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バニラパンチ  作者: うみこん(宇宙みかんコンピューター)
最終章 世界
91/124

第91話 ニーナの計画

「みんな集まって」


 ニーナのそんな声が聞こえてくると乗組員達が続々と集まってきた。


「なんだなんだ? この忙しいときに~」


 ロンド達海賊団も集結し、フォックスがいつものように愚痴を吐いた。


「みんなに聞いてほしいことがある」


 ニーナはそう呟いて話し始めた。


「私たちはこれまで着実に仲間を増やして戦力を強化してきた。おかげである程度は敵に対応できるようになった。でもサイファーを倒すにはまだまだ。だからここで一気に仲間を増やすためにあの作戦を実行することにした」


「なんだ? あの作戦って」


 ピッカーが聞いた。


「洗脳解除……」


 クリスが呟いた。


「そう。クリスにはこれまで数か月の間サイファーの洗脳能力について調べてもらっていた。そしてその洗脳を一時的に解く方法が分かった」


「なんだと!? 本当か? クリス」


 ロンドが聞いた。


「本当だよ。彼の洗脳能力は彼の杖から放たれる目に見えないエネルギー波によって引き起こされる。そしてそのエネルギー波と共鳴する特殊な指輪を付けている人間にその効果を及ぼす。だからこれを作ったの」


 クリスはそう言って机の上に全長50センチほどの機械を取り出して見せた。


「これはサイファーの出すエネルギー波と逆位相のエネルギー波を発生させる機械。それによって彼の洗脳を打ち消すことができる」


「よく分からんがすごいじゃないか! じゃあ早く使ってくれ!」


 フォックスが言った。


「でもそう簡単にはいかないの。サイファーの出すエネルギーは途轍もなく大きい。いまここでこの機械を起動した所で彼の力を打ち消せるわけじゃない」


「なぁんだ……。役立たずじゃないか」


「最後まで聞いて」


 ニーナが言った。


「いくらエネルギーが強いといっても所詮はただの波。障害物があれば確実に波は減衰する。だからサイファーが城に居ると仮定して、一番エネルギー波が減衰する所を調べたの。それがここ」


 クリスはモニターに表示された地図を指さした。


「おい、ここって」


「セントラルシティのど真ん中じゃないか!」


「一番ビルも人もが密集している地域だから波も減衰しやすい」


「まさかこんな所で何かやろうっていう訳じゃないよな? 一番見回りも人通りも多い場所だ! 俺たちは指名手配されてるんだぞ!? こんなのすぐに捕まってしまうに決まってる! 俺はぜ~ったい行かないからな!!」


 フォックスが叫んだ。


「本当は地下の方がいいんだけど。地下よりはましでしょ?」


 クリスが笑みを浮かべながら言った。


「うーうーん……。そうだけど……そうだけどだよ!!」


「とにかくこの場所にどうにかして洗脳された学園の生徒たちを集めて、解放する。それが今回の計画なの」


 クリスが言った。


「この場所に一番強力な逆位相波を送るには、目標ポイントを囲む5つのビルの屋上それぞれに装置を設置する必要がある。ここは海賊団に任せてもいい?」


 ニーナが聞いた。


「おう。任せとけ。やってやる」


 ロンドが言うと、フォックスは何か言いたそうに悶えたが、結局何も言わずに下がっていた。


「アルル、ルアル。あなた達には敵の内部に潜入して生徒たちを誘導する役をやって欲しい」


「うん! 任せて! 潜入は得意だからね」


「ニーナ、あなたはどうするの?」


 アルルが聞いた。


「私はおとりになる」


    ◇


 そして時は経ち、作戦決行当日。


 アルルとルアルは敵の作戦本部であるビルに忍び込み、中で敵の様子を伺っていた。


「人がいっぱい居るよ~……。今出て行ったら絶対に掴まっちゃう」


 2人はそのまま隠れていると、1人の大男が足音を鳴らしながら2人の元へと近づいて来た。


「よし、ルアル。あいつに化けるよ」


 アルルが言った。


「そ、そんな簡単に決めていいの? みんなを誘導しないといけないから一番偉い人じゃないと……」


「大丈夫よ。大男あるある。大抵偉いっていうのがあるでしょ?」


「知らないよそんなあるある……」


「いいから私に任せて」


 アルルはそう言いながら突然大男の前に飛び出して言った。


「はい、スト~ップ!」


 男はそう言われると慌てて足を止めて静止した。


「な、なんだお前は!?」


「今から抜き打ちのボディチェックを行います。じっとしているように」


 アルルはそう言いながら男のポケットを隈なく確認していく。


 男は動揺しながらも素直にアルルに従った。


「おや、これは何かね」


 アルルはそう言って小さな白い球を男に見せた。


「な、なんだ? 知らないぞ。そんなの俺のものじゃない」


「君のポケットに入っていたんだ! ちゃんと確認して! ほら、匂いを嗅ぎたまえ!」


 アルルがその白い球を突き出すと、男は言われた通りにその匂いを嗅いでみた。


「ほら! どうだね」


「な、なんだか……甘い……香りが……」


 男はそう言いながらだんだんと目がうつろになっていき、そのまま倒れてしまった。


「な、なにが起きたのお姉ちゃん」


 ルアルはそう言いながら物陰から出てきた。


「これぞ忍法、眠眠の術だよ」


 アルルは自慢げに言ったがルアルはあまり納得していないようだった。


「なんか忍者っぽくない」


「いいから! 早くこの男を隠さなきゃ」


 2人は男を抱えて物陰に隠すと、アルルの上にルアルが肩車の状態で乗っかった。


「じゃあ行くよ。忍法、変化の術!」


 アルルがそう唱えると、2人の体の周りを白い煙が纏い、煙が消えた頃には2人は肩車をした状態のまま大男の姿に変わっていた。


 大男へと変身した2人はそのまま廊下を進んで広間へと出ていった。


「これからどうするの? お姉ちゃん」


 ルアルが聞いた。


「とにかく偉そうにして。そして司令室に向かうの」


 ルアルは言われた通り偉そうに肩を揺らしながら歩いた。


 下でルアルを支えるアルルは一生懸命足を開いてガニ股で歩いた。


 しばらく歩いていると、分厚いジャケットを着たいかにも指令官といった人物が前から歩いてきた。


「あいつが狙いよ。とりあえずあの男に何か命令してみて」


 アルルは言った。


「で、でもあの人すごく偉そうだよ? こっちの方が下っ端だったらどうするの?」


「こっちの方が体が大きいんだから、こっちの方が偉いに決まってるじゃない。物は試しよ。自信をもって。さあ、言って」


 2人は男に近づいてルアルが話しかけた。


「おい、お前! 焼きそばパンを買ってこい。10秒以内でな」


 男はそう言われた瞬間、固まったまま驚いた表情でルアルの方を見てきた。


「や、やばいよお姉ちゃん!」


 ルアルは小声で助けを求めた。


「いいから続けて!」


 アルルにそう言われ、ルアルは咳ばらいをするともう一度続けた。


「聞こえなかったのか? 焼きそばパン! 10秒だ!!」


 ルアルは出来るだけ高圧的な表情と声でもう一度言ってみた。


 すると男は突然思い切りアルルの足を踏みつけてきた。


「いっっっっ!!!!」


 アルルは必死に声を抑えながらも飛び上がって痛がった。


「貴様、誰に向かって口を聞いているかわかってるのか?」


 男はそう言ってルアル達に銃を向けてきた。


「お、お姉ちゃん……。やっぱりやばいよこれ」


 ルアルは小声でアルルに助けを求めたがアルルはそれどころではなかった。


「俺は今ここでお前を殺してやってもいいんだぞ? 俺はこの司令部で一番偉い男だ。そして一番下っ端なのはお前だ。その意味が分かるか? この場でお前を殺したとしても俺は咎める人間はいないってことだ」


「なんでっこいつはっこんな図体してて一番下っ端なのっ! 下っ端なら下っ端らしい身長にしときなさいよ!」


 アルルは小声で叫んだ。


「あーあー。ごめん。ちょっと人間違いをしたんだ。悪かったよ」


 ルアルはそう言ってごまかそうとするが相手は本気で怒っており、その怒りはなかなか収まりそうにはなかった。


「いいか? 今すぐ土下座して俺の怒りを沈めないと、お前は死ぬぞ」


 男はそう言って銃口をルアルの胸に押し付けた。


「怒ってるのはこっちもだっての! 目に物を見せてやるんだから」


 アルルはそう言うと、2人は分裂して変化の術を解いた。


「な、なんだ貴様ら!? どうなってるんだ!?」


 突然分裂した2人に男が驚いたのもつかの間、アルルが指を組んで忍術の体勢を取った。


「忍法、カラスの術!」


 アルルがそう唱えると突然どこからか数十羽のカラスが現れて男に襲い掛かった。


「う、うあああああああっ!! なんなんだいったい!! やめろ!! やめろおおおお!!」


 男は銃を暴発させながらも手を離してしまい、その銃をルアルが拾った。


 カラスに襲われボロボロになった男を他所目に、2人はもう一度肩車を組んで変化の体勢になった。


「今度は私が上だから。ルアルはやっぱりまだ半人前だね」


「お姉ちゃんがあんな下っ端捕まえたせいじゃん……」


 ルアルは文句を言いながらも肩車の下でアルルを支えた。


「忍法、変化の術!」


 2人は今度こそ本当にこの司令部で一番偉い男の体を手に入れ、意気揚々と司令室へと向かって行った。

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