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 相変わらずも自分自身のことだったら動じないやつで助かるよお前さん。

 けどもうちょっと驚いたりしてくれるとこちらとしても助けがいがあるんだけどな。

 抱えた重みはハルの重さ。手放さんように気張れよ俺などと思うのは色のついた話ではなく、単純に前に抱えたときよりも重くなっているからだ。

 しっかり肥えやがって、幸せか。いいことだもっと肥えろ。そしてレイに白い目で見られるがいい。

 けれどもしかし、俺らを支えてくれる頑丈とお墨付きの縄にとっては不幸極まりないことで、ただでさえ重たい俺たちに付き合ってられませんわとばかりに手をお離しなられた。

 自然、放り投げられる俺とハル。

「あーっ!」

「ちょっとー!」

 地表に落下すれば俺とハルのぺちゃんこになった人形の穴が出来る。というのはギャグな話できっとグロテスクに肉片が散らばるだけだろうな。もっとひどいかもしれない。

 ただ縄さまもそこまで無慈悲ではなかったようで俺たちは崖際の方にうまいこと放り出された。

 ごろごろごろーっと転がる俺にハルの柔みを味わう余裕はなかった。

 文字通り転がる視界の端に閃く白刃の煌めきが掠めていたからだ。

 無理矢理動きを止めてそのまま跳ね上がる。

 俺たちが転がるだろう先ではラニーがあの凶悪な短刀を振り下ろし地面に突き刺していた。

 着地。

 距離を離して向かい合う俺とラニー。

 その目玉はどんよりと淀んでいてあいつらしくないにも程がある。両手には俺を突き刺した短刀がぶらさがっている。

 ちょっと背中がむずむずしてきた。

「レイは?」

「ラニーさんと一緒でないということは、最悪あの炎の中に……!!」

 あの炎の中。

 ラニーの背後。口の端から地を吐き出しながら憎々しげに俺を、いや、これはハルか。ハルを睨み付けるヘルダルフ。

 さらにその後ろ。吼えたけるヴィルヴィスらと応戦するヘルダルフの部下たちが盛大にやりあうどんぱちの音に燃え広がる炎。

 結論。このままあの中にぶっこむ。それが俺の下した決断。

 けれどそれを阻止したのはラニーだ。

 俺の知るあいつなら考えられない走力で俺たちに迫ってきやがった。なんだよそれ。ずっこいだろう。

 や、どちらかといえば俺自身もずっこい側だから人のこと言えねーわ。

 蹴り飛ばされる。その威力もまあ洒落にならん。受けた右腕の肉をぶちやぶって骨まで響いてきた。

「これはあれか。聖樹さまの加護マシマシってやつか」

 ここは聖樹のお膝元どころか聖樹の体内。その胎だ。加護とやらも最大限に放射されまくっているだろうよ。

 その血を色濃く受け継いだ母親を持つというラニーだ。あいつの血もそれなりに良い物なのかもしれん。今この状況じゃあ嬉しくない情報だがな。

「の、割にはヘルダルフは柔いように見えるな」

「あの人、本当に聖樹の加護を受けてないんです。あの人の過去を断片的にですが見ました。間違いないです」

 ちらりとハルを横目で見る。殴られた傷跡。やったのはヘルダルフと決めつけて、必ず同じ場所に倍々算で仕返しすると決めた。

 せっかく高い顔面偏差値に生まれついたというのに活用する場所がそんなにないからかまるで頓着していない。まあ、後で腫れて不細工な面になったら遠慮なく笑ってやろう。

 デリカシーがどうとか気にする必要はない。だって俺の方がひどく不細工な面になるだろうしな。

「それにしても初めてやつに好感持ったちゃったわー。今の自分をどうにかしようと足掻いてんだろ。弱者の思考。感心するね」

「感心って……」

 ハルから賛同を得られなかったが構わず続ける。

 尊大で、己に自信を持って、自分以外を駒と扱う強者と気取るみっともない男に聞こえるように。

「その為に娘まで使うなんてまったくもってなりふり構ってられないって感じだな。いやいやみっともなくなんてないぞ。弱者なら当たり前の思考だ。当然すぎて意外でもないんでもない。仮にあんたの舞台でも作ったら感動の涙の溺水と失笑の渦での悶死のどっちが多いんだろうな、なあ、自称、王さま。あ、弱虫毛虫の王さまか」

 今度はハルも何も言わなかった。これ、露骨すぎる挑発だから。

 俺を射殺しそうな視線。けどな、お前の回りはそれでなんとかなったのかもしれないが、俺は違う。

「おあいにく様だが、お前に睨まれたぐらいで竦むトゥルットゥルの心臓してねんだわ」

「そうですよ。この人、ムダ毛が多い上に処理もしないので毛根からもう一本ムダ毛が生える強心臓してますよ」

 声援ありがとう。感動の涙で溺水しそうだよ。

「生きていたのかなんて言葉は吐くんじゃないぞ。これはお前の業界じゃあ割とある話だろ。王さまの権威失墜しちゃうぞ。ああ、もともとそんなもんないか。一人きりの王国で、回りにお気に入りのお人形さん侍らして一人きりのお芝居やるやつだしな」

「……やはり殺しておくべきだった」

 なんてつまらない言葉だ。人間、やはりユーモアを失ってはいかんのだという良い実例だな。

「で、お前これからどうすんだ。この上にある大樹の実がまだ欲しいってんなら勝手に行けよ。お前が何を感じるのかはお前の自由だ」

 俺のムカつくことさえしなければ。

 指差す。

「この上にあるらしいぜ。お前の欲しい物。弱者からの脱却。本当の王さまになるための希望の果実」

「何を考えている」

「知りたいならてめえのご立派なおつむで考えな。俺はお前が侍らすやつらと違ってちゃんとした人間だからな」

 ヘルダルフをムカつかせることには成功しているようだが、冷静さを失わせるほどではない、と。

 俺が何を考えているのかなんて突き詰めればやつにとってはどうでもいいことだろうから。

 この先に罠があろうがなかろうが、やつは向かわなければ望んだ結果を得られない。

 ここで俺を排除するか。それはリスクが大きい。少なくとも徒手格闘では制圧するのに時間がかかる。頼みのやつの部下どもはヴィルヴィスの対処に手一杯。

 思考する時間は短く、けれど熟考の末にヘルダルフは憎々しげに血を吐き捨てて上へと向かった。

 俺にとってはヘルダルフが一人で上に向かうということが何より重要なのだから。

 そんでレイを探しに行こうかねとはならないのがままならないところだ。ラニーがいた。

 あいつは俺たちの邪魔をする。あわよくば始末する役目ってところか。

 なんて考えがまとまらないうちにラニーがこちら目掛けて駆けてきた。落ち着きがないのは操られても変わりがないようで。

 今度は最初に襲って来た時のように軽く落としてやれはしない。身体能力もそうだが肉体的頑強さも上がっているようでまともに相手するのが面倒だと思わせる。

 舌打ちと一緒に迎撃する体勢に入った時、俺の前に出てきたやつがいた。

 両手を広げたハルだ。

「止まってください、ラニーさん!」

 びくんと意志が肉体に逆らうようにしてたたらを踏むラニー。ぎくしゃくと上半身は勢いそのままに突っ込んでくるのに下半身はそれを止めようとして結果的に不気味な操り人形めいた挙措になった。

 巫女様の威光はいまだに有効のようだ。ちょっとラニーを見直した。あれだけ巫女様巫女様とやかましかったヤツがあっさり憎い敵の軍門に下ったのは引っ掛かるところがあったからな。

「ラニーさん目を覚ましてください!」

 そう言って気忙しげにラニーに駆け寄ろうとするハルを慌てて引き寄せた。

 なぜってラニーの今は鉄のような腕がハルの胸があった部分を貫いたからだ。

 あの素晴らしい形をしたお胸さまに危害を加えるのは許さない。世界と人類の損失に他ならん。

 目を白黒させているハルを押し退けて前に立つ。

 頭を抑えて髪を振り乱すわ息は荒ぶっているわ淀んだ目を血走らせてギョロつかせているわ喉の奥から獣めいた唸り声出すわついでに口の端の泡を散らしているわで俺なら絶対に近づかない。

 逆にこれでよく近寄ろうって気になったなハルは。よほど頭がお天気なのかそれともこんな様で自分は傷つけないと信頼しているのか。後者であって欲しいところだ。

 そうなのだ。

 ハルの声が届いたからといって、それでヘルダルフの呪縛が解けた訳じゃない。状態としては違う命令のぶつかり合いで不安定になってるって感じだ。

「おいハル。お前、レイを探しに行けるか」

「それは……もちろん、はい」

「じゃあ頼むわ」

「いいんですか?」

「頼むつったろ」

「……! 分かりました! 二人とも無事で」

 無事に済むかどうかはそれこそ女神さまのみぞ知るってところじゃないか。

 ラニーの放った蹴り。まだ手に痺れが残っている。腕力も同じようなもんだろう。

 それを躊躇なくハルに向けて打ったところを見るに、ハルにこいつの相手を任せるのは無理だ。

 だったら俺がするだけの話。適材適所。ハルならレイを命がけで探すだろうよ。なんとなくだけどな。

 というわけで、俺は俺の仕事をさせていただきましょう。一応、こいつも民間人なわけだしな。

 ラニーとの会話を思い出す。

 全く、あの言葉はこれを予期していたんじゃあるまいなと不思議に思うが、紛れもなく本人から飛び出た言葉。だったらまあその通りにしてやるさ。

 拳を打ち合わす。

 俺の敵意に敏感に反応したラニーが獣みたいにその場から最小の予備動作でまさに襲いかかってきた。

 まずは力比べといきますか。

「ふんごっ……!」

 お、重てぇ……。

 小柄なラニーのどこにそんな膂力が眠っていたのか。押さえ込もうとする俺。上からの圧力を力ずくで押し退けようとするラニー。

 体勢では俺の方が有利なはずなのに圧倒出来ない。これだから煌力ってのは見た目で判断出来ないんだわ。小兵が平気で大兵を圧倒する場合が多発するからな。

 ただまあ相手は幸いなことに人間の形をしてくれている。

 なにより、単純な力押しでいいようにされるような弱者の生き方なんてしていない。

 弱者には戦う術が必要で、だから技を身に付けるのだ。

 力を緩めるとラニーの体が上方に伸びる。両手はラニーの左手首を取りながら振り上げている。大事なのは足さばき。腕力ではなく回転で。そのまま振り下ろす。

「!?」

 ズダンと音をたててラニーが背中から地面に落ちた。喉の奥からくぐもった悲鳴が聞こえてきた。

 しかしまあ体力も耐久力も底上げされているのかこの程度では音を上げるはずもなく、再び暴れだそうとしていた。

 けどいいのかラニー、俺はまだお前の手を離したわけじゃないんだぜ。

 飛び跳ねて放り出して再び落とし、跳ね起きて投げ出されては再び落とし、決して自由にさせてやらない。いいのかお前そんな様で。繋がれたまんまで。

 腹に足を落として身動きとれないようにする。

「痛いか、苦しいか、お前がそのままならずっと繰り返し続けてやれるぞ」

 こいつは言っていた。

 自由が好きだと。自分以外の何者にも自分を好きにされたくないと。

「あんなこと言ってた割にあっさり言いなりになりやがって情けない。反骨心はどこ行った」

 結構、感心してたんだけどな。

 一人で猟兵団追っかけて、頼る者もなくかといって自らの力もなく、それでも狙い続けた根性には。

「やっぱりあれかね。血の繋がった父親には逆らえないってことだかね」

 おさえつけながら耳元でいってやると目玉が焦点を結び、ギョロりと俺を捉えた。憎々しげに睨み付けてきやがる。

 喉の奥から耳障りな呻き声が漏れてそれはそれは敵意溢れて思わず笑ってしまうほどだった。

「……ダマ……レ」

「舌を動かすのも声を出すのも俺の自由だ。けどお前にも俺を黙らせる自由があんだぜ」

 そう言ってやると再び暴れ出す。

「そのままじゃあどう足掻いたってどうにも出来ねぇぞ。言いなりの駒のままじゃあな」

「ウルサイ」

「お前の境遇には同情するけどよ。それをバネにして今までのてめえが出来上がったんだろ。自由が好きなんだろ。言いなりのお人形さんのままか。復讐はどこいった小娘」

 抵抗が小さくなった。それは諦めたからではない。

「それともなにかもしかしてお前あれか。親父に認められたいとかそういうのか」

 見えてる地雷を踏み抜いた。むしろ暴発させた。

 瞳にしっかりとした力が宿る。お前ぶっ殺すぞという単純にして明快な意志表明だ。

 手首は掴まれたまま、身体は地に伏している。その状態で何が出来る。何が出来そうだ。

「小娘舐めんな自信過剰野郎」

 右手で腰に納めていたナイフを取り出して本気で切りつけてきやがった。

 手を離さざるをえなかった。そのままにしていたら俺の腕がすっぱり別れていただろう。

「本気で切りつけるやつがあるか馬鹿野郎!」

「約束したくせに本気でぶん殴らないやつがいるか馬鹿野郎!」

 え、なに、こいつ正気に戻ったんじゃないの。なのになんで大真剣で俺を切り殺そうとしてんのこいつ。

「またあたしがあんな風になったら有無を言わさず殴り倒してくれちゃっていいからね」

 確かにそう言ってたけど!

「本気で小娘殴る馬鹿がいるか馬鹿野郎!」

「ふん、あたしまだ全然止まんないから! なんかすっごいみなぎってるし今ならあんただってぶちのめせるかもね馬鹿野郎!」

「正気に戻ったんなら止まれよ馬鹿野郎!」

「心と身体は別ものってこと馬鹿野郎!」

 なんだそりゃ!

 なんとも醜い馬鹿野郎の合唱はもう続かなかった。

 というよりもしゃべる余裕が現在進行系で切り取られつつある。

 二刀になったナイフ。ラニーを知ってる身からしたら考えられない腕力に、俺と比べてもそう遜色ない速さ、そして人間の体の使い方。ラニーがど素人で本当によかった。

 真っ正直に致命を狙ってきてくれるから、受けてそらしていなしてこなすのも不可能じゃない。

「防いでばっかり!」

 うっさいなぁ!

 小娘を殴るのだって勇気がいるんだぞ! 世情とか世論とか気にしないといけない立場と身分なの俺は!

「このままだとあんたあたしに殺されちゃうよ!」

「うっせえぞ!」

 ラニーの言葉の通り。既にラニーの速さは俺とほとんど同じか凌ぐか程度まで成長している。

 だけどまあ残念なことに急激すぎる成長に体の方が間に合っていない。振るわれる二刀に混じる血の霧はラニーのものだ。

 身体の内側から一秒ごとに壊れていっている。

 時間はない。

「覚悟決めろ煌士様だろ! 小娘一人ぐらい優しくぶん殴って見せろ! あたしにこのまま恥かかせるつもりか! あのクソ野郎に操られたまんまなんて冗談じゃない! このまんまなら死んだ方がマシなんだ! 舌噛ませろ馬鹿!」

 あー! もう! この小娘が!

 きゃんきゃんきゃんきゃんと吠えたい盛りの子犬よりも喧しいったらありゃしない。

 上等だよこの野郎。覚悟? 決めたらいいんだろうがよ。

「お前も覚悟決めろ。ちょいとひどいことになるぞ」

「え、マヂで。痛いの好きじゃないんだけど!」

 怪我をさせずに相手を制圧する、つまるところ殺さずに意識を奪うなんて相当な自力の差がないと出来ない。

 よくあるような相手の後頭部を殴り付けて意識を奪うとかあるやつも脳みそごと頭が吹き飛ぶか割れるかのどちらかだろう。

 腕力にもの言わせるとそうなる。そして俺は腕力にもの言わせるのが好きだった。

 半身になる。右半身だけがラニーに見えるように。両手の人差し指と中指を揃え、薬指と小指は折り畳んで剣指を象る。

「なにするつもりかしんないけど失敗しないでよ!」

「巫女さまにでも祈ってたらいいんじゃないか」

「ふぎー! 巫女さまハルさま女神さま! どうか私めをお助けくださいますようお願い……します!」

 ははん。ハルも女神と並べられるなんざ偉くなったもんだ。俺が言ったら嫌な顔して白い目を向けてくるのだろうがね。

 ラニーが突っ込んでくる。その直前に俺の方から踏み込んだ。

 戸惑いの感情は一瞬で、しかしそれを振り切って飛びかかってくる。

 初動を潰す。

 この体勢の俺を真っ向から一撃でぶち殺すのなら狙いは頭しかないだろう。肩に刺して毒を流し込んだって、すぐに昏倒するわけでもないし。

 短刀を振り上げ振り下ろすのは無駄な動作で、加えてラニーの腕の長さもある。

 一瞬で縮まる俺とラニーの距離もある。薙いで払うのも牽制としては有用であるが間に合うかと逡巡し、その選択肢も消え失せる。

 自然、ラニーの取れる行動はこれになる。突く。決まれば一撃。だけどそれは外せば終わりの一撃だ。

 博打前の小細工おしまい。一か八かなんて要素は出来るだけ削るに限る。けれどやっぱり最後は持って生まれた運なわけで。俺が速いかお前が速いか。そして俺は自分の運の良さなど端から信じていないし信じられるものじゃない。

 だけどな。

 迫る白刃。その切っ先が俺に触れる、その直前に。

「ラニーさん!」

 横合いからかかる鋭い制止の声。その主が誰かだなんて確かめない。ラニーが身を硬直させる声の持ち主なんて一人しかいない。

 俺には神さまになれなかった怪物と呼ばれるガキんちょ抱えた時女神さまの目玉持たされたたまに面倒くさい魔女が味方してくれんのさ。

 この字面ヤバくね。追い込まれたら災害起こしてなんもかんもなかったことにしそうな破壊力。

 だから賭けは俺の勝ち。

 剣指の先を軽くラニーの額に振り下ろす。

 指先に力を集中させ、相手の額に煌力を徹し、身体に張り巡らされた煌力の脈を破壊する。格上の相手には通用しなくて無意味だし、俺の技の精度もどちゃくそ甘いしせいぜいが軽く乱す程度だろう。

 そもそもこんな繊細な技を扱える資質は持ち合わせていないがラニー相手ならおそらくは。

 ラニーの身体が膝をつく。それも酔っぱらいめいた不安定さで。

 うまくいったかどうか。

 俺を見上げるラニーの視線には未だに殺意が濁っていたが、それも自然と溶けて消えていった。

 それどころではなくなったからだ。

 目がぐるぐると回りだし、膝をつくこともできなくなってうつぶせになってぶっ倒れた。

 なんとか立ち上がろうともがくさまは陸に打ち上げられた魚を思わせる。

「ちょ、あん、た。……なにした?」

「お前の煌力の流れを乱したっていやわかるか。お前がどんだけすげえ聖樹の加護貰ったって生まれたてのベイビーだからな。力の扱い方とかほんと生まれたてのベイビーでまるでなっちゃないわけで、こうなるんじゃないかと思ったよ」

「冷静に解説してる場合ですか。ラニーさん大丈夫ですか!?」

「近づかない方がいいぞ」

 無理矢理止めた。被害を被るのがハルだけなら止めなかったが一応、レーヤダーナを抱えているからな。

 俺の頼みを聞き入れ見事に成し遂げたその礼というか報酬というか。

「はあ? カナタさんいつからそんな冷血な人に……!」

 ハルが怒りん坊になる前に俺は感情を捨て去った人間の仮面を被り、ラニーを指差した。

 お前の誰かに関わることなら感情を乱す性格は人として好ましいことだと思ってるよ。だけど今回、俺はむしろ感謝されてもいいだろう。

 なぜって?

「ゴパァッ!」

 ラニーの口から滝のように流れ出る規制せざるをえない物体が、ビチャビチャ音を立てて流れ出る。

 まるで勢いづいた土石流のように止めどないそれ。

 一歩踏み出しかけたハルの足が止まった。

 言ったろ。ひどいことになるって。

 ゲロイン、誕生。

 流石に口にはしなかった。言葉を鎖すのも浮き世の情けというものなのだ。目を閉じて耳を塞ぐのが俺に出来る精一杯だった。

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