぎ落せないのだ。

「みござまーおだずげー」

 底無し沼から旅人を誘う泥人みたいな哀願の声はハルに向けられていた。

 俺はハルを見る。

 ハルは首を傾げる。

 黄金の左目はとても冷たい輝きで感情というものが宿っていない。人間の目というよりも魔物の目と言った方が近い。それに見据えられるとちょいと気圧されるがなあに慣れっこさ。

「あれは……」

「やはり……」

 そしていかにも意味深げかつ訳ありげにひそひそと会話をする雇い主とその魂の主。

 声を潜める。これは非常に良くない。

 なぜって聞かれたくないことを話しているからだ。聞かれたくないってことは聞かせると都合の悪い何か、あるいは誰かがいるってことだ。

 つまり俺かハルかレイ……はないな、うん。あるいはラニー嬢ちゃんか。

「みこさまー……」

 そのラニー嬢ちゃんが哀れっぽくしくしく泣くんで温厚かつ篤実で慈悲溢れると評判の俺の良心が流石に痛みだした。

 ここまで一切、口を挟まずに成り行きを見守っていたハルがここに来て初めて口を開いた。

「私はハルです。みこさまというのが何かは分かりませんがあなたはこの目がなにか知っているんですか」

「はい~知ってます~。その瞳は聖樹をお作りになった女神様の権能を受け継いで聖樹の意思、ひいては女神様のご意思を民に伝える巫女さまに現れたと伝えられています~。瞳はお仕えする女神さまによって異なるとのことですが~」

「でも変わった目をしているからと言って、それがあなたの仰る巫女の証明にはならないのでは。私自身、何か変わったモノが見えたり聞こえたりもしませんし」

「いえ!」

 ラニー嬢ちゃんが声を高める。

「もうね! その瞳を見た瞬間ね! あたしの中の全身の血流と毛根が、ついでに聖樹の民の感覚っぽい物がもろ手を挙げてあなたが巫女さまですと訴えてきやがりまして! もうほんっと見てくださいよこの鳥肌! もうこれ間違いないですよ!」

「お、まじだ」

「あんたじゃないし!」

 うるせーなこいつ。

「ぐぇぇー……」

 ハルがこいつの言ってる巫女だかなんだかについては頷ける部分もないではない。なにせあの目は白の魔女、かつて時女神の現身と呼ばれたとある魔女に植え付けられたようなものだ。

 ラニー嬢ちゃんの感覚なんざ当てにならんが、白の魔女と時女神の関連性を思えばハルがそのなんだ、巫女とかなんとか、そんな胡散臭い奴じゃあ絶対にないとも言い切れない。

 俺も自分が知ってる常識が何時如何なる時でも通じると信じるような世の中だと信じるほど頭にお花畑を咲かせてはいなかった。

「ラニーくん。君の言う巫女さまとは超自然的存在と交信するシャーマンのようなもので合っているのかな」

「えーと、まあ、多分?」

「自信なさげだなお前」

「茶々いれないでくださいカナタさん」

「あはは、怒られてやんの……ぐぇぇー」

 学習しない奴である。

「ラニー君。ハル君がいなくては聖樹の都への道は開かれないのかな」

 おい。

「え、ううん。あたしみたいな聖樹の民がいれば開かれるって母さんからは聞いてるけど、巫女さまの方が色々と都合が効くんじゃないかな。母さんは巫女さまこそ聖樹の都の頂点に立つお方だって言ってたし」

 おいこら。話を変な方向に向かわせてんじゃねーっての。

「ふむ。で、あれば話は一つだね。ハルくん、今この瞬間から君も一緒に聖樹を探す愉快なパーティに仲間入りだ!」

 ほら見ろ。道が枝分かれした。

 俺はハルを見る。

 ハルも俺を見た。どうしましょうと言ってるみたいに見えた。ええい、てめぇのことだろうがよ風見鶏か自分を持て馬鹿野郎と普段なら言うかもしれないが、今はちょいと事情が違う。

「いいか。旅行中に二つの道があったとする。片方はめちゃくちゃ整地されて歩きやすい道で綺麗で居心地の良い街に通じてる。一方、片方はきったねぇ泥濘だらけでしかも先は鬱蒼とした森に続いて先なんぞ見えやしねぇ」

 しかもだ。

「さらにお荷物持ちだ。そのお荷物は生もので放っておくとどこに行くか分からない。常識もないし知識もないし社会性なんぞ望むべくもない。そんなんを連れて先の見えない道をわざわざ選ぶ道理がお前にあんのか、おう」

「ちっちゃな子を引き合いに出すだなんてなりふり構ってられないのだねカナタくん!」

 ふふん、なんとでも罵ればいい。

 実際的な問題として、ハルを連れていくなんて無理だろう。

 何が起こるか分からない道行きだってのにアホたれを見ながら数に勝る猟兵なんて奴らを相手にし、なおかつハルの面倒も見るなんて俺の出来ることの容量を超えている。

 ハルは落とし子だし胆も座っているが、いざという時、為すべきことを為す。そんな覚悟は持ち合わせていないだろう。

「……私はこの目がどういったものであるのか知りたいと思う気持ちは確かにあります。けれどこの子を危険に晒すような真似は出来ません。なにより、私がここにいるのはこの子に色んな景色を見せるためですから」

 レイの頭をよしよしと撫でるハルである。

 ふぅ。上手くいって良かった。レイを引き合いに出せば引くって思ってたからな。

「えー? 巫女さま来ないの?」

「来ないのってお前、ついてくるつもりか」

「本当に聖樹を見つけるつもりなら絶対にあたしを連れてった方がいいよ。都に招かれるのは聖樹の加護を受けた者だけ。その加護は血とそして力に宿る。つまりは私か巫女さま。なにより聖樹の御許へ辿り着くってのは母さんや一族の悲願だからね」

「なんてほざいてるがどうすんだ」

「聖樹の都は女神の加護を受けし者こそ頂く。この文言とラニー君の言葉は合致する部分がある。僕としては聖樹を見つけられる可能性が上がるのならば連れて行っても構わないと思うのだけれど」

「決まりだ。ラニー嬢ちゃんは同行する。放してやんな。ただし、自分の身は自分で守るんだよ」

「はい! 自分の身は自分で守ります!」

 ため息を吐いた。気軽に決めすぎじゃないか。雇い主どもは目的遂行を先行しがちで、肝心要なことを聞き出していない。

「おいラニー。何が目的でついてくる。俺はお前を信用してるわけじゃない。その当たり、きっちりと聞かせてもらおうか」

「聖樹に辿り着くのは一族の悲願だってさっき言ったじゃない」

「それ以外にもあんだろうがよ」

 用事のありそうな相手がいるだろうがよ。恨み辛みが積もってそうな奴らがよ。

「あんたたちに付いて行けばイオニア猟兵団に、あいつ、ヘルダルフに会えるかもしれない。会ってあいつを―――」

「あいつを―――なんだよ」

 へったくそな口笛を吹いてごまかそうとするラニー嬢ちゃんは紛うことなくアホの子だと思う。

 ヘルダルフったらあれだ。イオニア猟兵団団長にして、ザシャの両親を殺したかもしれない男。

 そういやこいつ。母ちゃんの仇だとかなんだとか抜かしてたな。また変な因縁が組み上がった。

「お前付いてくんのは勝手だけどよ、先走ってこっちの安全を脅かすんじゃないぞ」

 などと言ってはみたものの効果なんぞまるでないだろう。舌を出して威嚇と挑発をしてきやがる。

 ハルの後ろに回ってきゃんきゃんと喧しく吠えてくる。人を見れば誰彼構わずに吠え掛かる小型犬のようだった。

「カナタ坊や」

「あん?」

「ハルお嬢が来ないってのはこの際、構わないよ。だけど、仮にアホたれ小僧が聖樹を見つけたとして安全が保障された後ならどうだい」

「そこは本人に聞けよ。俺はハルの保護者じゃねえの」

「そいつは確かにその通りだ。と、いうわけだがどうだいハルお嬢ちゃん」

 ちらりと俺を見るハル。だからなぜ俺を見る。俺はお前の敏腕マネージャーになった覚えは一切ないぞ。

「……そういうことでしたら。私なんかが行ったところで何が変わるとも思いませんが、何かが分かるのであればお願いしたいと思います。あの、それで大丈夫でしょうか」

「大丈夫もなにもないのさカナタ君の時計とラニー君のペンダント、そして君のその瞳。三種の神器が揃えば天下無敵剛力無双なのさ女神たちも照覧しまくってるだろうねああきっと聖樹の都の扉も首を長くして僕らの到来を待っているのだろういざ往かん!」

 そして走り去るザシャだった。どこに行くつもりだあのアホたれは。

 最初の予定とはちょいと変わって変な奴がくっついて来ることになったっぽいが、レイとハルもついて来るなんてことにならなくて良かった。

 先行きも不透明で信頼の置けない他人がいる中を、レイとハルを連れて徘徊するなんてのはぞっとしない話。

 ラニーを見る。

 あほ面からは敵意や害意。そうしたものを感じない。隔意はあるけども。

 こいつが実は凄腕の暗殺者だったなんて馬鹿みたいな展開はないとは思うよそりゃ。筋肉の付き方、骨格の作り、身のこなし。太鼓判を押してないと言える。

 それでも疑わしさは残る。なぜならこいつは……。

 聖樹の民ってのが具体的にどんなもんか知らんが同行することになった手前、全面的に信用出来ない奴を俺が警戒するのは当然だろう。

 それにイオニア猟兵団。

 なんであんないかにも不自然な場所で俺がいる時に襲ってきた。評判を鵜呑みにするのなら結構、腕の立つ集団なんだろう。ザシャをぶち殺すならもっと確実な場面があるだろうに。

 必ず目標を達成するって熱を感じなかった。ザシャを殺すことが目的ではないのか。

 それはつまり……どういうことだ。

 あーうー、何考えてんだか分かんねー。

 誰か俺に癒し成分をおくれ。真夏の涼しい高原でほんのり滝の水煙が降りかかってくるような、そんなのを希望したい。

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