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再び対面するザシャはやはりうるさかった。

それはそれとして彼のスポンサーたるバルタサーリ商会のツィラ会長と出会う。

カナタはそこでザシャの両親について尋ねるのだが……。


前書きってこんな感じでいいのかな。

20000文字以内って多すぎでは。

前書きっていうかすっごい簡単なお話内容になっちゃってますが。

 結論から言うと、別に実はあの底抜けにうるさいザシャが大商社の会長だった的な極めて不愉快な事実はなかった。

 その点に関して、女神さま達は自分たちの采配の失敗で鼻毛を引き抜かれる心配をする必要はなくなったと言える。

 だがそれでも俺のような小市民感覚で日々を精一杯生きている身としては彼我の間に聳える経済格差について思いを馳せずにはいられない。

 どうして働いても働いても追いつくことが出来ないのか。差は広まるばかりなのか。社会の構造的欠陥について人民よ今こそ立ち上がれと声を大にして誰か言ってくんねぇかな。

 俺はやだよ。面倒臭いから。

 不平不満だけはばっちり持ってるくせにいざ行動には移さない。そんな普通に下卑た俺が大好きだ。

 大きな館の腹の中に案内された。

 このラティエラに居を構えるバルタサーリ商会の支部。本拠は連邦の方だったっけ。陸運と海運を主に手掛けてる。もちろんそれ以外にも。協会ともそれなりに懇意にしてる。都市内の主な移動方法のトラム敷設もこの商会が大いに噛んでたはずだ。どんな配当かは知らないがとても懐が潤っているようでなにより。その一部分でも俺におっことしてほしい。

 我ながら似合わないが緊張していた。いや、だってなにか粗相があれば協会全体の悪評に繋がっちゃうかもしれないじゃん。善良な人間として広く知られているところの俺なら緊張してしかるべきだし。

「やあやあ待たせてしまったかなお三方。遠路はるばるラティエラへようこそというべきか僕に会えて感涙に咽び泣いてしまうのも無理からぬ話というかもうこの胸に飛び込んでおいてさあ子羊たち!」

 うるさい。

 そしてなぜ脱ぎ出す。

 お前まさか脱ぎ癖もあんのか。すでにどうしようもないほどうざったくて手の施しようもないアホなのにさらに恥の上塗りをするってのか。

 いやもうマジ尊敬するわザシャさん。もし生まれ変わって鼻くそとこいつのどっちを選ぶか言われたら鼻くそ選んじゃうかもしれねー。

「列車の旅はどうだったかな君たちのような若さ溢れる少年少女たちには少々退屈かもしれないと危惧していたけれど心配はしないことにしたんだなぜなら運命に愛された僕の輩である君ならばやはり運命に愛されていると断言してもいいのだからハイジャックの一つや二つくらい波乗り並みに軽くこなしてしまったのだろうしかし!」

 果てしなくうぜー。忙しなくうるせー。

 そしてなぜ脱ぎながら近づいてくる。

 ほら、ハルが公序良俗違反警戒してレイを抱き上げてんじゃんか。変な奴に近づかれたら遠ざかるごく当たり前の対応されて悲しくないのか。

「例え軽くあしらえたのだとしてもその心と体は見えない傷を負い疲労に纏わりつかれているでのではないだろうかならばその傷も疲労も僕が自らの体をもって癒してあげようじゃないか! さあ君たち全員脱ぎたまえ!」

 こいつやっぱり頭おかしいよ。

「どうしたんだいなぜ脱がないのかなははぁんさては僕という男の器を計り損ねているんだね心配なんて無用の長物なぜなら僕ほどの男ともなれば誰かあるいは何かに好、美、善を感じればそこに性差など差し挟む隙なんてないそんな僕はそう!」

 ひと際大きくタメを作った。

 ろくでもない一言が飛び出すに違いない。

 女神が与えた猶予に感謝します。けれどあなた方のお与えになった試練を恨みます。

「ぶぅわぃセクシュアル!」

 その言葉が館のみならず頭の中に木霊する。

 俺は今どんな顔をしているんだろう。鏡があれば見てみたい。そして衝動的に叩き割ってしまいそうだった。とても醜い顔をしてそうだから。

 ハルと目が合った。あ、乙女がしてはならん顔をしている。モザイク掛けてやらないと本人の名誉が失われる。

 おいこらレイ。なんでお前はアホを直視している。なんで興味ありそうな目を向けている。やめなさいやめて。珍しい生物を発見してしまっただけの反応だと信じたい。

 すげえのは館の中で黙々と自らの仕事に従事する方々たち。ちらりとこちらを見て会釈をして去っていく。目の前のアホなんてあってなきが如し。さくっとスルーしとる。

 俺もあの見事な技術を身に着けたいものだ。だってどうすんだよこの空気。もはや一歩たりともここを動かねぇ。通りたいってんならわいを倒せとでも言わんばかりに凝固しちゃってるよ。

「やや。どうしたんだい皆固まって。意外といえば意外な僕の性癖に驚いているのかな。だが案ずることはない。人類皆兄弟だ。じっくりこってりことこと煮込めば美味しく頂けちゃうものさ!」

「およしこのアホたれ」

 思いっきり頭をどつかれて倒れ伏すザシャ。鼻面からいったけどきっと大丈夫に違いない。だってアホだから。

 あいつ。最初に会った時よりもアホに磨きが掛かっている。まさか外に出てたから自重してたってことなのか。いやいやいや、自重してあれで、自重しなくてこれで。あいつがアホでアホがあいつで。

 あ、だめだ。頭悪くなってきた。

「悪かったね客人たち。こいつ友達が来るってんで張り切って出迎えたらこの様さ。まあこいつはこういう奴なんだと納得して慣れておくれよ。屋敷の皆はそうなった」

 何を言おうか何を言うべきかもう考えられない。

「あーいやーあーうん」

 言葉を忘れた人間は原始に帰るらしい。

「立ち話をするには老骨に厳しい。ついてきな。ちょいと座って話そうじゃないか」

 身を翻す女の人。

 見たことある。面と向かって話をしたとか人混みの中で見たとかそういうんじゃなくて、雑誌の中でって話。

 お年は確か五十代だったはず。自分を老骨とか言ってる割には背筋は伸びてるし颯爽と歩くもんだった。

 お付きの人を呼んでザシャを引きずらせる指示を送る姿は双方ともにとても手慣れていて俺は思わず唸らざるを得なかった。

 芸術点高い。

 通された部屋で俺はその人と向かい会う。 

「カナタ・ランシア三等煌士。四月に起きたブルーノにおける白の祈り襲撃事件解決における立役者。若手の中でも将来を期待されてる煌士の一人だね」

「期待されているかどうかは些か疑問がありますがカナタ・ランシアで間違いありません」

 目を丸くされた。やっぱり言葉遣いがアレだからか。

「はっはっは。堅苦しい物言いは苦手そうだね。いいさ普段の物言いで」

「……あー、じゃあ、お言葉に甘えさせてもらいます。育ちが悪いもんでつい粗雑な言葉や振る舞いが出てしまうかもしれません。特にそこで寝っ転がってる奴に対しては」

 それだけは言わせて貰いたかった。

「いいさ。あれが雇い主だからって遠慮をする必要はないね。あれは放っておくとどこまでも走っていく類のあほたれだ。止めたいなら腕力に物言わせるのも一つの手さね」

 おお。

 俺の調べが確かならこの人はザシャの親代わりの様な立場の人のはず。その人からお墨付きを貰えた。いや勿論、俺の都合の良い様に解釈しているだけだけど。

「で、そちらのお嬢ちゃんが妙齢の女性。実物は可愛らしいもんだね。噂だと魔女のような妖艶さを持つ女だとか言われてたか」

 いや、そこの女、実は本当に魔女なんです。と言っても箒に乗る方ではなく妖しいお薬を作る側の魔女ですが。

 ハルはにっこりとマリーダさん譲りの愛想笑いで乗り切ろうとしてる。なんとなくひきつってるようにも見えるけど。俺は笑いを堪えるのが大変だ。

「そしてそっちがエリスの忌み子。小さいお嬢ちゃんにしか見えないけどさてその中身はどうなのかね」

 楽しそうに笑う。獲物の価値を見定める非人間的な怖い笑みだ。

「警戒しないでおくれよ。あたしらの間じゃエリスにゃ深入りするなってのがずっと昔からの暗黙の了解になってるんでね。いい商売相手だ。それ以外のことで踏み込もうなんて考えてないよ」

「ほかにもいろいろ知ってることがありそうだなあんた」

 バルタサーリ商会の女会長。一代で連邦屈指の商会にまで育て上げた立志伝の人物。

 実用化は不可能と判断されていた小型煌力機械の搭載を成功させてしまった。

 それまで僻村なんかの中央から離れた土地は徒歩や馬、もしくは落とし子による人力での牽引車なんかが主な移動方法とされていたが小型自動車開発によるバスなんかの手段も確保されて移動方法に革命を起こした。

 これによる影響は情報伝達の向上、経済物流の活発化、各国交流の活性化など数え上げればきりがないらしい。なんてのが本に書いてあった。

「もちろん知ってるさ。あんたがどこで生まれたのか。あんたが煌士になる前になにをしていたのか。誰に拾われたのかなんてのもね」

「ほーん」

 ハルに袖を引かれた。不穏な気配を察知されたのかもしれん。

 怒っちゃいねぇよ。確かにちょいとむっとしたけどこっちだってこの人のこと調べてたしそこはお互い様っていうか。

「そっちの可愛らしいお嬢ちゃんについてはよく分かんなかったがね。どこで生まれてどんな風に生きてきたのか。その眼帯の下には何があるのか。あたしはちょいと興味があるね」

 ハルが身を固くした。

 そう。こいつがどこの誰なのか俺にも分かってない。身元が分からない。いや、別にそれ自体は珍しいことじゃない。親が出生届を出さなかったなんてどこにでもある話だ。

 たまにハルの口から語れる母親の話。それは楽しそうだけどどこか影がついている。軽いトラウマの匂い。その母親がなぜしなかったのか。いや、魔女だしとか言われると反論出来ないのだが。

 そもそも現代に残る魔女ってどんなだ。どっかに魔女の村でもあってひっそり暮らしてんのかね。そうだとしたらなんでハルとハルの母親は外の世界に出てんのって話で……。

 考えて止めた。ただの妄想に過ぎないからだ。

「おい婆さん。あんたがよく見える目と聞こえる耳に長い手足を持ってるのは分かった。だからそこまでにしときな」

 ハルがものっそく小刻みに袖を引いてる。

「見た目はいいかもしれないが中身は芋がお嬢風の服着てるだけだからな。第一、俺らはまだあんたの名前も聞いてないんだ。だから婆さんなんて呼ばれる」

 首絞められた。ぐえー。

「くっくっく。はねっかえりは若さの特権さね。ここ数年は自分から名乗るなんてなかったもんで失念してたよ悪かった。あたしはツィラ・バルタサーリだ。会長なんて役職押し付けられているが今は隠居の身。ま、どこにでもいるただの婆さね」

 あんたみたいな有名な婆さんがどこにでもいるわけないだろうと内心突っ込んだ。

「今回のこと引き受けてくれて感謝してるよ。そこのアホたれは身内みたいなもんでね。色々と話さなかったことも多いだろう。何か聞きたいことはあるのかい」

 いきなり来たな。

 まあいいさ。色々疑問に思ってたことが聞けるならそれで。

「あんたとそこのアホたれが親子同然の中だってのは知ってる。あんたがアホたれの両親の有力な後援者で友人だったってのも調べてる。で、今回のあんたの立ち位置も同じなのか」

「そうさね。あのアホたれの個人的な支援者さ。会社自体は関わらせてない。首突っ込んでくる奴はいるけどね」

 そうかい。金の匂いはぷんぷんするが、富や名声ってもんにはもう興味なさそうだもんなこの人。富と名声をどう使うかに関してはまだまだ興味ありそうだけど。

「じゃあ、前回はどうだった。あのアホたれの両親が失踪した時は」

「何にも。何にもせなんだ。二人から本格的な調査の前で手伝い必要ないと言われてね。今じゃ後悔してるよ」

 感傷に浸ってそうだが何にも言わんぞ。仕事だからね。

「二人の足取りはどこで消えた」

「こっからさらに南下したデルナって小さな村さ。そこで大森林について聞きこんでいたらしい。その先からぷっつりさ」

 大森林。なんて名前だったけ。イオニアだかエアニアだかそんな名前の。

 ラティエラから南洋連邦方面に向かって広がる大きな森林で迷い込めば生きて戻れないと言われている。いや、そりゃでかい森の奥深くに入ったら言われて当たり前だろ思うけど。

 凶暴な魔獣が生息していて危険ってのだけは間違いない。以前に森林を切り開いて連邦への交通を便利にしようと道路の敷設計画があったがそれも魔獣のせいで断念した。計画責任者や陣頭指揮者の現場での事故死もあったっけ。

 だからラティエラから南洋へは大森林を大きく迂回しなくちゃならんのだがそれはまあいい。

 肝心なのはだ。

「そん時に二人の側には誰かいたのか。俺のような煌士や護衛として雇われた猟兵は」

 ザシャはそんな人はいないと言ってたがあまり信じてない。

 なぜならザシャの両親に落とし子としての才能はなかった。人間、誰しも煌素を扱える素養を持っているがそいつを自在に扱えるかどうかは別の話だ。

 なのに危険と知られている場所にいざという時の自衛能力を持たない人間がのこのこと入り込んで餌になりにいくなんて自殺志願者でもなければないと思う。

 誰かを側に置くはずだ。

「いたよ」

「そうかい」

「そこのアホたれには伝えてない。伝えたらどう突っ走るか予測出来なかったからね。あたしがいないと言ったら信じ込んだよアホたれだろ」

「アホたれなのは同意だが、それはそれで良いアホたれなんじゃないのか。あんたを信頼してんだろ」

「若いのに一端の口利くじゃないか。アホたれにも見習ってほしいもんだ」

「で、そこにいたのは誰だ」

「イオニア猟兵団団長。ヘルダルフ・アレクセイって男さ」

次回予告


カナタはザシャに夜のラティエラを案内される。

酒池肉林的な展開は果たして繰り広げられるのか。

果たして彼らは義兄弟になってしまうのか。

酔っぱらった勢いでやっちまうのか。

どうなってしまうのか⁉


後書きってこんな感じでいいのかな。

20000文字以内って多すぎでは。

後書きっていうかすっごい簡単な嘘予告になっちゃってますが。

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