第75話 次の旅へ
「アラン! 私はあなたを置いて逃げない」
ニーナは逃げるどころかサイファーに近づいていく。
「ははは……。君ならそう言うと思ってたよ……。だからそのオーブに魔法を掛けた」
「オーブだとっ!?」
サイファーはニーナの方を見た。
「魔法って何? アラン」
ニーナが聞いたがアランは何も答えず、ニーナに向かって手のひらを突き出した。
すると彼女が持っていたオーブが光を放ち始めた。
「お前!! 何をした!!」
サイファーはアランに詰め寄る。
「ど、どういうこと?」
ニーナは突然輝き始めたオーブに動揺していた。
「貴様ァ!! それをやめろ!!」
手のひらを突き出して何かをしているアランにサイファーは怒り、アダムの剣を拾い上げた。
「お前らは全員死ぬんだよ!! この俺の手でなァ!!!!」
サイファーはそう言ってそのまま剣でアランの胸を刺した。
「アランっ!!!!」
ニーナはそう叫んでアランに駆け寄ろうとした。
「安心しなァ。お前もすぐに殺してやるよ」
サイファーはニーナに近寄ると彼女の腕を掴んだ。
「そのオーブを放せ!!」
オーブの輝きはさらに強さを増してニーナの体を飲み込んでいく。
「オーブは俺のものだ」
サイファーはそう言ってニーナからオーブを奪おうとした。
ニーナは覚悟を決めて目を閉じる。
だが、気付くとニーナはオーブを持ったまま全く別の場所に移動していた。
「ここは……」
そこはどこかの建物の中の一室。
ニーナは見知らぬ部屋の中で一人茫然と立ち尽くした。
「ニーナ・イェール。俺はお前をどこまでも追うぞ……」
ニーナが居なくなった後、サイファーはそう呟いた。
そしてアランの遺体を粉々になるまで破壊した。
「これでもう生き返ることもできまい」
サイファーはそう呟くと、アダムの剣を引きずりながらその場を後にした。
◇
数時間後。
ニーナはアランによって飛ばされた部屋でビビエル、ミル、リンカと合流した。
2人が連れてきたリンカは重度の怪我を負っていた。
リンカはビビエルが開発した治療ポッドに入り、その中でなんとか生命を維持している状態だ。
「これからはここを拠点にして戦う。まだサイファーにも見つかっていない」
ニーナはビビエルとミルに言った。
「戦うって言ってもどうやるのさー? 私達にはもうサイファーに対抗できる手段なんてないよ? リンカもこんなことになっちゃったし……」
ビビエルが言った。
「これがある」
ニーナは持っていたオーブを2人に見せた。
「それって!?」
ビビエルは驚いた。
「フラグメントオーブ」
「でも、それを扱える人っているの? 本当に強い魔術師じゃないと扱えないんでしょ?」
「ビビエル、どうにかできる?」
「難しい注文だなあ~。まあでも、やってみる価値はあるかも」
ビビエルはそう言ってオーブを受け取った。
「リンカちゃん……。早く元気になって」
ミルはリンカの眠る治療ポッドの傍でじっと座ってリンカの事を見ていた。
ビビエルは奥の部屋に行き、オーブを扱う方法を探し始めた。
その時、突然治療ポッドのアラームが部屋の中に鳴り響いた。
「ど、どうなってるの~?」
ミルがあたふたしていると後ろからニーナがモニターを覗いてきた。
「大丈夫。リンカの意識は戻りつつある」
「そうなんだ! よかった~」
ニーナの言葉にミルは安堵の表情を浮かべた。
「ミ……ミル……」
リンカが少しだけ目を開けて声を出した。
「リンカちゃん!! リリリリリンカちゃん!!」
ミルが叫んだ。
「喋った!! リンカちゃんが喋ったよ!!」
「分かってる。ちゃんと話を聞いてあげて」
ニーナは興奮するミルを落ち着かせる。
「はぁはぁはぁ。リンカちゃん、喋れる?」
「ハ……ヤトは……。ハヤトは無事なの?」
リンカが言った。
「ハヤトって、リンカちゃんの弟くん?」
「そう……」
「リンカ、あなたの家に何度も連絡しているけど繋がらなかった。サイファーはアウトサイドにも手を回していて、みんな避難してる」
「そんな……」
リンカは不安そうな表情を浮かべた。
「ミルの占いで分からない……?」
「ごめんね、私は会ったことのない人の居場所は占えないんだ……」
「もう1つあなたに悲しい知らせがある。こんな状態のあなたに伝えるのは辛いけど……」
「言ってください。知らないほうが辛いです」
リンカは言った。
「……アランが死んだ」
「えっ……」
リンカの顔はさらに苦しそうな表情に変わった。
「でも、安心して……。彼の魂はまだ生きてる。だから私が必ず生き返らせる」
ニーナが言った。
「そんなこと、できるの?」
ミルが聞いた。
「分からない……。でも私はあきらめたくない」
ニーナはそう言ってその場を去った。
ニーナはそのまま用意していた魔術関連の本を片っ端から読んでアランを救う方法を探した。
ミルは奥の部屋で必死に機械を組み立てているビビエルや必死にアランを救う方法を調べているニーナを眺めた。
「みんな頑張ってる……。何か私にできることはないのかな……」
ミルは呟いた。
「きっとあるよ……。ミルは私の知らないことをいっぱい知ってるから。アランさんを救う方法もその中にあるのかも。ねえ、私のことは良いからニーナさんを手伝ってあげて」
リンカが言った。
「でも……」
「私は大丈夫だから……。行って。みんなを救って。もうこれ以上エリオさんやアランさんみたいに誰かを失いたくないなら」
リンカは悲しそうな顔で言った。
「…………うん。分かった。リンカちゃん、死なないでね」
ミルはそう言うと、リンカは黙って頷いた。
そしてミルはニーナの元へ近づいていった。
「ニーナちゃん。アランさんを生き返らせるってどうやるの?」
ミルがニーナに聞いた。
「アランは人間の魂を吸い取る魔剣によって殺された。サイファーが何もしていないならまだその魔剣の中に彼の魂が残っているはず」
ニーナは答える。
「でも体はどこに?」
「体はもうない……。サイファーが焼いてしまった。だから困っている」
「そうなんだ……」
「ミル、あなたの占いで何かわかる?」
「占いで分かることはすごく限られてるんだ。しかも欲しいときに欲しい情報が出てくるとも限らない。でもね、占い師が本当に困ったときに最後の最後の手段で使う方法は一応あるんだけど……」
「それを教えて」
「でも……。それは本当に危険だよ? 下手したら誰かが死ぬかもしれない……」
「彼は命を掛けて私の事を守ってくれた。だから私も彼を助ける為なら命を掛ける」
「わかった。じゃあ、教えてあげるね」
ミルはどこからか一冊の本を持ってきた。
黒く塗られたかなり分厚い本で、表紙には禍々しい表情をした男の顔が彫られていた。
「これ」
「これは?」
「悪魔の召喚術の本だよ」
「悪魔?」
「そう。占い師はブラックウォールの事を悪魔と呼んでるんだ。その悪魔を召喚するの」
「召喚ってどうやって?」
「ブラックウォールの中にはね、これまでに飲み込まれてしまった数多の動物たちの魂が眠っているの。だからそれを壁の中から引っ張り出して、その動物を介してブラックウォールの知識にアクセスするんだよ」
「動物を……?」
「そうだよ。ブラックウォールは無限の知識を持ってる。その中にはもしかしたらアランさんを助ける方法があるかもしれない」
「それは期待できる」
「でも、それにはブラックウォールの近くまで行かなきゃいけないんだけど……」
ミルは困った表情をした。
「大丈夫。1つ方法がある」
ニーナは自信満々に言った。
「ミル……」
2人の会話を聞いていたリンカが声を掛けてきた。
「ブラックウォールのところまで行くなら、私の家に一度寄ってくれる……?」
「そっか! 分かった。弟くんの事だね」
リンカは頷いた。
「ちゃんと見てくる。あなたはゆっくり眠っていて」
ニーナが言った。
「ニーナさん、ありがとうございます」
「でも、ブラックウォールの傍まで行く方法ってなに?」
ミルが聞いた。
「これ」
ニーナはそう言ってビビエルのベルトを取り出した。
「それって?」
「ビビエルが改造した。これを使えばリリィのように高速移動できるようになる」
「すご~い」
ミルは小さく拍手をした。




