第80話 サイファーの誕生
ウェインはその分厚い扉をいとも簡単に蹴破ると中へと入った。
「す、すごい」
彼らは部屋に入って驚いた。
その部屋は広さ自体は大したことはないが、部屋中が見たことのない機械で埋め尽くされており足の踏み場もなく、さらにはどこかでバチバチと火花を散らす音も聞こえるような状態だった。
「一体これは……どうなってんだ?」
「ここからオーブを見つけ出すのって、大変だなあ……」
彼らはそんな事を呟きながら機械をかき分け奥へと進んでいった。
するとそんな機械の山の中に1人少女がポツンと座っているのに気づいた。
少女はじっとこちらを見つめていた。
「あなた達、泥棒? それとも警察?」
少女は彼らに聞いた。
「残念ながら俺たちは警察ではない。泥棒の方だ」
ウェインが答えた。
「そう。だったら興味ないかな」
少女はそう言ってそのまま機械の上に横たわると目を閉じた。
「ほう、お前は泥棒が怖くないのか?」
「全然。だってアンナより怖いものなんてないから」
「お前はフラグメントオーブの在処を知っているか?」
「さあ。聞いたこともない」
アルルとルアルはしばらく機械の山の中を探していたが見つかる気配はない。
「その子が知らないのにここにあるなんてことあるのかな~」
そんな文句を言いながらルアルは探した。
「お前、名前何て言うんだ?」
ウェインが少女に聞いた。
「私はクリス。クリス・ブラックウォール」
少女は答えた。
すると突然彼らの背後から女の声が聞こえてきた。
「あたしのクリスに何の用だ」
入ってきたのはアンナだった。
「アンナ……」
クリスが呟いた。
「ちっ……。面倒なことになったな」
ウェインは言った。
「何の用だと聞いてるんだよ。聞こえてるか?」
アンナはウェインに近づいて言った。
「俺たちはこんなガキに興味はない。欲しいのはフラグメントオーブだ」
ウェインはそこまで言って妙な違和感を感じた。
彼は初対面のはずのその女を良く知っているような気がしたのだ。
さらには何かが内側から登ってくるような奇妙な感覚にも襲われた。
「ほう。お前達には似合わない大層な品だな。だが残念ながらここにはない。元々ここにあったオーブは何年も前に盗まれたらしい」
アンナが答えた。
「そうか。だったらもうここには用はない」
ウェインは嫌な予感がしてその場を去ろうとしたが、アンナに腕を掴まれて止められた。
「おいおいおい。あたしの屋敷に入ってタダで済むと思うか?」
ウェインはアンナの傍まで近づいて薄暗くて見えなかった彼女の顔がようやくはっきりと見えた。
ウェインはその顔に何故か見覚えがあった。
やはり俺はこの女を知っているのか……?
そんな事を考えていると、突然ウェインは叫び声を上げて頭を抑え始めた。
「うああああああああああっ!!」
アルルとルアルが彼に駆け寄る。
「どうしたの!?」
「頭が……なんでだ……」
彼は突然襲ってきた激しい頭痛に堪えながらアンナの腕を振り払った。
「ここから逃げるぞ」
ウェインはそう言ってアルルとルアルの手を引いた。
彼は必死に逃げようとしながらもアンナに止められてしまうだろうと思ったが彼女は何もしてこなかった。
それどころか彼女はその場で立ち尽くし酷く怯えた表情でウェインの事を見ていた。
「お、お前は……まさか……」
「何だ? お前は俺の事を知っているのか?」
「お前は……サイファーだ!」
アンナが言った。
「何言ってるんだ?」
「は、早くここから出ていけ!! あたしに近づくな!!」
アンナは叫んだ。
彼らは言われた通りそのまま窓から外に出た。
いまだ頭痛が続くウェインにアルルとルアルが肩を貸しながら車に戻った。
車から屋敷を見ていると、だんだんと濃い霧が建物を包み込み、そして次の瞬間には建物が完全に消えていた。
「屋敷が……無くなった……」
「彼女はあんたに怯えてた。なんで?」
アルルがウェインに聞いた。
「そんなこと俺が知るか!! 早く車を出してくれ!!」
ウェインは頭を抑えたまま後部座席で横たわった。
車は自動運転でアウトサイドへの壁の傍まで戻った。
ウェインの体調は次第に酷くなっていき、アルルとルアルは彼を抱えて拠点へと戻った。
丁度拠点に来ていたリリィがウェインを運ぶのを手伝ってくれた。
「うあああああああああああああっ!!」
ウェインは自室に戻ったがしばらく叫び続けた。
看病しようとアルル達が近づくとウェインは叫んだ。
「俺に近づくなァっ!!!!」
仕方がないのでアルル達は部屋の扉の隙間からそっと彼の事を見守った。
「お姉ちゃん、大丈夫なのかな……?」
ルアルは心配そうに言った。
「きっと大丈夫だよ。ウェインが死ぬわけないじゃん」
リリィはそう答えたが、彼女は不安そうな表情をしていた。
しばらく彼らが見ていると、ウェインは叫びと共に白く強い光を放ち始めた。
「ウェイン!」
流石に心配し始めたリリィが近づこうとすると彼は止めた。
「近づくなと言っている……っ!! 力が!! 力が込み上げてくるんだ!!」
そして彼はしばらく叫び続けたが、ある所でその声はピタリと止んだ。
「ど、どうなったの……?」
彼は体から光を放ったまま立ち上がった。
そして呟いた。
「思い……出したぞ……。ぼんやりとだが確かに思い出した……」
彼はそんな事を言ってアルル達の居る部屋の出口まで歩いてくる。
「ウェイン……」
そんな風に呼びかける彼女たちを無視して彼は拠点から出ていこうとした。
「どこに行くの?」
アルルが聞いた。
彼は扉に手を掛けたまま答えた。
「俺の力が覚醒した。だが覚醒にはまだ早すぎた。制御するには魔剣の力が必要だ。それを見つけてくる」
「待って、ウェイン。私達も行く」
アルルが言ったが彼は振り返って答えた。
「お前らなどただの足手まといだ。俺の邪魔をするな。それに俺の名前はウェインなんかじゃない」
「じゃあ何なの?」
「俺の名前はサイファーだ」
「でもサイファーは死んだはずじゃ……」
「ああ死んださ。俺はサイファーの息子であり、あいつの生まれ変わりだ。たった今それを思い出した」
彼はそう言って拠点を出ていった。
◇
アルルとルアルはパン屋を出て夜空を見上げていた。
街のから人が消え、明かりも消えた今、空には満天の星空が広がっていた。
「綺麗だね」
「うん」
「この国が良くなることってあるのかな」
ルアルが呟いた。
「さあね」
「サイファーもさ、結局は自分の目的を達成しようとしてるだけだったじゃん」
「うん」
「このままずっとあいつに支配されたままなの? 彼を倒せる人はいるのかな?」
「きっと大丈夫だよ。バトルマンガあるある。悪役は必ずいつか負けるってね……」
「そんなの……分かんないよ……。だって現実はさ、バッドエンドばかりだもん……」
ルアルはそう言ってそのまま地面に横になった。




