プロローグ
革靴で堅い石を叩く乾いた音が、見るものを吸い込んでしまうような闇の中に吸い込まれていく。
男はそんな暗闇の中を怯むことなく粗い造りの石段を降りて行く。左手に角灯を持ち、右手で岩の壁を確認しながら。
どれほど脚を動かし続けただろうか、男は巨大な石造りの扉の前にたどり着いた。辺りは気味が悪いくらい静かで、男の荒い息遣いだけが響いている。
ランプを下に置くと、男は迷うことなく目の前の扉に手を押し当て、渾身の力で押した。大人十人がかりで押しても開きそうもないような巨大な扉が、不気味な音をたてて少しずつ開き始めた。
大人一人分の隙間ができると、男はそこに体をねじ込む。
中に入ると、先ほどの巨大な扉に比例するかのような広間が目の前に広がった。広間は薄暗く全貌は分からないが、ただその広さだけは伝わる。
所々に突き出ている柱は不思議な、淡い緑色の光を放っている。柱自体は単純な造りだが、その大きさは思わず目を大きくさせるものであった。
目を凝らすと奥に人影が見える。男は一歩ずつ慎重に歩を進め、人影の前で足を止めた。
遠くで見たときは分からなかったが、人影は見上げるほど大きく、豪華な造りの玉座に座り、頬杖をついている。
「あなたが……なのか?」
男は一度唾を飲み込むと、黒い人影に向かって口を開いた。
「だとしたらなんだというのだ?」
荘厳な声が広がる。
「あなたがそうならば、わたしは……」
言い終わると、広間の中に雷が落ちたような衝撃と白い光、そして轟音が響き渡った。
後には静けさだけが残っていた。