エピローグ〜英雄の丘の風に抱かれて〜
英雄の丘、石碑の前に、グレイは寝転がっていた。現在英雄の丘には二つの新しい石碑が立っている。一つには歴代の英雄の名と、感謝の意が刻まれている。そこには新しくバルドの名前も彫られていた。
そしてもう一つにはこう刻まれている。
——グレイの真の友、ロイ ここに眠る——
その石碑の前には、可愛らしい黄色の小さな花が置かれている。もう秋になってずいぶんと経つが、その丘には多くの花がまだまだ命を輝かせている。日に日に冷たく、強くなる風をその身で受け流しながら。命を受け継いでいくために。
グレイは両腕を枕にしながら空を仰ぎ見ていた。少し紅く染まった雲が、ゆっくりと形を自由に変えながら気持ち良さそうに泳いでいる。それらは時に植物の、時にヒトの形となり、奔放に命を、物語を形作る。みているだけで、少し胸の奥が熱くなったあと、なんだか芯まで冷えてくる。
あれから色んなことがあった。あれからよく泣くようになった。それらを今、一つ一つ噛みしめるのだ。それらは苦い。顔をしかめずにはいられない。それらは甘い。顔をほころばせずにはいられない。少し、今でもほんの少しだけ泣きたくなってくる。
戦争は終わった。しかし、自分の戦いに意味があったのか、それは分からない。多分、その答えが出るのはまだ随分と先のことなんだろう。やりたいこと、やるべきことは数えきれないほどたくさんある。
そこへ息を切らせながらエリィが走ってやってきた。グレイの横に、肩まで伸びた髪をかきあげながら座る。エリィの髪は美しい黒髪となった。
「グレイったらまたここに来ていたのね?」
そういったエリィの顔は夕日を受けながら美しく照らされていた。それをみてグレイも優しく微笑んだ。愛おしい。いつまでも、なんてありきたりで、意味のよく分からない言葉を使うつもりはない。ただ、自分が生きている限りは、護りたいと思う。今度こそ、手放したくないと思える。
「そんなに仲が良かったの? その……、ロイって人と……」
エリィは石碑を見つめながら呟くようにそう言った。グレイが少し寂しがるように眉を寄せあげる。これで良かったのかもしれない。それでも自分は、自分だけは忘れない、あの命の輝きを。
「ああ、多分もうこいつほど仲良くなれる友達には会えないだろうな……。大切な、唯一無二の……」
ふぅん、とエリィは少し興味があるようにいってみせた。そうして少し沈黙の後、エリィは先に村へと帰っていった。
もう少ししたら出かけよう。いろんな所へ行ってみたい。いろんな人に出会いたい。いろんな人と話したい。いろんな人に謝りたい。たくさんの人を救いたい。でももう少しの間だけ、今は目の前の思い出を抱いていたい。
グレイは大きくあくびをした。その瞬間強い寒風がグレイの頬を撫でる。小さな身震いを一つした。
もう冬だ。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
正直途中で完結を投げかけましたが、なんとかここまでたどり着くことができました。
これからの作品の参考としたいので、何かアドバイスや感想など、一言でも良いのでいただければなと思っています。
それでは、重ねてですが、ありがとうございました。