第78話 あるある忍者
その頃、サイファーが占領した城の大広間ではアウトサイドからやって来た人間たちによって宴が行われていた。
彼らは王族や貴族たちによってセントラルから締め出されていた苦しみから解放され、皆サイファーを称えながら歌い踊りの大騒ぎだった。
「わあ~! お姉ちゃん、食べ物がいっぱいだよ!」
「そうね。よく噛んで食べなさい」
大広間に来ていたアルルとルアルは食事にありつこうとテーブルに近づいた。
だがテーブルはどこも大人たちに占領されており入る隙がない。
「ちょっと、そこの大人達。私の弟がおなかをすかせてるの。どきなさい」
アルルはテーブルを占領する大人たちに向かって言った。
「なんだ~? このガキは? お前達の子供か?」
男はテーブルに居た他の者たちに聞いたが、皆首を振った。
「残念だったな。ここにはお前達のママはいねえよ。とっとと家に帰ってミルクでも飲んでな?」
男は笑いながら言った。
「あなたね、私達を誰だと思ってるの?」
アルルはそう言ってルアルに合図をすると、2人は揃ってポーズを取った。
「私達は、サイファー様にお仕えするナンバーズの一員!」
「「あるある忍者アルルアル!!」」
2人がそう叫ぶと、辺りはしばらく静まり返った。
だがアルルは満足そうに頷いた。
「いや~今日も決まったね~」
「アッハッハッハッハ!!」
しかし突然男が大声で笑い始めた。
「おいおい。ナンバーズはよ、もう崩壊したんだよ。リリィもアダムも死んだんだ。そんなチーム存在してる意味がないだろう?」
男は言った。
「そんな! でも私達はサイファーの仲間だから!!」
アルルが叫んだ。
「おい本気で言ってるのか? サイファーがお前らみたいなガキを本気で仲間だと思ってると思うか?」
「思ってるに決まってるじゃん! だってお姉ちゃんは強いんだよ? 本当の忍術だって使えるんだから!」
ルアルが言った。
彼らがそんな言い争いをしていると、突然会場がざわざわとどよめき始めた。
会場にサイファーが入って来たのだ。
「サイファー!」
ルアルはそう叫んで彼に駆け寄った。
「サイファー! 僕たちって仲間だよね? あいつらが僕たちに食事を分けてくれないんだよ! 何とか言ってやってよ!」
そんな事をサイファーに言うルアル。
だがサイファーは明らかに不機嫌な様子だった。
それに気づいたアルルは血相を変えて駆け寄った。
「ルアル!! ダメ!」
アルルはルアルの腕を掴んで引っ張った。
「仲間……? お前らが、俺の仲間だと……?」
サイファーはそう言ってルアルの胸倉をつかんだ。
「お前みたいなガキが俺のために何ができる!! 言ってみろ!! リリィが……アダムが……エリオが死んだとき、お前たちは何かやったのか?」
「や、やめて……!! お願いっ……」
アルルはサイファーに向かって言ったが、彼女の声は彼には届かなかった。
「で、でも……あの時、僕たちを仲間に入れるって言ってくれた……」
ルアルが言った。
「まだ分からないがこのガキがァ!!!!」
サイファーはルアルを突き飛ばした。
「俺は今とんでもなく腹が立ってるんだ。なんなら今ここでお前達を殺してやってもいいぞ」
サイファーはそう言いながらルアルに近づいていく。
ルアルはあまりの恐怖に足がすくんで立ち上がることもできなかった。
「やめて!! もうやめて!!!!」
その間にアルルが入ってサイファーを止めた。
アルルはルアルに手を貸し、ルアルは立ち上がった。
「今すぐ出ていけ……殺されたくなかったらな……」
サイファーは静かに呟いた。
「分かった……」
アルルはそう言ってルアルを連れて出口に向かった。
「さようなら」
彼女は出ていく前に一言そう呟いてそのまま消えた。
「お前らもなんだ……。一体何なんだこの宴は……」
サイファーは言った。
「図に乗るなよ? 前はここから城を奪われたんだ……。戦いはまだ終わっていない。3つのオーブを全て手に入れ、絶対に崩せない牙城を築き上げるまではな」
皆はサイファーに怯えて声を出せなかった。
サイファーは近くにいた男の腕を掴むと言った。
「さっさと片付けておけ。明日もまた戦いがある」
「は、はいっ!!」
そしてサイファーはそのまま部屋を去った。
城を追い出されたアルルとルアルは一変してしまったセントラルの街を2人で歩いていた。
前日までは夜でも人や車の通りが多く賑わっていた通りも、今や動物の気配すらない。
「静かだね……」
アルルは呟いた。
「お姉ちゃん、僕お腹空いたよ……」
ルアルは言った。
「そうね……。またあそこに戻るときが来たのかもね……」
アルルはそう言ってルアルを連れてどこかへと向かった。
彼女たちはセントラルとアウトサイドを隔てる壁の前までたどり着いた。
「アウトサイドに戻るの? でもこの壁……」
ルアルは言った。
「大丈夫。私達、忍者でしょ?」
アルルはそう言ってカギ縄を取り出すとブンブンとしばらく振り回して投げ、壁の上辺にカギを引っ掛けた。
そして彼女はそのまま壁の上までロープを伝って登っていった。
「さあ、早く来て」
アルルは彼女に続いてロープを上ってくるルアルに手を伸ばし彼を引き上げた。
「どうしよう……下、なんにも見えないよ」
壁に登った彼らだが、夜の暗闇のせいでその下は何も見えない。
ルアルはそこから飛び降りるのが怖く、躊躇していた。
「何言ってるの? 降りるんじゃないよ。飛ぶんだよ」
アルルはそう言ってルアルの手を引くと、飛び上がって近くの民家の屋根の上に乗り移った。
「うわああっ!!」
そしてそのまま彼らは民家の屋根伝いにアウトサイドの街を移動していった。
「ほら、懐かしいでしょ? この感じ!」
アルルが笑って言った。
「う、うん。ずっと2人でいた頃を思い出すね」
ルアルは走りながら言った。
しばらく走った2人はアウトサイドの繁華街、レッドストリートにたどり着くと地面に降り立った。
「ここに来るのも久しぶりだね」
そう言ってアルルは街に立ち並ぶ店を覗いていく。
やはりこの辺りももぬけの殻になっており、どの店にも人の気配はなかった。
そして2人は1軒のパン屋に入った。
中は薄暗く、切れかけの電球がチカチカと点滅している。
「何もないや……」
ルアルは一通り店の中を探したが食料はほとんど持ち去られており、もうほとんど残っていなかった。
だがアルルが店の奥の倒れた棚の中に残っていたパンの欠片を見つけた。
「ほら、ルアル食べて」
アルルはその欠片をさらに2つに分けてルアルに渡した。
「これだけぇ……」
ルアルは不満そうに言った。
「贅沢言わないの」
そう言って2人は地べたに座ると小さなパンの欠片を少しずつ食べた。
「昔もこうやって一緒にパンを食べたよね」
ルアルが呟いた。
「うん……」
「サイファーは……ウェインは、前はけっこういい人だったのにな。アンナに会う前は……」
「分かってる」
アルルは寂しそうに言いながら昔の事を思い出していた。
◇
2297年。
アルルとルアルはたった2人、レッドストリートで暮らしていた。
彼女たちは両親を早くに失い、2人だけで生活していたのだ。
アルルは街で職を探していたが、まだ子供の彼女を雇ってくれる場所はほとんど無かった。
「誰がお前みたいなガキを雇うってんだい! このご時世ね、大人だって職に困ってんだよ! さっさと帰りな!」
そう言ってアルル達は追い返された。
「で、でも! ちょっと待ってください!」
アルルが叫んだが店主に容赦なく扉を閉められてしまう。
「お姉ちゃん、僕お腹空いたよ……」
食べていく手段がないアルルはお腹を空かせた弟を満足させるために定期的に盗みを働いていた。
「いい、ルアル。いまからやることは忍者ごっこだから。絶対に見つからないようにパンを盗むのよ」
「うん。分かった!」
2人はそう言って忍者の恰好をすると、パン屋の裏から侵入した。
そして2人は店のパンをいくつか袋に詰めるとそのまま逃げだした。
「お姉ちゃんこのパンおいし~! でもあんなに素早く盗めるなんてすごいね。僕は2つしか盗れなかったよ。お姉ちゃんって本当に忍者なんじゃないの~?」
「忍者を名乗ってるんだから当然でしょ?」
「でもなんでお姉ちゃんだけそんなに強いの~? 姉弟なのに。ずるーい」
「何でって当たり前よ。姉はめちゃ強い! っていうのが姉弟あるあるなんだから」
「なにそれ~?」
「いい? こういう時はなにそれ~じゃなくて、ん~、あるあるって言うのよ」
「ん~、あるある! なんかおもしろ~い」
2人はそう言って笑いながらパンを食べた。




